TARGET 5 Sランクと下段ランクの差
【10】
「お前には、特に恨みなんかねェけどよォ……?俺に力を与えてくれた奴の命令だからよォ……………スイッチ・オン!!《暗黒と死の軌道》」
宮島は、リミテッド・スイッチを押し、瞬時に薙刀を顕現させて代智の目の前に乗り込んだ。
「なん……だよ……その、スイッチは………スイッチ・オン!!《雷を伝えし大鎌》」
代智は、危機感を察知し、シヴィック・スイッチを押す。
「なんだよ……テメェ、Dランクのスイッチなんかで、俺のSランクは潰せねェぞォォォ!!」
「Sランク……………本当に実在してたのか……」
相手がSランクスイッチに対して俺は、Dランクスイッチ。
Sランクがどれほどの力を持っているかは不明だが、格差がかなりあるのは剣を交えなくとも伝わってくる。
「でも、やってみなきゃ、わからんか……」
代智は、雷を纏わせた大鎌を顕現させ、宮島の薙刀と交えた。
その瞬間、代智の予想を凌駕する事が起こる。
完全消滅。
通常ならバトルで使えなくなったスイッチは武器の形を失い、元のスイッチに戻るのだが、ロストとは、そのまんまの意味でスイッチごと破壊されることを指す。
それほどの力をSランクのスイッチは持っているということだ。
「たかが、Dランクだ……お前には、勝ち目なんてねェェェ!!」
宮島は、薙刀を止めることなく、代智に刃を向く。
斬って、斬って、斬り倒す。
標的が再起不能になるまで。
「……勝ち目がないかどうかなんて、最後までやってみないとわからないもんだぜ?スイッチ・オン!《白狼の剣》!!」
一か八か、自分の持っているスイッチの中で、一番の攻撃力を持つスイッチを使用するしかない。
だが、それでもCランク。
到底、Sランクには勝機は薄い。
それでも、目の前の状況を目撃しておいて、逃げるなんてできるわけがない。
「まったく、勝ち目の無いバトルだってのに諦めの悪い奴だなァ」
「そのせいで、友達とも何百回もスイッチバトルしてきたもんでね」
代智が駆け出す。
瞬時に宮島も駆け出す。
薙刀と剣がぶつかり合い、火花が散り、つばぜり合いが始まる。
「…………かかったな……【狼の遠吠え】」
「あぁ?」
《白狼の剣》のスキルは、つばぜり合いをした時にもってこいのモノである。
相手の武器と交わっている時、武器を通して持ち主の脳に直接、狼の遠吠えが聞こえるというスキルだ。それだけでは弱そうに見えるが、遠吠えを聞いたものには色々な症状が見られるから実は強かっりもする。
頭痛に目眩、吐き気、強烈な耳鳴りなどがあるが全てランダムなのが欠点なのだ。
そして、必ずしも症状が一つだけとは限らないのだ。
「鳴き叫べ……!!」
代智が呟いた瞬間、宮島の表情は一変した。
「そう、かァ……なるほど、な……………そういう狙いだったか」
どうやら、予想は的中しているみたいだ。
そもそも、Sランクの武器と渡り合うなんて考えが間違えなんだ。
武器が強くても、人間は人間。
所詮は、人間にダイレクトに攻撃してしまえば勝機はいくらでもあるというわけだ。
「アンタがSランクに勝てる訳が無いだとかほざくってんなら、この俺が、下段ランクで……アンタを完膚無きまでに叩き潰してやるよ。」
代智が笑みを浮かべると、宮島もつられるかのように笑みを浮かべた。
先に動いたのは、宮島だった。
代智は、その動きを見て、攻撃を受ける構えをとったが、宮島は急にフラついて動きを止めた。
「チッ、目眩ってのは厄介だなクソがッ!!」
予想以上にスキルの効果が効いてるみたいだ。
これならチャンスは……ある。
「そっちが来ないならこっちから行くぞ」
ただ、真正面から突っ込んでも薙刀で攻撃を止められる。
背後からなら可能性はあるが気づかれるだろう。
両サイドも意味が無い。
「それなら上から行くしかないか、な」
宮島の正面に立ち、剣を振りかざす。
