5: 夜の鳥
夜に田舎道を散歩すると、空の上からおかしな声が聞こえる事がある。
グェ、のようなグワ、のような濁った声。
あれはゴイサギの声だと小さい頃の私に教えてくれたのは父だった。
幼い私は夜に鳥は飛べないと思っていたので驚いたが、夜目が利く鳥も居るのだとその時教えてもらった。
サギと聞いて私は、昼間田んぼでよく見かける真っ白い優美な姿を思い返したのだが、大人になってから見かけたゴイサギはその予想とは随分違う姿だったのでその時もちょっと驚いた。
単独で行動する鳥なのに、夜の中を飛びながらなぜ鳴くのだろう。少し不思議だ。
人が夜道を歩きながら心細くなって独り言を言ったり、歌を歌ったりするようなものなのだろうか?
そう考えると何となく愛らしく思える。
愛らしいものといえば、もう一つある。
私の実家のある町に、好きで良く通っていた大きな本屋があって、その前に大きな通りがある。
その通り沿いに走る電線に、夜になるとびっしりと鈴なりに小鳥が留まるのだ。泊まる、といった方が良いかもしれない。
多分種類としては椋鳥だと思う。
いつからこの場所をねぐらと決めたのか知らないが、ある夜本屋から帰ろうとしてふと上を見上げてその姿に気がついた。
何羽居るのかも数えたくないくらい沢山の鳥達が、ほとんど等間隔に電線に泊まっていた。
電線は上下に何本にも走り、それら全てにきちんと同じ間隔をあけて並ぶ鳥達。
恐らくはその間隔が彼らのパーソナルスペースという奴なのだろう。
それらがあまりにきちんと等間隔で、私の目にはまるでクリスマスの電飾のように見えた。
それ以来、夜にその本屋に行くと、帰り際に上を見て鳥の姿を確かめる。彼らは大抵季節を問わずそこで寝ている。
今は地元を離れてしまったので見る事も思い出す事も少ないが、この間帰省した時に久しぶりにそれを見かけた。
夜なお明るい街を飾る、ほの白い、けれど光らない電飾(?)は今も健在だった。
椋鳥が増えているのは困るが、こうして見かけるとやはり可愛い。
あまり数が多すぎたりすると少し気持ち悪く感じる時もあるし、糞なんかの被害も困るのだけども。
夜を飛ぶ鳥も、夜眠る鳥も、どちらも不思議な愛らしさがあるものだとしみじみ思う。
夜という、本当なら彼らがどうやって過ごしているのかわからない時間だからこそ、垣間見えるその姿により強く惹かれるのかもしれない。
どこかから鳥の声がするたび夜空を見上げるのは、今では私の癖の一つとなってしまっている。