TARGET 11 片翼の鴉
【1】
昼間は人で賑わっている繁華街。
それも深夜になればあたりは静まり、人気もなくなる。
だが、今夜はいつも以上に静まっていた。
24時間やっているコンビニや漫喫、飲食店はまだしも、電灯すら灯りがついていなかった。
あまりにも不自然な静けさだった。
そんな繁華街の道路のド真ん中に、一人の男が佇んでいた。
涼しげに吹く風に髪をなびかせて、男は目の前に現れた高校生ぐらいの不良を睨む。
「おいおい、そこのオッサン……何つっ立ってんだよォ」
不良は、男に絡み、肩を触ろうとする。
男は、触られるのを避け、場所を移そうとし、歩き始める。
「何テメェ無視してんだよォォオ!!」
急に不良は怒り狂い、男に暴行を加えようとした。
単純に殴りを入れてきた。
だが、男は避けようとはしなかった。
いや、避ける必要がなかった。
なぜなら、不良の拳は目の前で止まっているからだ。
一見、脅しの類かと思うが、不良は拳を意図的に止めたわけではなかった。
拳がこれ以上動かない。
何者かの手によって拳を動かせなくなっていた。
まるで、見えないセメントに手を突っ込んで、固まってしまったような感じだ。
「て、テメェ……まさか……………片翼の鴉!?」
瞬間、不良は寒気感じると共に腰が抜け、崩れ落ちる。
「一人で、ギャーギャーうるさい……失せろ……スイッチ・オン」
男は、スイッチを押す。
瞬時に男の左腕が黒い光に包み込まれる。
そして、籠手が出現する。
全体が黒く、一言で表すならば、漆黒。
指先は鋭く尖った爪、肘には長めの刃、横側には黒い翼。
姿は、鴉そのもの。
不良は、その武装を見て、思いっきり走った。
あまりの恐怖に泣きそうにもなっていた。
それほどまでに圧倒的なオーラがあった。
走り、走り、走り続けた。
「こ、ここまで来れば……大丈夫だろ……」
不良は立ち止まり、呼吸を整える。
「逃げても、無駄だ……俺に時間を使わせたことを後悔しろ……」
いきなり、背後から男が現れ、腹を刺される。
不良は突き刺さる刃を見た直後に倒れる。
貫通。
スイッチの武器だから本当に刺されているわけではないが、身体を貫通しているという事実にショックを受け、不良は倒れたのだ。
スイッチによる攻撃は、疲労や打撲程度で済むが、相当な恐怖を植え付けることによってショック死させることもできる。
痛みがないからこそ、ショック死をさせることのリスクが低い。
倒れた不良を見下し、男……片翼の鴉と呼ばれる者は、その場を立ち去った。
【2】
「ふぅ……バイト終わった…………」
代智は、バイト先であるコンビニの裏口から出て、ため息をつく。
予想外にも先日、購入したスイッチにより手持ち金が寂しくなってしまい、貯金を崩したものの貯金すら寂しくなって、すぐにバイトを始めたのだ。
「とりあえず、紡の所に行くかー」
これまた先日、知り合った占いの館❮皐月❯の新たな店長となった望月紡という小柄な高校生とは知り合ってから毎日行っているのだが、未だに紡は緊張している様子で、なかなか打ち解けれないのが現状。
「おい、そこのお前……」
すると、後ろから声をかけられる。
代智はすぐさま振り向き、相手の顔を見る。
「んーと、何か用?」
「高塚紗っていう病院を知らないか」
高塚紗病院。
俺の住む地域で、一番デカい病院であり、先日俺が入院していた所である。
「それなら、俺が今行くところから近いから、連れてってやるよ」
「あぁ、すまないな」
男は、俺の後ろをついてくるが、会話がない。
非常に気まずい。
この空間にいることが苦痛である。
あれ?俺はなんでこんなところにいるんだっけ?
もはや、思考停止。
ただ、無言で目的地まで歩く歩く。
というか、なんか視線を感じるんだけど、単に後ろにいるからだよね?怖いなぁ。
最終的には、無言を貫いた。
話す内容なら多少はあったけれど、男の雰囲気的に、それは無となった。
「ここが、高塚紗病院だ」
「どうも」
そう言い残し、男は病院に入ろうとしたが、引き止めた。
「なぁ、ここに何の用があるんだ?」
「親族…………妹が、ここに入院してるんだ」
こんな怖い雰囲気の人でも妹を大事にするもんなんだな。
人は見た目によらずってまさにこれだよね。
目つき悪い悪人顔でも、優しい人だっているわけだし。
「そうか、妹さん……良くなると良いな…………あっ、俺は坂崎代智」
さすがにここまで干渉しておいて、名乗らないのは気分的に良くないと思い、名乗る。
すると、男は微笑し、口を小さく開ける。
「俺は、芦谷 陸希…………よろしくな」
多少、不自然な言い方ではあったが、特に意味はないだろう。
芦谷は、そのまま病院の中に入っていく。
代智も歩き出し、占いの館❮皐月❯へ足を運ばせる。
【3】
占いの館❮皐月❯
一見、ただの占いの館ではあるが、スイッチを取り扱っている店だ。
そこの店長に就任した低身長高校生の紡は、カウンターに腕を広げ、ぐにゃーんと溶けたかのようにだらけていた。
ただただ、可愛い。
「相変わらず客こないな……俺と紡しかいないって、どうよ?」
「とても、くつろぎやすい」
うん。仕事する気は無いみたいだ。
そんな姿もキュート。
妹がいるってこんな感じなのかな。
そして、代智は思い出したかのように呟く。
「そう言えば、さっき会った芦谷陸希って奴には妹がいるんだっけ」
その言葉に反応してか、だらけていた紡は勢い良く起き上がり、驚いたような顔をしていた。
「うぉっ、いきなり、どうしたんだよ!?」
紡は、俺に顔を近づけて、言う。
「その人には、近づかないで……見かけても無視して……?」
そう、言い残して紡は、カウンターに寝そべる。
すぐに寝息が聞こえてくる。
言われたことは衝撃的かもしれないが、彼女の顔がすごく近かったから今は気にしないでおこう。
この出会いが、後に災厄を呼び寄せることになるとはこの時、誰も知るよしもなかった。
運命の時計塔の針は進んでゆく――――




