4話目、とある日
僕の名前は石橋祐一。天使と悪魔の血を引き継ぎ、108の特殊能力と316の宿命を背負った、そんなどこにでもいる普通の高校生。
さてはて、今日はそんな気分なので昔話でもしたいと思う。漠然と天使と悪魔の血を継ぐどこにでもいる普通の高校生と言っているが実は転生や生まれ変わりと言った方が近いかもしれない。だが、本来生まれ変わりや転生ならば「誰か」の生まれ変わりとなるのだろうが、僕にはその「誰か」となる人物が二人いる。同時期に存在していたし、二人が体験した事、思った事、全てを覚えているので、強いていえば天使と悪魔の魂が融合して転生して能力や記憶を引き継いでいる者。なんだけど、それだと長ったらしいしわかりにくいので、天使と悪魔の血を引き継い者と言っている。
なので、僕にはその時の記憶なんかが残っている。で、今回はその話。
それが過去なのか未来なのか、ここと同じ空間なのか別の空間なのかそれすらわからない。ただ、辺境の地で悪魔軍を指揮する、二つの歪んだ角と真っ赤な目が特徴の大男が自分だという事だけはわかっていた。その頃の彼であり自分はただただ憎んでいた。自分達を蔑み迫害した神々やその手先である天使達を。その憎しみは長らく一緒に戦ってきた友が殺された時に決定的なものとなった。そう、彼をスーパーサイヤ人に変えたのだ。
いや、すいません、嘘です。サイヤ人でも無ければカカロットでも無いし。ただ、あまりあの時の事は思い出したくないんだよね。思い出すといまだに憎しみで手が震え目の前が真っ白になる。それと同時に自分があの頃の自分のように怒りに任せて全てを破壊してしまうのではないかという恐怖に襲われる。
でもまぁ、これ以上ちゃちゃを入れても鬱陶しいだけなのでここからはもう少し真面目に話したいと思う。
怒りと憎しみにより肉体は痛みを感じなくなり、今までなら防がれていたであろう攻撃はやすやすと敵を切り裂き、どんな攻撃を受けてもひるむ事は無くなった。さすがに一人の力で戦況が大きく変わる事はなかったがそれでもわずかばかりではあるがこの地での戦況は良くなってきていたと思う。もっともあの時は敵を殺す事以外は考えてもいなかったのだが。
そしてその時は唐突に訪れた。背中からつたわる衝撃、動かなくなっていく身体、流れ落ちる自分の血。彼が最後に見たのは自分を刺した仲間のいくつもの感情が入り混じった瞳だった。何が起こったのか?何一つ理解出来ずに僕は死んでしまった。
その時は何一つ理解できなかったが今ならばわかる。怒りと憎しみは肉体の痛みを忘れさせ、やすやすと限界を超えさせたが、それ以上に心の痛みを消していたのだ。自分から見て正しいだけの我侭を本物の正義と思い込み、その正義という名の凶器で仲間の想いや心を踏みにじり続けていたのだ。
そんな事があったから自分は軽々しく能力を使おうとは思わない。能力を使えば、1週間もあれば全世界を征服できると思う。ただその先に何が待っているかと考えた時、また、他の人の痛みが理解できない人間に成り下がり、同じ失敗を繰り返してしまうのではないだろか?その思いが能力の使用を躊躇させる。まぁ、使ったところで大差ない能力なら気軽に使っちゃうけどね。
いやいや、今日はなんとなく昔の事を思い出してしまった。
ふー、テスト勉強に戻るか。