TARGET 17 希望となる光
【18】
意識が朦朧とする中、霞んだ視界に映る男の姿。
姿が見えた瞬間、宮島は嬉しさのあまり、口元が緩む。
「任…せた……ぞ」
精一杯、声を出し託す。
次第に遠のいて行く意識の中、希望を託し、目を閉じる。
「おう、任された」
たった一言で、男は最強に喧嘩を売った。
そこに勝ち目があろうと無かろうとも。
立ち上がるには十分な理由となった。
最強、芦谷陸希によって演出された地獄の中に差し込む光のように現れた男、坂崎代智。
「任された以上、ちゃんとやらねぇとな……!!」
「坂崎…代智………お前と戦うことになるなんてな…………」
両者共に、睨み合う。
砂煙が完全に消えた瞬間、芦谷陸希による黒い羽が吹き荒れる。
無数の羽が舞い、鋭く尖った羽は容赦なく代智に向かう。
「スイッチ・オン……《天空による侵略》」
だが、代智は負けじとBランクの蒼く輝く片手剣を顕現させ、黒き羽をなぎ払う。
それでも次々と向かってくる羽の数は増える一方だったが、代智は着実と前へ、芦谷陸希の元へ歩んで行く。
羽をなぎ払いながら、一歩一歩、確実に脚を動かす。
「片翼の鴉だとか、最強だとか、そんなもんはどうでもいい……俺は芦谷陸希……お前自身に問う」
お前は、何のために、誰の為に戦っているんだ―――――――
【19】
「ラルク……シャルデアーク様は、どちらへ?」
「例のスイッチの作成だ」
暁とラルクは、荒れる商店街を近くの店の残骸からこっそりと眺めていた。
「確かフェイズ3の決行は、一週間後でしたか」
「あぁ、そうだ……一週間以内にアレは可能か?」
暁は、そっと目を閉じ、これから起こる事を思い、ニヤリと笑みを浮かべる。
「その為に、私にあんな事をさせたんですよね……忠告だなんて商に合わなすぎです」
「それもそうか…………では、先に戻っているぞ………」
ラルク=アルフォートは、暁に背を向け、商店街の残骸を踏みつぶしながら、立ち去る。
その背中は、暁の目には酷く、どす黒い想いを持つ者の印象を植え付けさせるように映った。
「さて、忠告したのにも関わらず、芦谷陸希に戦いを挑んだ、馬鹿で物知らずな顔面偏差値15の坂崎代智さんは、どう戦いますか?」
目線の先にいる、男を見ながら、暁は無表情を保ちながら、どこか楽しそうな口調で呟いた。
【20】
「俺の……戦う理由…………」
唐突に問われた事に戸惑い、動きを止める芦谷陸希。
何のために、誰のために戦うのか問われたのは、初めてだった。
だが、答えは決まっていた。
たった一つの理由。
「俺が、戦う理由は一つだ…妹のため……妹を救うために戦ってんだ…………!!」
「なら、その想いを……思いっきりぶつけてこいよ」
瞬間、一帯に緊張感が迸る。
ピリピリと肌に伝ってくる。
二人同時に、駆け出し、武器を交える。
足元に散らばるガラスの破片を踏みしめ、力を込める。
武器から伝わる互いの覇気。
「今の状況だと……お前が負けるのは時間の問題だ!!」
「それは、やってみねぇとわかんねぇぞ……!!」
剣と刃が擦れ合い、火花が散る。
「A~Bランクの特徴は何だったかな?」
「初期使用時に形状、性能を要求したとおりの武器となる…まさか……!?」
代智は、憎たらしい笑みを浮かべ、そのまさかだと呟き、剣を振りかざす。
「この《天空による侵略》は、片手剣固定型だが、能力は桁外れの力を持ってる」
占いの館❮皐月❯にて購入したBランクのスイッチ。
Bランクの中でも、稀少価値とも呼ばれるほどの強さを誇る。
その能力は、相手が強ければ強いほど、有効となる。
「切り裂け……!!【|黒き羽の旋風(ダーク・フェザーゲイル】」
再度、籠手から無数の黒い羽が発射され、代智を切り付けようとする。
だが、代智は笑った。
「かかったな…………【完全なる侵略】」
突然、目の前を飛び交う黒い羽は、スピードを失い、下に落下する。
能力をかき消す力。
能力を無効化する力。
代智が使った能力は、この二つに該当しない。
「武器を侵略する力…………武器による技、能力を使用した場合に発揮する能力だ」
