No.20 爆弾は発展途上国以下
「くたばれぇぇえええ!!!」
俺は扉を蹴破るようにして部屋に入ると、叫びながら零矢に飛び掛った。
あまりよろしくない自分の運動能力を駆使して、蹴りを繰り出す。
しかし零矢は、それをほんの少し視界に入れただけで、軽々と避けてみせた。
その余裕な表情と、鼻で笑われたのに余計に腹が立った。
ということで、本棚に入っていた分厚い本を手に取り、即座に投げた。
零矢の顔面に目掛けて。
しかし俺が投げた本の二倍の厚さはあるだろう本で、零矢は本を遮る。
しかもその超分厚い本を、間髪入れず俺に向かって投げてきた。
「うっ…わ……!」
寸での所でその本を受け止めると、その重量とぶつかった衝撃が掌を襲った。
少し顔を歪めていると、ふてぶてしい声が聞こえた。
「266」
「は……?」
零矢はそう言って、再び口を閉ざした。
それだけで理解した俺は、天才かもしれない。戯言だけど。
零矢が投げてきた本の、266ページを開けた。
『五章 爆弾』
爆弾は、それぞれの国によって構造が違う。
特に、【魔力源樹木】から魔力が放出されている地域と、放出されていない地域では、全くと言ってよいほどだ。
前者では魔法の組み合わせ、又は魔力そのものを容器に封じたもの。
後者では爆薬を容器に装填したものが、一般的である。
そもそも、前者では爆弾の精製が無意味に近いと思われているので、あまり性能は良くない。
ここからは、爆弾の種類と共にそれぞれの国の爆弾の特徴を紹介していく。
中略
―小型投擲式弾(手榴弾のことだと思われる)―
中略
一番性能の高い小型投擲式弾を生産しているのは、パラノヴァーリ帝国。
一番性能の低い小型投擲式弾を生産しているのは、ワーダライト帝国。
世界屈指の兵器を多数開発しているパラノヴァーリ帝国は、爆弾も性能の高いものを大量生産している。
まず、威力が飛び抜けて高い。誤爆も少なく、安全性が高い。
火薬の生産方法などは、全く不明。どのような過程を経て精製されているのかも、不明である。
中略
ワーダライト帝国は爆弾の開発、生産に重点を置いておらず、性能は全体的に低い。
特徴としては、誤爆、不発弾が多い。そして、魔法で何らかの干渉をすると即座に爆発する。しかしこれは、正式な爆発方法ではない。その方法で爆発させると、大体の場合は威力が下がる。しかし、時には威力が大幅に上がる可能性があるため、大変危険である。
容器の内側と外側に魔方陣が描かれており、魔力が封じてあるという、簡素な爆弾。
外側にある魔方陣に傷をつけると、一定時間が経過した後、爆発する。
しかし、その一定時間というのは決まっていない様子。傷の付け方で変わる、という見解もあるが、正確なところは不明である。
というような内容が書かれていた。
「……………」
「と、いうわけだ」
「…これ、出発前に渡してほしかったです」
そう言うと、零矢が部屋の片隅で事を見守っていたオズウェルを唐突に見た。
「俺はてっきり、オズウェルは知ってるものだと思ってたんだけどな」
「……俺は、博識とは縁遠いからなぁ」
「……………」
そんな光景を横目に、俺は一人で納得していた。
俺が適当にかけた炎の魔法で、あの爆弾が爆発した理由が分かったのだ。