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No.8 眠れない午前三時頃

時計の針が指し示す時間は、午前三時。

辺りはひっそりと静まり返っており、暗闇に包まれている。頼りなのは、魔法で作った光源のみ。落ち着いた光の球体が、彼の一歩前を漂っている。それでも、長い廊下の先は闇。

小さな足音は、その闇の中に吸い込まれるかのように消えていく。そして時折、鼻を啜るような音も。

その音を発している者が向かうのは、ある人の部屋。彼は、その人に叱咤されるのを承知で、部屋に行こうと決めた。こんな、真夜中に。きっと、寝ているだろう。彼でなくとも、怒るに違いない。

彼はそう思いながらも、部屋に向かう足を止めようとはしなかった。眼を、擦る。光に照らされたその眼は、少しばかり充血しているようだ。そして、腫れぼったい。鼻も赤く、頬は紅潮している。

それは、長時間泣き続けていたことを意味していた。



光源が、廊下の先に人影を映し出した。髪の長い、女性のようだ。

その様はまるで、幽霊。

その二文字が頭に過ぎった瞬間、彼は大声で叫んだ。真夜中だということも忘れて。




「ぎ、ぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「な、なにぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!?」




彼の精神が乱れたことにより、光源が跡形も無く消える。それにより、前後を判別できないほどの闇が覆う。そのせいで、彼はより一層悲鳴を上げた。

女性は彼の口を手で塞いだ後、魔法で光源を作る。数秒後、落ち着いたらしい彼が女性の手から抜け出した。




「…なんだ、幽霊じゃなくて、ノエルじゃん」


「あ、セシルだったんだ。こんな時間にここで何を?」


「ノエルこそ。ここ、ウィルの部屋の前だよ?」




そう言うと、ノエルは顔を強張らせた。そして、必死に弁解をする。

変な意味で来たわけじゃない、私は見る専門だから、というか自分がリア充になるとかwないない。

等々、早口で捲くし立てる。挙句の果てには、なぜセシルがここにいるのか、ということについての妄想が、口からだだ漏れになる始末だった。

その全てを、セシルはスルーした後、ここに来たわけを説明しようとする。

が、その前に、痛い言葉を聞くはめになった。




「あなた達ですか!!こんな夜中に大声を上げていたのは!!」


「あ、ウィル」


「ウィル!あのさ、お願いがあ……」


「非常識な時間帯に人の自室に押しかけてまでする、お願いですか」


「うん、そう。というか、今じゃないと意味が無いから……」




ウィルは溜息を吐く。それでも、"お願い"を聞くことを了承したようだ。ノエルも同じような理由で、ここに来たようだった。

ウィルは一先ず二人を部屋の中へと招き入れると、"お願い"を聞いた。




「で、なんですか?」


「えーっと、あのー、……寝れなくて」


「………は?」


「だから!…寝れないから、ウィルの部屋で一緒に寝させてもらおうかなー……?」


「…あなたは、その歳になって、まだ自立心が満足に成長していないようですね。……それで、あなたは?」


「セシルと同じでーす!」


「……ある意味セシルよりも酷いですね。あなたは、自分の性別をはっきりと認識していますか?」




その問いにノエルは、勿論、と答えた。

セシルはというと、自立心自立心、などとぶつぶつ呟いている。どうやら、自立心がどういうものなのか、よく分かっていないようだ。

ウィルはそんな二人を叱責した後、またもや長い溜息を一つ吐く。

けれどウィルは、それ以上二人を責めようとはしない。まだ続くだろうと思っていた二人は、そんなウィルの様子に拍子抜けする。




「……まぁ、あなた達が何故眠れないのかは、理解しています」


「………それは、ウィルもだから?」


「あなた達のように、見っとも無く泣いたりはしませんがね」




二人は痛い所を突かれた、というふうに顔を歪ませる。

部屋の灯りが、光源よりも強く二人の泣いた後の顔を照らし出していた。誰が見ても、一目瞭然なほどに。

大人になる直前の青年と、大人になってしばらく経つ女性。完全なる大人の男性から見ると、その二人はまだ幼かった。良い意味でも、悪い意味でも。それが少し、羨ましかったり、羨ましくなかったり。

自分よりも年下の王、そして上司。そんな二人を思うと眠れないのは、やはり世界の底辺から救い出して貰った恩からなのか。それとも、それ以外の感情か。




「…母親は死んだ、父親はいないも同然のあいつにとっては、私がたった一人の肉親だから。泣いてあげないと……」


「"あいつ"と"私"の位置が反対ですよ」


「これで合ってる!」


「レイさんとルイチは俺の命の恩人で、それから、家族なんだ。勿論、ウィルもノエルも……。…だ、から……っ」




涙がセシルの頬を伝った。それを慌てて拭うと、必死で変な笑みを浮かべるセシル。

ウィルは、あの感情が家族に向けるものだということを、セシルの言葉で気づいた。

ルイチとノエルのように血は繋がっていない。それが、形だけの泡沫であることは分かっているが、尊い存在だということに変わりは無い。

ウィルは眼鏡を掛け直すと、こう言った。




「…仕方無いですね。今晩だけですよ」





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