スイッチにより顕現された武器の能力または、技が使用された場合に攻撃を無効化する力。
実際は無効化とは違い、武器を侵略する力だ。
侵略というより、乗っ取ると言った方がわかりやすいだろう。
効果自体は武器の能力を一切使うことができなくなる。
「まずは、お前の武器……封じたぜ」
「甘く見られたもんだな……!!」
瞬間、落下したはずの黒い羽が、地面を這いながら代智の元へと進む。
そして、代智の足元から天井へと上に駆け上げる。
服や皮膚を切り裂く。
一つ一つの攻撃は大したダメージにはならないが、圧倒的な量の羽を前にしては、無数のダメージが蓄積される。
「スイッチの真の力は、その程度の能力の前では無意味だ」
「スイッチの……真の力…………なんだそれ……?」
真の力を使うことにより、通常のスイッチの力を遥かに凌駕する。
「お前は、俺を超えられない……!!」
芦谷陸希は、宣言する。
かざした腕からは、無数の黒い羽が舞い、辺りから薄黒い竜巻が浮き上がる。
一瞬にして、地獄が甦る。
看板やゴミなどが飛び交い、代智に身動きが取れなくなるほどの風圧が押し寄せた。
「超えられる超えられないは、関係ねェんだよ…………!!」
吹き荒れる中、代智は無理に腕を捻り、スイッチを解除し、紡から受け取ったスイッチに取り替える。
「スイッチ・オン!《重力完全操作》」
瞬間、光に包み込まれ、代智の右手に青く、黒いフィンガーレスグローブが装着された。
だが、竜巻は勢いを止めることを知らぬかのように迫り来る。
次々と倒壊していく商店街。
それでも、代智は右腕を上げ、冷静に一言放つ。
「…………“堕ちろ”」
刹那、代智の右腕は振りかざされ、竜巻に黒い羽がかき消される。
代智は狙いをさらに定め、再度放つ。
「“這い蹲れ”」
そして、芦谷陸希の身体は抵抗する間もなく、地面へとぶつかる。
強制力。
「重力が……俺だけ………ない…だと…?」
《重力完全操作》。
紡から受け渡されたスイッチ。
そのランクは、売られているものの中では、トップのAランク。
攻撃型ではないものの、その力は使い方によっては最強レベル。
重力を完全操作することができるのが最大の特徴だが、これはあくまで初期状態での能力だ。
AランクもBランクと同様のクレイム・スイッチ。
クレイム・スイッチは、使用者の要求した形、能力をそのまま具現させる物だ。
この《重力完全操作》は、まだ能力を設定されていない不完全型なのだ。
そして、代智が要求した能力は…………
「一部に狙いを定めることによって、特定のモノのみの重力を操る能力を追加させることによって、操れない重力は皆無だ……!!」
「お前……まさか…………!?」
芦谷陸希の脳裏に浮かぶ、言葉。
シャルデアークが口にしていたターゲットの名前。
芦谷陸希の予感は的中していた。
それだからこそ、芦谷陸希には、勝算が立てることができた。
「そう言うことか…………なら、話が早い……」
代智に気づかれない程度の声を出し、能力を使う準備に入る。
「お前にも、守りたい人がいるだろ……?こんなところで道草食っているわけにもいかないだろ……」
代智はスイッチを解除し、重力を元に戻しながら、芦谷陸希に近づく。
そして、そっと手を差し伸べる。
その手は、多くの者に希望を掴ませるような温かみのあるものだった。
だが、芦谷陸希の答えは違った。
(シャルデアークが言うには、お前の弱点は…………)
掴んだ手で、立ち上がり、一瞬の隙を着くように籠手が装着されている右手を代智の腹部にそっと当てる。
「お前は……人に甘すぎる…………敵にも甘いとは思っても見なかったがな……!!【解放する漆黒の嵐】」
零距離。
腹部に思いっきり、黒き嵐をぶつける。
瞬時に代智の腹部に風圧による強烈な痛みが走り、吐血。
鎌鼬のように、所々が切れ、一瞬にして紅く染まった。
「ぉ……お前…………な、ん……で」
「お前と俺とで、戦う理由の重みが違う…………逆に問う」
――――お前こそ、何の為に、誰の為に、戦っているんだ。
代智は、その問いに答える間もなく、荒れ果てた商店街内で倒れる。
最強が希望を打ち砕く。




