3: 祖父という人
私がものすごく憧れるものの一つ。それが、祖父という存在。
私が生まれた時、私の二人の祖父は既に鬼籍に入っていた。
母方の祖父は母の結婚前に、父方の祖父は私が生まれる二年程前に他界した。
だからなのだろうか、私は小さな頃からおじいちゃんという存在にひっそりと憧れを持ち続けている。
母の語る祖父はハイカラな人で、昔の田舎暮らしなのに若い頃はバスケットボールをやっていた、との事だった。
古びた写真を見ると若い頃の祖父はとても格好良い。
今でも通じるようなハンサムぶりだ。
遊び好きで、新しい物が好きで、粋な人だった、と語る母の声音はいつも優しい。
浪費もしたし、人を助ける事も全く躊躇なくする人だったから家族はちょっと苦労したりもしたんだよ、と母は言うけれど、それで祖父を責める様子は少しもない。
早くに亡くなった事がとても残念だと母は言う。
私もとても残念だ。
父が語る祖父は優しい人だ。
辛抱強く、穏やかで、周りからとても慕われていたそうだ。
鉄道の駅長をしていたらしい。
戦後に今の父の実家がある場所に移り住み、私の一つ年上の従兄弟が生まれる前に亡くなった。
仏様みたいに優しい人だったよ、と母は教えてくれた。
私が生まれるまで、もうちょっとだけ待っていてくれれば良かったのにと思うととても残念だ。
そういう訳で、当然二人とは写真でしか顔を合わせた事はない。
ないけれど、私は二人の事がとても好きだ。
両親や親戚の口から語られる二人の祖父は、私の中に今もひっそりと生きている。
おかげで私は、優しく穏やかで、ちょっぴり悪戯な老人という存在が好きで好きで仕方ない。
自分で描く物語にも、ついつい色々な老人を出したくなってしまうほどだ。
父母の実家に帰って仏壇にお参りすると、傍に飾られた写真が目に入る。
おかげさまで、孫は立派な爺コンに育ちました。
そんな事を未だ見ぬ祖父に言ったら、あの世から怒られるだろうか?