TARGET 13 スイッチの力
【7】
王の力の片鱗を手に入れた者は、それだけで人を捨てることになる。 片鱗といえど、強大な力であることには変わりなく、操るには人の理を犯しなければならない。
それほどまでに人に影響を及ぼす代物。
それを超える力を持つのが禁断の果実。
掴みとった者には、王の権利を言い渡される。
かつて、禁断の果実を掴み取り、王になったものがいる。
そして、現在も王として君臨している。
その名は――――
【8】
宮島と土田の元に現れた男、芦谷陸希は左手で持ったスイッチを目の前にかざし、5本の指で同時にボタンを押す。
「スイッチ・オン………《天界に集いし鴉の群れ》……アンタらが知ってる事を全て聞かせてもらおうか」
芦谷は、Aランクの武器の黒細い長剣を顕現させる。
怯まずに、宮島と土田もスイッチをかざし、ボタンを押す。
「「スイッチ・オン!!」」
宮島は、以前から使っていたBランクの《星刻の迫撃龍》を使い、片手斧を。
土田も以前から使っていたBランクの《蝶の惑わしき鎖》 の長い鎖を。
三人がスイッチより武器を顕現させ終わり、その場に緊張感が走る。
瞬間、三人が同時に駆け出す。
先手をとったのは、土田だった。
商店街の中にある、鉄柱などのあらゆる所に鎖を張り巡らし、芦谷陸希の身動きを封じた。
その動きに合わせるかのように、宮島は芦谷陸希に向かって片手斧を振りかざす。
兄弟だからこそ、なせるコンビネーション。
兄は、弟の手本になれるようにと。
弟は、兄に追いつきたい一心で。
互い、認められたくて。
目の前の敵に、刃を向けた。
迷いを振り切り、一閃に想いを込め、放つ。
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
宮島には、以前とは違う何かがあった。
宮島の脳裏に浮かぶ、一人の男の姿。
力に溺れかけた自分を救った男。
もう一度、坂崎 代智と本当の力をぶつけたいという想いがあった。
だから、その為には、こんなところで負けてられない。
宮島には、以前とは違い、戦う理由を見出していた。
「どんな小細工でも、俺には通用しない……今のアンタらなら、尚更な…」
そんな宮島の一撃を身動きが封じられたはずの芦谷陸希は長剣で、受け止めていた。
それも、軽々しく。
「アンタらは、スイッチの力の本質を何もわかってねェ……それじゃ、俺には勝てない…………スイッチ・オン……《猛威を振るう鴉》」
先程まで使っていたスイッチを解除し、違うスイッチに取り替える芦谷陸希。
その時、二人は、確信していた。
目の前の男は、他とは違う強さを持っている
そもそも、力と想いの度合いが桁外れだということも。
「でも、あの白髪頭に比べりゃあ、どうってことないだろ」
「あぁ、アイツは次元は違うが、お前は手に届きそうなぐらいの力だ」
二人は、ニヤリと笑みを浮かべ、走る。
鎖を断ち切り、芦谷陸希は自由になり、走り迫る二人の攻撃を待ち構えた。
縦横無尽に振り荒れる、宮島の片手斧。
鎖を張り巡らせ、瞬間移動を可能にし、徐々に距離を詰めてくる土田。
他が見れば、二人の方が圧倒しているように見えるかもしれない。
だが、芦谷陸希は違った。
二人の動きが、全て見きっていた。
動きが遅く見える。
それが、スイッチの本当の力。
武器のモチーフとなったものの本質を理解し、最大限に引き出すことができる使用者の時のみに発動させることができる力。
「見せてやるよ………【目覚めよ】!!」
芦谷陸希は、詠唱を唱える。
刹那、身体に痛みが走り、徐々に徐々に熱くなる。
一時的に人の域を超える。
全身の水分が、沸騰するかのように沸き上がる力。
次第に、芦谷陸希の身体は邪悪な黒炎に包み込まれる。
籠手の形状が変化し、使用者の纏う雰囲気が一変する。
黒炎から解き放たれ、現れる。
片翼の鴉と呼ばれる最強のスイッチ使いの真の姿が。
【9】
カラスは、鳥類の中でも唯一の人間に似ている脳構造を持つ。
故に、学習能力と状況判断能力などを持ち合わせる。
芦谷陸希が片翼の鴉と呼ばれるようになった本当の理由は、カラスの能力そのものを持ち合わせるからである。
芦谷陸希の扱う《猛威を振るう鴉》は、知能がある。
つまりは、学習能力も状況判断能力は勿論のこと、記憶力も持ち合わせている。
一度破られた事は二度と使わない。
その上、カラス特有の情報伝達能力を持つため、使用者と脳がリンクされている。
故に、最強。
まさに、芦谷陸希はスイッチを使いこなすことによって、カラスそのものの力を手にした。
「聞いてねぇぞ………なんだよ、このオーラ………」
土田は、呟く。
先ほどまで、相手をしていた者の雰囲気が一変したことにより、恐怖感を覚える。
先日、戦った白髪頭のシャルデアーク=ベネディクトを思い出すほどの威圧感。
「何をボーッとしてるんだ……………【黒き羽の旋風】」
瞬間、芦谷陸希の籠手の横側についている、刃の形をした翼から羽が無数に、こちらへ飛び交う。
鋭く、速く。
土田は、それを鎖を振り回し、撃ち落とそうとするが、羽が鎖を断ち切り、土田の頭上へ降り注がれる。
そして、静かな商店街内で、鮮血と共に倒れる。
商店街内に小さく響く、土田が倒れ、地面にひれ伏した時の衝撃音。
その姿を目の前で目撃した宮島の脳裏に浮かんだ言葉は『絶望』の一文字だった。




