TARGET 4 リミテッド・スイッチ
【7】
「どこだ……どこだどこだどこだァァア!!」
青年……宮島 隆介は二人の男を探していた。一人は、先ほどボロ負けした借金取りの男、一人は、負けた自分に話しかけてきた青年だ。
借金取りの男は俺が今一番殺したい人間だが、坂崎とかいう青年は先ほど会った白髪の男、シャルデアーク=ベネディクトにスイッチバトルを仕掛けろと命じられたから渋々、捜してる。
「俺は、誰にも負けない…………この、リミテッド・スイッチがある限りなァ……………」
手に持ってるSランクのスイッチを見つめながらそう呟いた。
何処からともなく自信が湧いてくる。
「懲りない奴だなァ……ここまで来ると呆れを通り越して尊敬しちゃうよ」
宮島の目の前に突如、見覚えのある男が現れた。
男は口を止めることなく、続ける。
「いやー、君って人は本当に……愚かだ。そんなんだから母親も救えなかったんだよ?」
目の前に現れたを男を見て、宮島 隆介は最大の笑みを浮かべた。
「バイト……………バイト……………ないなぁ……あぁぁ」
良い条件のバイト先がないな。えっ?これどうすれば良いの?
このままでは、俺の人生がドン底へ一直線まである。
こう考えると俺って今まで何を生き甲斐にしてたんだろうね?深まる謎。
「とりあえず、帰るか……」
家に帰って……何しようかね……。
俺は仕方なく、帰路に着こうとした。
「いやぁぁぁー!!」
「あっ、あぁ、うわぁぁあ!!」
急に、男女の悲鳴が聞こえた。
声のトーンで、なんとなくわかる。この嫌な感じは………。
「なんだか、今日は暇なようで忙しいなぁ……!!」
俺は、悲鳴のする元に駆け出した。
そこで俺が目にしたものは…………。
「なっ、なんで…………」
目の前に広がるのは、無数の血しぶきの跡。
一番の衝撃は、先ほどスイッチバトルをしていた二人の姿だった。
一人は、禍々しい黒炎を放っている薙刀を持つ青年。
一人は、全身が血まみれで見るも無惨な姿をした男。
「アイツ……まさか!!」
あの青年が、男をあんな姿にしたのか?
さっき、見たバトルではあんな力は青年には無かった。
だとすれば……何らかの形で力を手に入れたというのが妥当か。
「おい。そこのテメェ!!見てねェで…さっさと……こっちに来いよォ!!」
どこか青年には余裕が無いようにも見えるし、何より人が違うような気さえした。
「なんで、こんなことを……?」
「そんなことは、テメェに関係ねェ……………さぁ、始めようぜ……殺し合いを、な……」
【8】
事の始まりは、代智が駆けつける30分ほど前。
「君は、そろそろ僕としても目障りですし、殺りますか…………」
「俺は、アンタに殺られる前に殺ってやるよォ……………」
宮島は、男の目の前にリミテッド・スイッチをかざした。
「なんだい?そのスイッチは………見たことないスイッチだなァ」
「そんなことは、どうでもいい。とっとと殺し合いしようぜ……スイッチ・オン!!《暗黒と死の軌道》!!」
スイッチを押し、黒緑色の薙刀を顕現させた。
「急かさなくても、ちゃんと殺ってやるから、焦るなよ。君にはAランクの力で捩じ伏せてあげるからね…………スイッチ・オン…《墓場の災厄》」
男……土田 和真は、杖を顕現させた。
そして、二人は音もなく、駆け出した。
先に、攻撃を仕掛けたのは、土田だった。
杖を振り回し、先端部分の刃で切り付けようとするが、宮島の薙刀のリーチが広すぎて、攻撃は全て不発に終わった。
「どうしたよォ!!さっきまでの威勢は、どこへ行った!!」
宮島は、薙刀全体に黒炎を纏わせ、乱暴に振り回す。
だが、いつものスイッチバトルとは、違う点が一つあった。
