頭が忙しい日
頭の中で岩のようなものががつんがつんぶつかって、散っていく。そしてまた、がつんがつんぶつかり、その音と衝撃だけが、頭の中に残る。
「由良!そろそろ起きないとやばいんじゃない?」
顔を覗き込む楓が、なんだかゆらゆらして見える。
「今何時?」
「七時半」
「やば!」
体を起こした瞬間、岩が弾けた。瞬間、のそりと前倒れに体が傾く。
「何? 二日酔い?」
「知らない。そうなの?」
呻くように発した声が、いつもより枯れている気がした。
「多分ね。由良、バイト行ける?」
「いや、行くよ。初日からサボるわけにはいかない」
「体辛くない?」
「いや、でも行くしかない」
膝に手を当て起き上がる。視界がグラつくのを生まれて初めて感じた。
「私、代わりに行ってあげようか?」
「いや、いい。行く」
体がだる重い。視界グラグラ。行く。それでも行く。何が何でも行く。食いぶち逃してたまるか。
私のハングリー精神は、楓の前では通用しなかった。楓は私のバッグから倉庫の住所のメモを抜き取り、すたこら倉庫へ行ってしまった。悲しいかな、頭がグラグラしたままで反抗出来ず。いそいそと支度を始める楓を横目にしながら、白旗を上げてしまった。
丁度そろそろ仕事が終わる時間だけど、楓は上手く乗り切ってくれただろうか。初日に体調崩すなんて、最悪。手首に傷でも作って、自分を戒めたい気分だ。それもこれも、全て酒のせい。いや、煙草のせいもあるかもしれない。まだまだ子供、ということだろうか。悔しい。
「ただいま」
楓がコンビニの袋をぶらぶらさせながら帰ってきた。
「おかえり。ごめん、どうだった?」
「…好きな人、出来たかも」
「はい?」
何言ってるの、この娘。朝、私を苦しめていた頭の岩が、この娘の頭にでもうつったんじゃなかろうか。
「…いや、うーん…」
「何があったの?」
「…いやー、それが、さ…。すごい、イケメンがいて、さ…」
「早よ言えや」
なんとも歯切れが悪くてイライラする。
「なんか、今までおっさんとしか話したことなかったからかもしれない。恋なのかとかは、したことないからわかんない。でもね、でもね、なんかとっても楽しかったの」
「何が?」
「その人と話すのが」
「それで?」
「ん、それだけだよ?」
「ごめん、全然意味わかんない。で、どうしたいわけ? 仲でも取り持てばいいの?」
頭、痒い。
「いや、それは遠慮する。そこまでの気持ちじゃない、かな? 兎に角、すごく楽しかったよ! アルバイト!」
「それは何より。明日から行けるから」
「えー、つまんなーい。あ、でも、また代わりは出来るからね」
お前は大人しく勉強をしとれ。食いぶち渡してたまるか。
なんとなく、頭の中で危険を知らせるブザーが鳴った気がした。




