表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/22

No.4 もう一人の側近

「もう無理か……」


「はぁ……。地道に探すしかないな……」


「え!?」




諦めよう、と言いかけたとき、信じられない言葉を耳にする。それは勿論、王様(仮)の零矢からだ。ウィルフレッドさんも、半ば呆れたような表情をしていた。それだけ、見つけ出すのが困難だということだ。この世界に住むほとんどの人が、【魔力源樹木(マテリアルリリース)】を見つけることを諦めているのだろう。

それだというのに、零矢は全く諦めていないようだ。というか、諦める気など無い、というふうだった。何が彼にそんな自信をつけさせているのだろうか。

零矢の意見が現実味を帯びていないことを理由に、一応俺は彼に反論してみる。




「そんなの無理に決まってるだろうが」


「なんで無理なんだ?」


「大勢の人が探しても見つからなかったんだ。俺達だけで探しても、見つかりっこないだろ?」


「お前な、もっと頭使えよ。学年二位の座が泣くぜ?」




そう言うと零矢は、ウィルフレッドさんの方を向く。そして悪人のような、それでも綺麗な笑みを浮かべると言った。




「利用できるものは、全部利用すればいいんだよ」




なんとなく、零矢の考えているが分かってしまう。その内容の恐ろしさに、背中を冷や汗が伝った。

そして俺が思っていた内容とさして変わらないことを、零矢は口にする。




「俺は、王なんだろ?」

















―――――――――

















「あんまりだ……」


「なんで?」




今現在、俺達は王の私室らしい所にいる。零矢が話をした後、ウィルフレッドさんはもう一人側近を呼びにいった。その間、俺達はここに待機だそうで。

零矢の話はたしかに筋は通っているかもしれないが、それだけでは済まない話だった。しかも俺は、完全に巻き込まれる。いやまぁ、巻き込まれない、なんてことはないとは思うが。




「王になるとか、有り得ないし」


「琉壱は従者だけどな」


「うん、まぁ、色々と不満はあるんだけどさ」


「いいじゃねぇか、あっちとこっちの利害は一致してるんだ」




つまり零矢の話は、零矢がレイ=ファーディナンドとして、王になるということだった。王になれば、【魔力源樹木】が見つかる確立が、大幅に上がるためだ。

それに、向こう側としても、今王がいなくなるのは厳しいらしい。休戦中の不安定な今、国民を動揺させることは避けたいようだ。

そうすると必然的に、俺もルイチ=オルムステッドとして、王の側近ならぬ従者になるということで。

だがそうしないと、この世界で生きていけないことも事実だ。俺と零矢は、王とその従者と全く同じ顔、体型らしく。一般人に紛れて生活するのは、困難なのだ。




「それとも琉壱は、戻りたくないのか?」


「いや、戻りたいけど……」


「じゃあ、何が不満なんだ」


「不満っていうか、心配?政治とか分からんし、戦うとか許容範囲外」


「眼鏡が言ってただろ、融合してるって。つまり、自覚がなくてもできるってことじゃないのか?」


「そのことなんだけど、あの人はどう思ってるんだろうな」


「あの人って、ウィルフレッド?どうって、なんだよ」




俺はずっと疑問に思っていたことを、零矢に言ってみることにする。疑問に思っていたこととは、ウィルフレッドさんの心中についてだ。




「多分慕ってただろう王がさ、異世界の人と一体化すること、どう思ってんのかなって。零矢は彼が知ってる王であって、王でないってことだから……」


「微妙な心中だろうな」


「しかも今後一体化が進んできて、記憶を共有することになったときとか、ヤバいことになりそうだ」


「でもそうなると、俺達はどうなんだよ。こっちでの記憶と元の世界の記憶が混ざるって、相当ヤバそうだぜ?」




埒が明かなかった。今起こっていない、体験していないことを聞かれたって、答えることなんてできない。全くもって、想像もできなかった。何しろ、それについての知識が無い。

もっと分からないのは、ウィルフレッドさんの心中。最初は結構動揺していたが、冷静な性格らしく、すぐに落ち着きを取り戻した。そのため、どう思っているのかなど、正確には分からなかった。




「……それにしても、遅くないか?」


「もう一人に、状況を説明してるんだと思うけど」




と丁度そのとき、部屋に扉を叩く音が響く。入ってきたのは、ウィルフレッドさんと見知らぬ青年。

歳は二十歳前くらいの容貌で、俺達とそう変わらない。髪色は橙っぽい金髪で、目色はオリーブグリーン。ウィルフレッドさんと同じ服装なことから、同じ役職だということが分かる。

そんな彼は零矢を見ると目を見開いて、何故か零矢に飛び掛かった。




「レ、レイさぁぁぁぁぁあああああんんんっっ!!!」


「な、なんだ!?っは、は、はなせ!!ウィルフレ…、説明したんじゃ……!!」


「一応したんですが、信じなくて」


「心配したんですからぁぁぁぁぁああああああ!!!!」


「お、おい!俺は、レイじゃな…くもないが、レイじゃねぇ!!…あぁ、もう、鬱陶しい!」


「ぐへっ」




零矢は彼を蹴飛ばした。その名の通り、蹴飛ばした。すると、彼は俺の足元に崩れ落ちた。面倒臭い雰囲気がしたので身を引こうとすると、いきなり足首を掴まれる。




「!?」


「ねぇ、ルイチ。レイさんが変なこと言ってるんだけど、意味分かる?」


「いやまぁ、俺も、ルイチだけどルイチじゃないんで……」


「………」




物凄い速さで、彼は唐突に立ち上がった。この人見てると、心臓に悪すぎる。彼はそのまま、ウィルフレッドさんに詰め寄る。




「どういうこと!?ルイチの態度が変すぎるよ!」


「だから、さっき説明したでしょう」


「………え?あ、あれって、本当に……?」




震える声で彼はそういうと、剣幕な表情でこちらを見る。流石にまだ信じられないようで、問いかけるように見ていた。

暫く沈黙が続いた後、彼はある質問をしてきた。




「……じゃあさ、後ろの眼鏡のあだ名って、分かる?」


「何故、質問がそれなんですか……」




勿論答えは、否だ。何となく、予想がつくような気もするが。

俺は無言のまま、首を横に振る。その後零矢も、知らないと答えた。当たり前だ、ついさっきまで名前すら知らなかったのだから。

彼は下を向いていた。一瞬、泣いているのかと思ったのだが、それは違ったようで。顔を上げると、すごくポジティブな結論を出した。




「でも失敗したとしても、君達はレイさんとルイチだしね!」




いやまぁ、確かにそうなのだが。なんとなく、彼の性格が分かった気がする。

彼に王の側近が務まるのかと思ったが、人を上辺だけで判断してはいけないしな。すごく頭がいいとか、戦闘能力が高いとかあるのだろう。




「僕は王の側近で元帥にして参謀役、セシル=ラヴァーティ。ちなみにあだ名の正解は、ウィルだよ。ウィルフレッドって、長ったらしいでしょ?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