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2: トカゲ


 いつからそうだったのか知らないのだけど、私は昔からトカゲが好きだった。

 暖かな日に、コンクリートの塀や庭石の上で日に当たっている姿を見るのが好きだ。

 といっても、私の住んでいた辺りで見かけたのは、茶色っぽいカナヘビという奴ばかりで見た目はそんなに綺麗ではない。

 それでもあのちょろリと長い尻尾やスマートな体、辺りを見回す仕草なんかが好きで良く眺めていた。

 そうっと手を伸ばすこともしばしばあったが、如何せん相手は素早い。

 私がある程度大きくなるまで、自分で捕まえられる事は稀だった。

 それでもどうにか小さなものを捕まえられた時は喜び勇んで母に見せに行ったものだった。

 母は良く捕まえられたねぇ、といつも褒めてくれたように記憶している。


 ところで、私の家の庭は当時山の土を入れたばかりで、土地が痩せていた。

 痩せた土地にはそういうところで生きる事の出来る草が茂り、姿を見せる生き物もある程度限られている。

 だからなのか、私は自分の家の庭でカナヘビを見たことがほとんどなかった。大抵は近所の空き地や、仲のいい友人の家で捕まえていた。

 幾つの頃だったか、もうある程度大きくなった小学生の頃だったと思う。

 友人の家にはカナヘビが沢山いるのが羨ましかった私は、友人に頼んで彼女の家の庭にいるカナヘビを何匹か連れ帰る事にした。

 雌雄の区別もつかないから、とりあえず目に付いた不運なカナヘビを数匹捕まえ、空気穴を開けた箱に入れて大切に持ち帰り、そっと庭に放した。うちの庭はコオロギやバッタなどの虫は沢山いるので大丈夫だろうと思ったのだ。


 そのかいがあったのだろうか。

 やがて家の庭でもカナヘビがちょろちょろと草むらを歩いたり、日向ぼっこをしたりするのを見かけるようになった。一、二年経つ頃には以前より確実に数が増えていた。

 嬉しかった私はある日小さくて可愛い一匹を捕まえ、昔のように母に見せに行った。

 すると母は、「家の中に入れちゃ駄目!」と叫ぶではないか。

 私は驚いて、昔は嫌がらなかったのにどうしてかと聞いた。

 すると母はこう答えた。

「子供達が小さいうちは、親が怖がると子供がそれを嫌いになると思って何でも我慢してきたの! でもあんた達はもう大きいし、嫌わずに育ったから、お母さんもう我慢しないの!」

 なんと、母は本当は爬虫類も虫も、その多くが大嫌いだったらしい。捕まえて見せに来た私を褒めてくれたのは精一杯の母の愛による我慢だったのだ。

 そう言われてみれば、母は私が捕まえた生き物を受け取る事は決してなかった。私の頭を撫でたり褒めたりしてくれたけれど。

 私は捕まえたカナヘビの頭をそっと撫で、また庭へ返した。

 それ以来、彼らを見かけてもむやみに捕まえず、たまに懐かしくなってどうしても捕まえたくなった時でもすぐにまた離している。


 トカゲを見る度に思い出すのは母の顔。

 私が友人の家からわざわざトカゲを移住させた事は、まだ黙っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] この経験が、「僕は今すぐ前世の記憶を捨てたい」に生かされてるのですね。
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