当然のごとく、薙刀で止められるが、それだけで十分。
薙刀で攻撃を止めたことにより、脚の部分はがら空きになっているからな。
そして、代智は宮島の左足に自分の右足を引っ掛け、体制を崩させた。
宮島が体制を崩すと同時に代智は、宮島の肩に足をかけて、跳び上がる。
「こういう時に無駄な運動神経が役に立つんだよな!!」
そのまま、宮島をめがけて落下する。
だが、考えは甘すぎた。
代智は、一つ忘れていたことがある。
まだ、宮島は技すら使っていないっということを。
「 残念だったなァ……!!【永遠の一撃乱舞】」
「これは……!!」
おそらく、これがあの男を殺した技だろう。
直感でわかる。
くらえば死ぬと。
代智が着地した所に、魔法陣が現れる。
「くらえ……」
零距離。即死は免れない。
だが、推測が正しければ………もしかしたら………………。
【11】
魔法陣から無数の巨大な針が現れ、対象に突き刺さる。
宮島も対象が死んだであろうと確信していた。
だが、その確信はすぐに間違いであったのだと認知することになる。
なぜなら、対象であった坂崎 代智は死んでおらず、立っているからだ。
「やっぱり……そういうことか…………」
代智は、呟く。
勝機は確実にあるとでも言うかの表情で。
「なんで、なんでだよォォオ。なんで、テメェが立っていられるんだよ……」
「単に避けただけだぞ」
答え合せをするならこうだ。
まず、魔法陣から巨大な針が出現する前に、Eランクの《黒鉄球》という黒い巨大な鉄球を出現させるだけのスイッチを使った。
無数の針が出現するのは魔法陣の範囲内というのは見ればなんとなく察しがついたから魔法陣を多い尽くすだけの《黒鉄球》を使用することにより、巨大な針から身を守ったっというわけだ。
全て針で破壊される前に《黒鉄球》に登り、跳んで範囲外に出たから無事だったのだ。
「無茶な作戦だったから、多少の怪我は問題無い、かな」
それでも何本かは刺さったり、掠ったから無傷というわけにはいかなかった。
「あぁ、認めてやるよォ……お前は強い。だが、俺には勝てねェ!!」
再度、薙刀と剣が交わる。
ひしひしと伝わってくる。本気で殺しにかかってきてると。
だが、ここまできたら勝たなければならない。
「力に溺れる事が一番の恐怖なんだ……人は力を手にすればするほど優しさを忘れ、欲望に押しつぶされる………今、目の前の奴が、そんな状況に陥ってるんだ……だから、アンタは俺が止めてやるよ!!」
「余計なお世話なこった……他人のテメェに何もできやしねェ!!」
ぶつかり合う。言葉でも、武器でも。
互いに全てを出し切るつもりで。
「うりゃァァァァァ!!」
宮島が、力を振り絞り、代智の《白狼の剣》を実態消滅させる。
「くっ………」
「これで、終わりにしてやるよォ……【神撃の不滅槍投】」
突如、宮島の背後から黒炎の巨人が現れる。
巨人が手に持っている巨人の倍のデカさの槍を代智めがけて投げる。
轟音と共に、こちらへ向かってくる槍を見て代智は不安混じりの笑みを浮かべる。
「一か八か……やるしかねェェ!!スイッチ・オン《完全なる防御》」
Sランクの技をCランク最高の防御力を持つ盾で守りを固める。
盾に思いっきりぶつかり、圧力を掛ける槍。
一瞬でも力を抜けば、盾は突き破られ、即死。
だが、逆に言えば、これさえ防げば勝てる。
「殺れェェェェエ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
耐えろ、耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。
想うことはその一点だった。
そして、先に力が尽きたのは――――
盾だった。
【12】
盾は破れ、俺は死んだのだと思った。
だが、現実はそうじゃなかった。
目の前に立つ、人間を見て、そう確信した。
