部屋と女と私
目をあけると、汚部屋だった。
え、何この汚いの。何か色々由良幻滅ー。とか、なんかそんな、キャラでもない台詞を言ってしまいぞうになった。とにかく、狭い、汚い、臭い!
これが援交女子高生の部屋か? なんか、ありえないんですけど…。玄関開けたらほのかに香る生ゴミの香りだし、水回りはかびだらけ。おまけに床にはティッシュやらカップラーメンの容器やらが仲良く共存している。物はあふれかえり、服やらノートやらが部屋の中で遊んでいた。
「どうぞ」
どうぞっておい。これのどこを歩けと? 靴も床にぎっしり置かれているので、これでは脱げもしない。玄関で明らかに挙動不審にしていると、
「ごめんね、部屋、散らかってるから」
見ればわかるわ! 突っ込みたい衝動を抑えている私。床をがさがさと漁り、道を作る楓。そこを横切る、黒い生命体。
「ゴキ出た!」
叫ぶ私、平然とそれをスリッパで攻撃する楓。一撃で仕留めたことを誇らしげに、今まさにアレを倒したブツをこちらに置く。
「はい、どうぞ!」
これ履けってかあああああ? でもここをスリッパなしで歩く勇気はない。渋々靴を脱ぐ。ここ、なんでこんなに汚いの。
「狭いけど、入って」
そう言われて通された部屋も、やはり汚い。布団とゴミが共存している。
「ごめん、片づけてる暇なくて」
部屋の前で呆然と立ち尽くしていると、言い訳を始めだした。
「私、友達とかいないからさ。人呼ばないし、勉強しなきゃだしで、このままなんだよね」
言いながら、布団を畳み始める。濃い緑の畳がちらりと見える。ああそうか。ここは和室だったのか。
「あ、これ、こんなところにあったのか」
布団の中から、見覚えのある本が現れた。数一の教科書。うちの学校でも使用しているやつだ。まさか、これで勉強を? だとしたら、私、教えられるだろうか。辺りを見渡すと、ところどころに見覚えのある教科書やら参考書やらが無造作に散らばっていた。
「ねえ、まさか、うちの学校と同じ教科書で勉強してる?」
「ああ! うん、そうそう。あんたのとこの教科書、あえて使ってるよ。なんで?」
なんでもなにもないだろう。こっちはそれで勉強「中」なのだ。教えられるレベルになんて、到底達していない。口を開きかけて、やめた。もし私が楓に勉強を教えられなければ、きっと追い返される。その上、今日働けなかった分、高額な金をむしられそうである。
「いや、見覚えがあるなって、ただそれだけ」
楓はああ、と言い、何故か照れくさそうに笑った。つられて、私も笑う。あー、これはやばいことになった。