17: バラ
バラの花が好きだ。
この花を積極的に嫌いだと言う人には今のところ会った事がない気がする。
愛されている花だなぁといつも思う。
どの部分が好きかと問われれば、香りと花の姿と言う一般的に好まれるだろう部分だと言えるだろう。
美しい姿の花だ、としみじみと思う。
どのくらい好きかと問われれば、バラ園やバラフェスタなどが行ける範囲でやっているならいきたいと思う程度には。
誰かから貰いたいと思ったことは特にないけれど、家の庭に欲しいと思う。
ただ、バラを美しく整える手間を考えるとなかなか育てる決意は湧かないのだけれど。
手がかかっているから美しいのか、美しくなる事がわかっているから手をかけるのか。
実際、花が咲いていなければ、バラは厄介な木だ。
一年中手間がかかるし、種類によっては棘も大きく、子供が遊ぶ庭に植えるには向いているとは言いがたい。
それでも多くの人が一年のほんのひと時のために沢山の労力と時間を費やしている。
育てた人にとって、咲いた時の喜びはきっとたまらないものなのだろう。
それができない私は、他人の家の庭に咲いたバラを外から静かに眺めるのみだ。
そうして花を見つめていると、胸にはいつも正体のわからない熱のような、もやのようなものが訪れる。
憧れのような、畏れのような、欲望のような、賛美のような。
目の前の花を手折り、そっと持ち帰ることができたなら消える気がする、そんな複雑な感情。
けれどそれが去った後に残るのは、目の前の花の骸に対する罪悪感だろうと言う事もわかっているのだ。
だから私は遠くからそっとバラを見つめる。
許されるならカメラを持って出かけ、写真を一枚残して。
知らない誰かの愛情と熱意の具現化したその姿はいくら見ても飽きる事はない。
いつか自分の庭を持ったなら、きっとバラを育てよう。
姿は派手でなくていいから、香りの強い種類にしよう。
花が咲いていない時期も、花の記憶が残るように。
花を愛する遺伝子があるとしたら、この花はきっとそれを強く刺激する力を持っているに違いない。
そう思わせる花が、薔薇。
いつか、私の庭に薔薇が咲く。