「な、なんで……アンタが………?」
「なん、ですか…………?勝手に殺さないでくださいよ………………そもそも、そこの宮島隆介に殺されるのは私だけなんですから……勝手に殺されそうになってるんじゃ、ねぇぞ……ガキ!!」
目の前に立っていたのは、殺されたと思っていた土田の姿だった。
身体全体が血だらけで、服もボロボロ。
そして、身体のど真ん中に突き刺さる、巨大な槍。
代智に飛びかかったのは、鮮血。
なぜ、自分を助けてくれたのかはわからない。
だが、一つだけわかることはある。
この、男にも貫きたい想いがあるのだと。
それなら、男の為にも青年を止めなければならない。なんとしてでも。
「ありがとな、アンタ……俺がアイツを止めるから、よ」
「フンッ…………私はアンタではない。土田和真だ……よく、覚えておけ……」
「あぁ、わかったよ」
代智は、そっと歩き、土田を通り過ぎる。
その時、土田は倒れる。
振り向かずに、ただ、前にいる青年めがけて歩く。
次第に歩く速度が上がり、宮島の前に立つ。
「邪魔者が出しゃばってきやがったが、続きをしようぜ……」
「………………スイッチ・オン」
代智が、Eランクの《不死鳥の翼剣》を顕現させる。
Eランクらしからぬ風貌の剣にしてEランク最強の武器と言われた代物。
過去に一度も使ったことのないスイッチであり、切り札でもある。
「イイねぇ…………その目ェ……」
宮島が、飛びかかり、薙刀を縦横無尽に振り回す。
目にも止まらない速さで。
だが、代智は全て弾き返す。
むしろ、追撃をしている。
「そんなもんかよ……?Sランクはそんなもんなのかよォォォオ!!」
代智の追撃は、止まる気配すら感じられないほどの速さで斬りつける。
Eランクだから、人に切り傷などは与えられないが、疲労や多少の打撲なら与えられる。
それ故に、迷いなく追撃ができる。
「うぁぁぁぁあ!!」
宮島の叫び声が耳に入ってくるが、そんなものは無視。
今は、速く、速く、速く斬る。
「アンタの力は、偽物だぁぁぁ!!【運命と災厄の一撃】」
追撃は、みるみる加速し、動きが止まることがなく、確実に宮島に叩き込む。
相手に『動く』という行為をさせないかのように一発一発をぶつける。
「終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
そして、最後に渾身の一撃を宮島に浴びせた――――
【13】
《暗黒と死の軌道》は実態消滅し、宮島は倒れていた。
代智もスイッチを解除していた。
何もかもが終わった後の静けさに耳を傾けていた。
「なぁ、アンタ……」
「あぁ?なんだよ…………」
倒れた宮島に代智は話しかけた。
「この、Sランクのスイッチぶっ壊して良い?」
「はぁ?…………まぁ、俺は負けたわけだし、勝手にしろよ」
その言葉を聞き、持っていたSランクのスイッチを足元に落とし、そのまま踏み潰した。
先程、土田の意識を確認したが、かろうじて息はしていた。
身体にできたデカい槍の痕や他の傷は宮島の回復型の杖で治療したから死に別上は無いと思う。
「救急車遅くね……?」
「んなこと、知らねェわ……」
周りにはたくさんのギャラリーがいるものの誰も救急車呼んでくれなかった為、渋々、自分で連絡したのだが、来るのが遅い。
「ところで、Sランクのスイッチは誰からもらったんだ?」
「…………悪いが、それは言えねェ」
「あっそ」
だが、相手は俺を殺すように指示したのは間違いない。
いずれ出会うことになるし、追求はしないことにした。
代智が空を眺めていると、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
ひとまず、自分の危機と宮島が力に溺れるのことを防げたのだから良いとしよう。
「本当に長い一日だった…………」
そう呟きながら、代智は大の字に倒れたのであった。