No.4 もう一人の側近
「もう無理か……」
「はぁ……。地道に探すしかないな……」
「え!?」
諦めよう、と言いかけたとき、信じられない言葉を耳にする。それは勿論、王様(仮)の零矢からだ。ウィルフレッドさんも、半ば呆れたような表情をしていた。それだけ、見つけ出すのが困難だということだ。この世界に住むほとんどの人が、【魔力源樹木】を見つけることを諦めているのだろう。
それだというのに、零矢は全く諦めていないようだ。というか、諦める気など無い、というふうだった。何が彼にそんな自信をつけさせているのだろうか。
零矢の意見が現実味を帯びていないことを理由に、一応俺は彼に反論してみる。
「そんなの無理に決まってるだろうが」
「なんで無理なんだ?」
「大勢の人が探しても見つからなかったんだ。俺達だけで探しても、見つかりっこないだろ?」
「お前な、もっと頭使えよ。学年二位の座が泣くぜ?」
そう言うと零矢は、ウィルフレッドさんの方を向く。そして悪人のような、それでも綺麗な笑みを浮かべると言った。
「利用できるものは、全部利用すればいいんだよ」
なんとなく、零矢の考えているが分かってしまう。その内容の恐ろしさに、背中を冷や汗が伝った。
そして俺が思っていた内容とさして変わらないことを、零矢は口にする。
「俺は、王なんだろ?」
―――――――――
「あんまりだ……」
「なんで?」
今現在、俺達は王の私室らしい所にいる。零矢が話をした後、ウィルフレッドさんはもう一人側近を呼びにいった。その間、俺達はここに待機だそうで。
零矢の話はたしかに筋は通っているかもしれないが、それだけでは済まない話だった。しかも俺は、完全に巻き込まれる。いやまぁ、巻き込まれない、なんてことはないとは思うが。
「王になるとか、有り得ないし」
「琉壱は従者だけどな」
「うん、まぁ、色々と不満はあるんだけどさ」
「いいじゃねぇか、あっちとこっちの利害は一致してるんだ」
つまり零矢の話は、零矢がレイ=ファーディナンドとして、王になるということだった。王になれば、【魔力源樹木】が見つかる確立が、大幅に上がるためだ。
それに、向こう側としても、今王がいなくなるのは厳しいらしい。休戦中の不安定な今、国民を動揺させることは避けたいようだ。
そうすると必然的に、俺もルイチ=オルムステッドとして、王の側近ならぬ従者になるということで。
だがそうしないと、この世界で生きていけないことも事実だ。俺と零矢は、王とその従者と全く同じ顔、体型らしく。一般人に紛れて生活するのは、困難なのだ。
「それとも琉壱は、戻りたくないのか?」
「いや、戻りたいけど……」
「じゃあ、何が不満なんだ」
「不満っていうか、心配?政治とか分からんし、戦うとか許容範囲外」
「眼鏡が言ってただろ、融合してるって。つまり、自覚がなくてもできるってことじゃないのか?」
「そのことなんだけど、あの人はどう思ってるんだろうな」
「あの人って、ウィルフレッド?どうって、なんだよ」
俺はずっと疑問に思っていたことを、零矢に言ってみることにする。疑問に思っていたこととは、ウィルフレッドさんの心中についてだ。
「多分慕ってただろう王がさ、異世界の人と一体化すること、どう思ってんのかなって。零矢は彼が知ってる王であって、王でないってことだから……」
「微妙な心中だろうな」
「しかも今後一体化が進んできて、記憶を共有することになったときとか、ヤバいことになりそうだ」
「でもそうなると、俺達はどうなんだよ。こっちでの記憶と元の世界の記憶が混ざるって、相当ヤバそうだぜ?」
埒が明かなかった。今起こっていない、体験していないことを聞かれたって、答えることなんてできない。全くもって、想像もできなかった。何しろ、それについての知識が無い。
もっと分からないのは、ウィルフレッドさんの心中。最初は結構動揺していたが、冷静な性格らしく、すぐに落ち着きを取り戻した。そのため、どう思っているのかなど、正確には分からなかった。
「……それにしても、遅くないか?」
「もう一人に、状況を説明してるんだと思うけど」
と丁度そのとき、部屋に扉を叩く音が響く。入ってきたのは、ウィルフレッドさんと見知らぬ青年。
歳は二十歳前くらいの容貌で、俺達とそう変わらない。髪色は橙っぽい金髪で、目色はオリーブグリーン。ウィルフレッドさんと同じ服装なことから、同じ役職だということが分かる。
そんな彼は零矢を見ると目を見開いて、何故か零矢に飛び掛かった。
「レ、レイさぁぁぁぁぁあああああんんんっっ!!!」
「な、なんだ!?っは、は、はなせ!!ウィルフレ…、説明したんじゃ……!!」
「一応したんですが、信じなくて」
「心配したんですからぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
「お、おい!俺は、レイじゃな…くもないが、レイじゃねぇ!!…あぁ、もう、鬱陶しい!」
「ぐへっ」
零矢は彼を蹴飛ばした。その名の通り、蹴飛ばした。すると、彼は俺の足元に崩れ落ちた。面倒臭い雰囲気がしたので身を引こうとすると、いきなり足首を掴まれる。
「!?」
「ねぇ、ルイチ。レイさんが変なこと言ってるんだけど、意味分かる?」
「いやまぁ、俺も、ルイチだけどルイチじゃないんで……」
「………」
物凄い速さで、彼は唐突に立ち上がった。この人見てると、心臓に悪すぎる。彼はそのまま、ウィルフレッドさんに詰め寄る。
「どういうこと!?ルイチの態度が変すぎるよ!」
「だから、さっき説明したでしょう」
「………え?あ、あれって、本当に……?」
震える声で彼はそういうと、剣幕な表情でこちらを見る。流石にまだ信じられないようで、問いかけるように見ていた。
暫く沈黙が続いた後、彼はある質問をしてきた。
「……じゃあさ、後ろの眼鏡のあだ名って、分かる?」
「何故、質問がそれなんですか……」
勿論答えは、否だ。何となく、予想がつくような気もするが。
俺は無言のまま、首を横に振る。その後零矢も、知らないと答えた。当たり前だ、ついさっきまで名前すら知らなかったのだから。
彼は下を向いていた。一瞬、泣いているのかと思ったのだが、それは違ったようで。顔を上げると、すごくポジティブな結論を出した。
「でも失敗したとしても、君達はレイさんとルイチだしね!」
いやまぁ、確かにそうなのだが。なんとなく、彼の性格が分かった気がする。
彼に王の側近が務まるのかと思ったが、人を上辺だけで判断してはいけないしな。すごく頭がいいとか、戦闘能力が高いとかあるのだろう。
「僕は王の側近で元帥にして参謀役、セシル=ラヴァーティ。ちなみにあだ名の正解は、ウィルだよ。ウィルフレッドって、長ったらしいでしょ?」