No.19 重い心と凶器と名前
重い。
何もかもが重い。
この状況も、心も、爆弾も。
そんなもの、見たことさえなかったのに。
今俺は、手袋という布一枚隔てただけで、それを持っている。
俺の手には余る凶器だ。
そして、ただの知識であるはずの、それを使う方法。
けれどもうすぐ、知識だけではなくなる。
身体が、覚える。
怖くはない。でも、なんだか重い。
重くて重くて、身体も心も、何もかもが潰れてしまいそうだ。
気が滅入る?不安?緊張?
いや、やっぱり、怖いのかもしれない。
「ルイチ?」
「あ……でっ!!」
木に思い切りぶつかった。
は、鼻が……!!
「おいおい……。大丈夫か?」
「いって゛ぇ……」
呆れ気味にそう声をかけてくるのは、おっs……オズウェル。
今回の仕事を押し付けられたもう一人だ。
「だ、だいじょばないけど、大丈夫」
と言って、ぶつかった木を睨みつける。
その木は、見たこともない純白の花を咲かせていた。
例えるなら、蓮のような。
「…まぁ、考え事をしちまうのは、分からないでもないがな」
「とか言って、こういうのには慣れっこなくせに」
「なんでそう思う?」
「…………おっさんだから」
ていうのは、違うけど。
この国の歴史を基に考えても、オズウェルの地位を考えても、慣れなければいけない状況下にいたのは間違いない。
つい最近まで戦争していたんだし。革命とかあったんだし。
オズウェルが、どっち側だったのかは知らないけど。
後は……、勘?
「あのなぁ……。俺はまだ、三十代だっつーの!」
「でも、俺の倍くらい人生経験はあるよな?」
「……さぁな」
子供のように、そっぽを向いてしまった。
変なところで子供っぽいなぁ……。
もしかして、触れちゃいけないワード?
「………あ、ほら、あそこだ、ルイチ」
目的地、つまりはこの凶器を使用する場所に着いたようだ。
しかし、その前に俺は、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
「…あのさ、」
「うん?」
「なんで俺のこと、ルイチって呼んでるんだ?」
「は……?」
意味が分からない、というような顔をされた。
いや、意味が分からないのはこっちの方なんだけど。
「てっきり、"ルイオル"って呼んでんだと……」
「あぁ……、あれはお前が…じゃない、"ルイチ"が嫌がるから止めたんだ」
「ふーん」
最初はルイオルって呼んでたけど、嫌がられたから止めた、ってこと?
てか、ネーミングセンスが可笑しすぎる……。
そりゃ、嫌がるだろうな。
「なんだ?そう呼んでほしいのか?」
「冗談。絶対に嫌だ」
「なんで嫌がるかなぁ……」
嫌がる理由の一つは、さっき言った通り、ネーミングセンスが無いからだ。
それともう一つ。
「…こっちのルイチとは、絶対に理由が違うと思うけど」
「?」
「俺が嫌なのは、"オルムステッド"じゃないから」
「?……、………!!」
何かに気づいたと言わんばかりに、オズウェルは目を見開く。
「それだ……!」
「なにが」
「あいつも、"オルムステッド"って呼ばれるのが、嫌だったんだ……」
「は?」
意味分からん。
けれどその時にはもう、あの不快な重さは消えていた。