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No.7 弟に対する感情の希薄さ

俺は目の前の木でできた扉のノブに手を伸ばす。

その扉には、"ノエル=オルムステッド"と彫られたプレートが打ち付けてあった。

この先に姉がいる。元の世界と同じかどうかは分からないが、何故か同じような気がしていた。こういう予感は、大概当たるものだ。

もしこの中にいる俺の姉が姉貴と同じだった場合、確かに自分の不運を呪って嘆くかもしれないが、正直ちょっと嬉しいかもしれない。やっぱりあんな姉貴でも、家族愛っていうのはあるのだ。

つまりこれって、どちらに転んでも美味しいってやつ?とか思いながら、俺は扉を開けた。




「ノエルーー!!」


「あれ、セシル?」




部屋に駆け込んだセシルは、部屋の中にいた人物の名前を呼ぶ。それに応えた声に、俺は落胆した。姿を見なくても声だけで分かる。"姉貴"だってことが。

でもやっぱり同時に、嬉しさも込み上げてくる。あと、懐かしさも。この世界に来てまだ二日目だというのに、何故懐かしいのかは分からないけど。

俺は後ろにいた零矢に、アイコンタクトで部屋の中の姉が、乃恵美だということを伝える。零矢は溜息でも吐きそうな表情をした。

でも外見が姉貴と同じだとしても、中身はまだ分からない。もしかしたら、中身だけ違うくて腐ってないかも。そんな都合よくいくはずがないけど。




「………姉貴」


「?……ルイチ…!?」




俺を見てあからさまに驚いたような顔。あ、そうか。行方不明になってたんだ。

彼女は見た目は姉貴のコピーみたいなものだった。俺と同じ黒髪黒眼。腰まである髪は、軽く波打っている。結構な美人で吊り気味の黒曜石のような瞳、女にしてはやや高めの身長で、独特な雰囲気を醸し出している。所謂、アジアンビューティーってやつ?

学校ではその容姿のせいで、男女両方から人気があってモテていた。うん、細かいことは、あまり気にしない方がいい。




「あぁぁ!ルイチ、あんた生きてたんだ!!」


「…実の弟に、よくそんなことが言えたな」




今更なので、特には何も思わない。姉は萌え以外の弟への感情が希薄なのだ。いや、それには語弊がある。萌えという感情の中に、喜怒哀楽全ての感情がある、らしい。

ということを熱弁されたことがあるが、半分以上聞き流していたのであまり憶えていない。そんなことを記憶に留めて置く隙間があるなら、悪魔の序列を覚える方がよっぽどマシだ。

なんて思っていると、目の前の姉から、驚くべき言葉を聞いた。いや、もう今更だから驚かないって言えば、驚かないけど。




「もう私、ルイチとレイが報われず認められない愛に悲嘆して二人で心中したんじゃないかと、夜も眠れないほどにもうそ……じゃなくて、心配してたんだから!!」




………うん、腐女子でした。

ていうか今、妄想って言いかけた!?弟が死んだかもしれないってときに、妄想!?酷いじゃ済まされない姉だな。

それ以外にもつっこみ所が多すぎて、すでに心が折れかけたよ。なんで俺が零矢と心中しなくちゃなんないんだよ……って、俺と零矢の話じゃないか。いや、俺達の話なのか?……まどろっこしい!!

あぁ、そうだ。こんな姉だった。なんか不可思議なことが起こり過ぎて、すっかり脳から抜け落ちてたのかもしれないな。




「あー…、でも良かった。二人共無事だったってわけだ」


「………」


「ん?どうかした?」


「…どうします?本当のことを話しますか?」




ウィルに小さな声で、そう耳打ちされた。正直言って、凄く悩む。

肉親なのだから話した方が良いに決まってるのだが、弟が異世界の自分と一体化しちゃうんだよー☆

なんて言われて、喜ぶ姉がいるわけない。いたら鬼だ、姉じゃない。流石の姉貴でも、鬼まではいかないだろう。

俺がこんな姉に家族愛を持ち合わせているくらいなのだから、姉だって持ってるはずだ。……多分。

萌えないと悲しまないから、感動モノを見てもちっとも涙腺に影響を及ぼさない、なんて言ってたのを思い出して、少し不安になる。

大丈夫、大丈夫さ。……多分。




「……肉親だろ?いざって時のために、言うよ」


「よし、許可する」


「え、これって、零矢の許可が必要な事項だったのか!?」


「何言ってんだ。俺は王だぜ?」


「………」




こいつは王を、何か別のものと穿き違えてないか?

本当に零矢が王になっていいんだろうか。破滅するぞ、この国。独裁政治って、良かった例があんまりないし。

まぁ一先ずそれは置いといて、目の前の問題から先に片付けることにしよう。




「あの、さ。心して、聞いてほしいんだけど……」


「?」


「俺って、ルイチなんだけど、ルイチじゃ無いっていうか……、えと……」


「??」




あ゛ぁぁ!もう、上手く説明できねぇよっ!!ウィルから説明されたときは、なんとなく分かったけど、自分で説明できるってとこまでは理解できてないんだよな。

俺が助けを求めるようにウィルの方を向くと、溜息を吐きながらもしっかりと説明してくれた。俺達に説明するよりかは、ざっくりだったけど。でもあの姉貴はこの世界の住人なのだから、基礎知識くらいは持ち合わせているのだろう、理解はできたようだ。

そして気になるは、姉貴の反応。俺は固唾を呑んで、姉貴の言葉を待った。




「……そんなのって……、ない……。あんまり、よ」


「………」




やっぱり、姉貴にもこういう感情が……




「あんまりにも……、萌えすぎるでしょうがぁぁぁあああ!!」


「……えー…、そりゃないよー……」




思わず声に出してしまう程の、衝撃でした。




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