7: バタークッキー
母が昔よく作ってくれたバタークッキーが今でもとても大好きだ。
母が嫁入り前に買ったのだという古いお菓子の本に載っているレシピで作るそれは、昔のレシピらしくいかにもどっしりとして素朴な味わい。
甘い方が良い、という昔の風潮に従って、レシピそのままで作ると大層甘い。
だから母はいつも砂糖を七割くらいに減らして作っていたように思う。
このクッキーは材料も工程もシンプルこの上ない。
バターを柔らかくして、砂糖をすり混ぜ、卵とバニラオイルを入れる。
最後に粉を加えて荒く一まとめにして、冷蔵庫で寝かせる。
冷蔵庫で寝かせた生地を伸ばして、母が買ってくれた様々な形の型抜きで次々と生地を抜く。
私は生地を少し薄く延ばして、焦げる寸前になるまで焼いた物が好みだった。
バターが少しだけ焦げたような、香ばしい香りがたまらない。
焼きあがった熱々も美味しいし、少し冷めてさくさくになってからも美味しい。
型抜きのクッキーは形も楽しかった。ウサギの形は耳が割れやすくて、でも可愛い。ペンギンは細身で何となく洒落ていた。アヒルはいつもくちばしが欠けやすい。花模様は桜のが好きだった。
そんなクッキーをいつも母は一度に沢山焼いて、瓶に詰めて置いておいてくれた。
瓶に詰められたそれは、しばらくの間の学校から帰ってきた後のお楽しみのおやつだ。
かぎっ子としては、家に帰って母の手作りおやつがあるというのはとても嬉しい事だった。
牛乳を入れて、クッキーを頬張って、でも食べ過ぎると夕飯が入らなくなるし、一度に食べたら勿体無いから気をつけて。
後を引くのもこのクッキーの特徴だから我慢するのは大変だ。
大人になった今も、時々妹と二人でこのクッキーを作る。
菓子作りが趣味の一つとなった私は古いレシピを自分好みに、よりサクサクで甘さ控えめ、黒糖の粒の混じったクッキーに改良している。
今作ってみると、古いレシピはクッキーというよりもタルトに使うパータ・シュクレなどの生地に近いものがある。きっと昔はそんな区別も曖昧だったのだろう。
昔はなかったそんな薀蓄やお菓子にまつわる話をスパイスにして、私達が作ったクッキーを、母と一緒に休みの日のおやつに食べる。
胃も育ったことに感謝しながら、昔は出来なかったお腹いっぱいクッキーを食べる、なんて事もこっそり挑戦してみたりした。
目下の心配事は食べた後のカロリーだけだ。昔はおやつを食べた後はよく外で遊んでいたからそんな心配なんてなかったんだけども……。
クッキーを食べたら、皆で散歩にでも行くべきだろうか?