それも、通常のバトルでは、ありえないモノだった。
「なん……だ、と?なぜ、僕の身体に傷が……?」
土田の服は破れ、所々が鮮血で滲んでいる。
通常のスイッチバトルは、衝撃と疲労しか受けないのが特徴なのだが、現に宮島の攻撃で土田は皮膚が抉れている。
「これが、Sランクの力だ!!アンタのAランクなんて相手にすらならねェ!!」
「え、Sランク…だと…?まさか、存在するなんて……………ありえない……僕は認めないぞォォォ!!」
土田は叫び、杖を天に掲げ、呪術詠唱を始めた。
「滅べ、滅べ、消滅ノ時ナリ、苦シミノ中デ死滅セヨ【冥府の門】!!」
土田の背後から邪悪なオーラを漂わせる巨大な門が出現し、たちまち周りの空気は淀み、門から武装した骸骨が無数に現れる。
そして、骸骨は宮島に襲いかかろうとした。
だが、宮島は接近させることを許すこともなく、瞬時に薙刀で骸骨を全てなぎ払った。
「格差……AランクとSランクはこんなにも格差があるんだよォォ!!」
骸骨の残骸をを踏みつつ、土田の元へ近づく。
ゆっくりと、ゆっくりと。静かに。
「もう、アンタに生きる価値なんて無い。今までの行いを後悔して……死ね。」
「君、僕を殺したら……同類になるんだよ……僕みたいなクズにねェェ!!!」
土田は、確信していた。自分は、ここで殺されるのだろうと。
自分が、痛めつけた相手に殺されるのだと。
だが、自然と嫌な気はしなかった。なぜなら……………
「これはこれで展開的には面白い……………」
そして、宮島は脚を止めた。土田の目の前で。
「ここで、散れ…………【永遠の一撃乱舞】」
土田の頭上に魔法陣が現れ、数え切れないほどの巨大な針が、土田に降り注がれた。
「うぐッ!!あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!」
ものの数秒で、土田は見るに耐えない姿となった。
飛び散った鮮血、土田の身体からドクドクと流れ出る赤黒い血だまり。
普通の人なら見ていられないし、臭いで倒れてしまうのだが、宮島はそれ以上に、憎んでいた者を殺した時の快感が素晴らしい物だという想いでたくさんだった。
「さて、次は……………アイツか……………」
宮島の視線の先には、一人の青年が立っていた。
「なっ、なんで……………アイツ……まさか!!!」
驚愕に満ちた顔を見て、宮島の殺人衝動が疼いた。
「おい。そこのテメェ!!見てねェで…さっさと……こっちに来いよォ!!」
「なんで、こんなことを……?」
聞いても無駄なのをわかって聞いているのか?そもそも、人を殺めたことの理由を聞いて何ができるんだ。
「そんなことは、テメェに関係ねェ……………さぁ、始めようぜ……殺し合いを、な……」
その言葉を放った直後に宮島は、リミテッド・スイッチ取り出す
【9】
「いやー、順調に事が進んでいくねぇ」
「ですが、あの者にリミテッド・スイッチを渡して良かったのでしょうか?」
宮島と土田のスイッチバトルを近くのビルの屋上で観察していたシャルデアーク=ベネディクトと付き人のラルク=アルフォート。
「んー、性格的にあんな感じの人間ってのは欠点さえ見つけちゃえば問題にすらならないけどさ?これはあくまでダイちゃんの実力を観察するためにやってるから、あんな人間に渡しても良かったんだよ。」
「一人の人間を死に追いやってまですることですか……。」
「まぁ、問題はそこじゃないしね。ダイちゃんがどうやってSランクを翻弄するかがメインだから気にしない、気にしない。」
そう言って、シャルデアークは再び双眼鏡を手に取り、観察を再開させた。
さぁ、メインディッシュはこれからだよ――――
補足
【】技名
《》スイッチ名