10: お父さんのぼり
うんと小さく、体重も軽かった頃のお気に入りの遊びは「お父さんのぼり」だった。
幼いころ小柄で体重も軽かった私は畳に寝そべる父の上に乗ってもあまり重くなかった。
父と同じポーズでまるで小亀のように背中に登って、父が読んでいる新聞をその肩ごしに覗き込んだ。
新聞の中身なんてちっともわからないけれど、それだけでちょっとだけ大人気分で。
やがて乗っかるのに飽きて、父に「木になって」とせがむ。
父は笑いながら立ち上がって腰を低く落として両足でしっかりと踏ん張り、腕を肘で曲げてぐっと力を入れて突き出す。
私はその腕につかまって、踏ん張ったその膝に足をかけて、父の体によじ登る。
背中まで登っておんぶの状態になったらゴール。
もう今は父の腕も足も、あの頃の力強さはきっとない。
私の体も大きくなり、すっかり重くなってしまった。
けれどふと思い出したそんな昔の遊びをこうして書いていると、あれは本当に楽しかったな、と何だか胸が温かくなる。
世界で一本だけの大きな木に登った。
どんな玩具もその楽しさには叶わなかった。
子供にとっては、どんな玩具よりもあの腕一つあれば十分なのだと今でも私は思っている。
その大きな木は今でも、故郷で私を笑顔で待ってくれている。
次の里帰りには、何かうんと美味しい物でもお土産に買って帰ろうか。