12: グラジオラス
見ると何となく笑顔になってしまう花が、グラジオラス。
菖蒲科の植物らしく葉も茎もすらりと細く、長く伸びた茎に縦に幾つもの花がつく。
夏に姿を見せるこの花が小さな頃からとても好きだ。
赤、白、ピンク、黄色など花の色も幾つかあるけれど、中でもオレンジ色のグラジオラスが一番良い。
そのオレンジはノウゼンカズラの色と良く似ている。サーモンピンクにもう少し橙を足したような、そんな色。
南国を思わせるこの色の花が以前からとても好きで、見るたび心惹かれる。
グラジオラスは昔、実家の庭に植えられていた事があった。
球根で育つこの花を最初に植えたのは多分母しかいないだろう。
さしたる手入れもされていない庭では、グラジオラスは毎年顔を出すわけではなかったように思う。それとも母が気まぐれに植えていたのだろうか?
その辺は今でも謎のままだが、グラジオラスが姿を見せると緑ばかりの庭が途端に少し華やかになって、とても嬉しかったのを覚えている。
緑が濃い植物が多い北の地の庭に、明るい南の色がぽつりと灯る。
葉も茎も背は高いのだがそれ以外に目立つ姿ではないので、蕾がつくまでその存在に気づく事は稀だった。蕾が顔を出すと初めて、ああ、今年は咲くのか、と気付くのだ。
その不意のプレゼントのような少しの驚きと嬉しさが、私がこの花を好きな理由の大きなところのような気がする。それと、花の盛りが意外と短いところも。
背が高いせいで傾きやすく、花も傷みやすい。風などにも弱いので育てている家はあまり見ない。
ほんの一時の逢瀬だからこそ、いつ見ても新鮮な気持ちで花を見つめる事が出来るのかもしれない。
毎年会えるとは限らない、久しぶりに会う大好きな友人のような、そんな花。
今年の夏もどうか一度くらいは彼女に会えますように。