TARGET 18 毒舌な看護婦
【21】
真っ暗な世界に一つの光が差し込む。
その光は、自分にどんな影響を及ぼすモノなのだろうかと考える。
自分を照らす希望となるか、それとも自分を違う道へと誘う闇となるか。
答えは、掴みとった何かによって左右される。
白色が、どんなに綺麗でもいつしか他の色に変わるように。
白は、何色にでも変わる純粋な子供のような色。
白い出れる間が、どんなに愛しく、手放せば取り戻せないモノだと。
人間もまた同じく、状況次第では変わる。
それだけは、絶対に間違ってない。
例え今日、世界が終わるとしても、俺は自分の信じた道を貫く。
それが、今の俺に残された可能性だから。
縋るモノが無い自分に唯一、許された可能性なのだから。
「うぐっ…………ぅぁ……っ」
目が覚めれば、そこに広がるのは、真っ白いモノ。
「また……また、知らない天井だ…………!?」
一週間ほど前にも見た光景をまた俺は目にしている。
遂に、俺の人生にタイムリープ現象が舞い降りたのか……?
「知らない天井だってネタを毎回やるつもりですか?顔面爆弾の坂崎代智さん」
隣、というより横に立ち、蔑んだ目で見下ろしてくる女の人。
外見は綺麗で欠点さえなければ、ただの美人さんなのにも関わらず、毒舌という最悪な欠点がある為、残念な美人さんとなってしまった女の人。
「昨日ぶりですか……?看護婦さん」
「そうですね、こう何度も顔面爆弾野郎と遭遇するとは……この暁茉白、最大の不覚です。」
相変わらず、さらっと俺を貶しやがる……。
そこで、俺は疑問に思ったことを口走る。
「そういえば、俺と一緒にいた二人ってどこにいるんです?」
「ド畜生ヤンキー宮島隆介さんと実は弟想いの馬鹿の土田和真さんなら向かい側のベッドから私を睨みつけていますねー、本当に弱そうな面構えです見てて笑みを零さないでいるのが難しいですねー」
流暢に二人の悪口言っちゃう真顔な看護婦さんなんていて良いのだろうか。
「よぉ、目が覚めたか」
「あぁ、宮島……その、悪かった…………アイツに……」
託された想いを踏みにじった。
あの状況で託された想いを自分の甘さで踏みにじった。
芦谷陸希に負けた。
ただ、その事実に悔しがっているんじゃない。
「は?別に謝ることじゃねぇだろ……逆に駆けつけてくれて助かったぜ、サンキューな」
口調、表情で一瞬でわかる。
宮島隆介という男は本当に謝る必要は無いと思っている。
それどころか、駆けつけてくれたことを有難いとさえ思っている。
初めて話した時とは違って、素直な感情が伝わってくる。
「あぁ、そうだぞ。あの状況で駆けつけてくれてるとか並大抵の奴にはできなかったしな」
土田和真も俺に怒りすら覚えていないどころか感心している。
元々、根は良い二人だったのは、どこかで感じていた。
あの戦いを通して。
「でも、諦めない。絶対に……勝ってみせる」
「いや、別にそこまで決意を顕にしなくても……」
違う。
別に、二人がやられたことの復讐をしようだとか考えてるわけじゃない。
俺は………………。
「芦谷陸希自身を助ける為に、俺はアイツに勝たないといけないんだ」
「んじゃ、あの時の俺と同じ状況だってことか……アイツは」
戦って気づいた。
芦谷陸希もまた、あの時の宮島と同じ状況なんだと。
それだから、今度は、叩き潰す為に戦うんじゃない。
アイツを救うためだけに俺が動く。
【22】
望まなかった結果。
人間ならば何度も通るだろう。
俺は、それを繰り返す。
傍らで、眠り続ける妹を見つめ、自分の行いを悔やむ。
負けられないという重みを背負いながら、戦い続ける。
どんな卑怯な手を使ってでもと思っていた。
気がつけば、力に溺れていた。
人生を左右できる力に。
この重みが無ければ、昨日の戦いは、あんな結果にならなかった。
次の戦いで、全て決める。
その戦いに相応しい人間。
それは――――
妹の小さき手を握り、 決意する。
そして、最強と呼ばれる片翼の鴉、芦谷陸希は動き出す。
状況打破の為だけに。
【23】
時は、翌日の15時。
「それにしても、退院できないことには何ともできないか」
ため息混じりに呟き、病院の入口近くの大きくそびえ立つ樹木に背中を預け、缶コーヒーを口にした。
「そういえば、アイツの妹もこの病院にいるとか聞いたな」
左側に建つ建物、第二病棟を横目で見る。
第二病棟には、主に子供を集めた病棟ということになっているが、正直な所どうでもいかな。
「独りでぶつぶつと独り言ですか……ところで、坂崎代智さんの顔ってフジツボみたいな顔してますね、笑えます」
「笑えねぇよ!?フジツボみたいな顔って相当酷いよな?笑い事じゃねぇよな??」
やっぱり、この看護婦さんは苦手だ。
表情が読み取れない上に毒舌すぎる。俺には勝てない、無理です。
「それはそうと、私に付き合っていただけませんか?」
「えっ……?はっ?……………………えぇぇぇぇ!?」
本当に、俺はこの看護婦さん苦手だ。
「あのー、ここは…………」
「見ての通り、遊園地ですね…………来たことないんですか?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
何がどうやったら、看護婦さんと遊園地に来るイベントが発生するんだよ。
おかしい。一体全体、おかしい。
そうか、これはドッキリか。
それなら納得……できないし、ドッキリな訳が無いか。
「それで、ここで何をするんです?」
遊園地……まさかね。
だって、毒舌美人看護婦だぜ?有り得ない。
まさか、遊びに来ただけだなんて有り得ないよな。
「勿論、遊びます。というか、アトラクション制覇します。手始めにどこに行きましょうか」
わぁー、ビンゴだー。
俺、怪我治ってないんだけどなぁ……。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おー」
いきなりジェットコースターがくるとは思ってなかった!!
