サボタージュ
初夏の空気が心地いい。まるで私を包み込んでくれるよう。
無理矢理合格した学校は、勉強についていけなくて、二限目からさぼった。毎日通う駅前には、ちらほら私のように学校をさぼった学生服の子達の姿が見える。
これからどうしようか。辺りを見渡すが、いつもながらに殺風景な駅前だ。母はまだ勤務中だし、兄はどうせ自室から出てこないだろう。家に帰って久々のDVD鑑賞でもするか。
この駅前の唯一いいところは、本屋とレンタルDVD屋が一緒になったHAOがあるくらい。ここのHAOは入ったことがないので、何が置いてあるのか、前々から少し気になっていた。ここ数か月、テストやら勉強やらで息抜きをしていなかったから丁度いい。
無機質な自動ドアを抜けると、一瞬、目を疑った。私と同じ制服の子が、ド派手な頭を揺らしながら、三十代後半と思われる男と、腕を組んで歩いていた。
うちの学校は、校則が厳しい。頭を少し茶色に染めただけで、男女関係なく頭を引っ張られながら生徒指導室に連行されるし、化粧なんてしようものなら、無言で石鹸を渡され、化粧が落ちるまで教師が水道前でじっと監視される。なので、髪は黒髪が当然だし、すっぴんじゃないといけないしで、うちの学校の女子は女子高生とは言うものの、結構地味である。じゃがいもの集まりとでも言えば伝わるだろうか。とにかく、もっさい。
ところがその子は明らかに違った。髪は金髪の巻き髪、メイクはまつ毛が重そうと思われるくらいばっちりだった。学校にいたら、確実に教師に狩られる。メイクは一日で落とせるだろうが、髪色はなかなか変えられるものではない。あそこまで脱色していたら、黒髪に戻るまで何日かかることか。
思わずその子をまじまじと見ていると、視線を感じたのか、一瞬振り返り、目があった。女は、化粧で盛っているからか、なかなか端正な顔立ちをしていた。何故、あんな綺麗な子がおっさんと腕を組み、しかもこの時間にこんな場所にいるのだろう。二人を観察していると、アダルトコーナーの方向に向かっていた。二人がアダルトコーナーののれんを潜ろうとするその瞬間、体が勝手に動き出した。
「ダメ!」
思わず、女の腕を掴む。
「ここは未成年立ち入り禁止だよ! それに、こんな時間に何やってるの」
心底、自分のこの性格、というか、このめんどくさい正義感が疎ましい。なんでこんなめんどくさそうな事に足を突っ込むのか。
女はきょとんとし、男は慌てて女の腕を振りほどき逃げた。
「何してくれんの」
女は私の腕を振りほどき、睨みつけながらため息を吐く。
「折角上客になりそうだったのに」