男と女
あー、イケメン、あー。
…うん、確かに顔立ちは整っている。
昨日、楓が言っていた人物はすぐにわかった。出勤してすぐに、見かけない顔だね、もしかして、楓ちゃんの友達? と声をかけてきたから。
目鼻立ちがはっきりしていて、緩いパーマをかけている細マッチョなその男性は、ここら辺では少し有名なS大の学生だと言う。先程から、聞いてもいないのに自分の話ばかりする。
「でさ、楓ちゃんは、今度いつ来るの?」
「…はい?」
この男、楓狙い? 楓は臨時で来てもらった旨説明すると、さもつまらないと言いたげな表情になる。この人、大学三年だよな。もうすぐ就職だろうに、自分の感情を表情に出すなんて、みっともない。心の中で毒吐く大人な私は、ニコニコ愛想笑いを浮かべられているというのに。
私、いつからこうなったんだっけ? ニコニコしながらぼんやり考えるも、すぐに男の声で掻き消される。
「ねえ、楓ちゃんの連絡先教えてくれないかな?」
うっぜぇ。個人情報漏洩なんか誰がするか。笑いながら、無理です、と答える。相手に不快感を与えないよう、気をつけながら。
男は尚も食い下がりそうだったので、他の方に挨拶して来ますと言い、その場を足早に立ち去った。