アトラクション制覇って本気でやるつもりっぽいし……。
それでも、いきなりジェットコースターは有り得ないでしょ。
「ぬぉぉぉぉぉぉ!」
「わー」
よし……ジェットコースター3種制覇完了。
まだ、まだ……まだまだアトラクション制覇への道は…………。
俺、なんでこんなことしてんの?
それからは、時が流れるのが遅く感じるぐらいに長い間、アトラクションに乗りまくった。
ジェットコースター、メリーゴーランド、コーヒーカップに空中ブランコなどと多くの物を体験した。
初めて、フリーパスで遊び尽くした感はあるが、酔う。マジで酔う。
「最後は、観覧車ですか」
「というか、もう21時なんですけど……大丈夫なんです?病院。」
「大丈夫では、ありません。無断で外に連れ出しているのもありますが、面会時間も既に終わっていることですし、怒られるのは確実です……ちなみに私は病院に戻らないで帰宅するので」
もう、嫌だ。
この看護婦さん、めちゃくちゃ悪魔。
【24】
「おぉ……すげぇな」
観覧車の天辺に近づくにつれ、暗い夜の街並みの中を照らす灯り。
どんな展開であれ、この場所でこの景色を見れたのは中々良かったと思えるほどの美しさ。
「坂崎代智さん、貴方は芦谷陸希と決着をつけると申していましたが、どうなさるのです?」
「えっ?あぁ、勿論、真正面にぶつかるしかないかなーって」
我ながら、頭の悪い考え方だってのはわかってる。
それでも、作戦とか立てたところで無意味なのもわかってる。
俺は、ただ、芦谷陸希を救うという目標だけを持って戦えば良いと思ってる。
だから、勝算なんて全く無い。
「まぁ、その辺は、どうでもいいです。私は、このスイッチを渡すという目的さえクリアすれば関係ないことですから」
暁の手から受け渡されたのは、Sの紋章が刻まれているリミテッド・スイッチだった。
「Sランク……この前から疑問に思ってたけどさ…………看護婦さんって何者?」
観覧車が頂上に到達する。
暁は、観覧車からの景色を眺め、ポツリと呟く。
「私は、暁茉白ですよ」
「あ、うん」
まぁ、そうなるのは予想してたよ。
「スイッチ・オン……《天使の回復杖》」
「うぉぉあぁぁいっ!?」
一瞬の隙に、スイッチを押しやがった……。
でも、どうしても敵意が見えない。
それじゃ……?
「芦谷陸希と戦うというのにその怪我は邪魔です……【天の幸】」
身体にじわりじわりという感覚が伝わり、痛みのあった場所から痛みは消えていくのがわかる。
目の前の看護婦さん、暁茉白に回復系統の技を使われた。
「……意外だな…………看護婦さんがそんなことするなんて」
「看護婦ですから、当然のことをしただけですよ。それはそうと答えは決まってるんですか?」
観覧車に乗っていられる時間は終を迎える。
元より答えは決まっていた。
だから、俺は今更聞くことか?と言わんばかりの態度で笑みを浮かべ、暁茉白に告げる。
「当たり前だろ?俺は、アイツを救う。答えなんて最初から変わってねぇ!!」
そこでやっと、暁は無表情を止め、笑みを浮かべる。
「そんな大声で言わなくても聞こえますよ、自己犠牲顔面フジツボの坂崎代智さん」
「あー、毒舌なのは変わらないのね…………」
看護婦さんは、最初から俺を元気付ける為に誘ってくれたのかもしれない。
こればかりは感謝しないとな。
「さぁ、行きますか」
観覧車から出て、俺は看護婦さんに別れを告げ、園内を走る。
いち早く、芦谷陸希を救いたいがために走る。
さて、弱い最強を救いに行こうじゃねぇか――――――――




