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No.1 日常から非日常への転落事故

不運なこれまでの日常が突如終わりを告げた。と思ったら、不運なのはそのままにもっと混沌とした状況に。

喋る黒猫が現れ、強制トリップ?そして、幼馴染のイケメン大魔王が並行世界の王だそうで。え、俺、従者!?

日常――


それはとても不安定なものだ。

何故って、俺にとっては日常でも、赤の他人から見れば非日常かもしれないから。

その反対も勿論のこと。

そして今の俺が非日常だと思っていることも、それをいざ体感し、その状態が永く続けば日常となる。

だから例えば、隣にいる壮絶なイケメン性悪野郎に常日頃迷惑かけられたり、家に帰ったら帰ったで、腐ってる姉貴に萌えトークとやらを問答無用でされたり。

そんなことも日常ではなくなり、さよならグッバイすることも、十分有り得る。


否、絶対に有り得る。


なのに、俺と不幸との運命の赤い糸は、ダイヤモンドでできているらしく。

一番変わってほしいところが、変わってなかったりするみたいだ。

















――――――――
















「………はいよ」


「……何の冗談?」




普通に手紙(それはラブレターなのだが)を渡そうとしただけなのに、怪訝な表情を向けられる。

なんだ?渡すときの顔が、不機嫌だったからか?

そんなことで怒るんですか、俺様くんは。

そりゃ、不機嫌にもなるだろうよ。媒介になんてされれば。




「何って、ラブレターだよ」


「それは見たら分かる。俺は、何の冗談かって聞いてんの」


「冗談も何も、いつものやつ」


「だから、な……、…あぁ……」




やっと理解できたらしく、彼――宮園零矢(みやぞのれいや)は歪ませていた表情を元に戻した。

しかもその後、捨てといて、なんて言うもんだから、その整った顔に拳をねじ込ませてやろうかと思った。

そうすると、後でどんな報復にあうか分からないので、青筋を立てながらも踏み留まり、了解の返事をしておく。




「お前からのラブレターかと思った」


「はぁ!?冗談言うのも程々にしとけよな」




言っておくが、俺はノーマルだ。

しかも、アブノーマルに関しては、姉というトラウマがいる。

姉のせいかおかげか、気持ち悪いとまでは思わないが、自身がなるのは勘弁してほしい。

つくづく、何故腐女子の弟に生まれてきてしまったのかと、思春期真っ盛りの頃は思ったものだ。

今はあまり何とも思わないが、自分をネタにされるのには、今も頭を抱えている。

しかも、その殆どが横の傍若無人大魔王こと零矢となのだから、居た堪れなくて仕方が無い。




「…そのこと、姉貴には絶対言うなよ」


「えー…、どーしよっかなぁ~」


「あ゛ぁ、もうっ!お願いします、零矢様!!マジで止めて!」


「明日の昼飯で、ジュース奢ってくれたら、考えてやってもいいぜ」




悪魔が心底愉しそうに笑う。

どんなに悔しくても、その条件を呑むしか俺には道が無い。

もう一つの道である、姉貴のネタにされ、挙句の果てにはあの薄っぺらい本、呼称同人誌にされるかもしれない道を選ぶ気には到底なれない。

その道を選ぶという事態が起きるときは、自分のアイデンティティーが喪失したときのみだ。




「…分かりましたよ。奢りますよーだ」




そう言うと、すっげぇ女子にモテる男だけが作り出せれるような笑顔を向けられた。

…もういっそ、芸能人にでもなれば?

俺なんかに無料でそんな値段のつきそうな笑顔を振りまくよか、しっかりしたファンに撒き散らす方がよくね?

なんて思う程の、笑顔だった。



話を結構前に戻すと、あのラブレターは隣のクラスの女子から預かったものだ。名前は知らん。

零矢くんに渡してぇ、だってさ。自分で渡せよー!なんて言えるはずもなく、仕方なく受け取った。

で、結果は以上の通りだ。零矢は全くもって、興味が無いらしい。いつものことだけど。

しかも後処理を俺に任せるっていう、悪人だ。…一回地獄に堕ちろ。

というわけで俺は明日、隣のクラスの女子にラブレターを返して謝罪、なんていうことをしなければならない。上手く対処しないと、泣かれる。良くても、八つ当たりされる。あーもう、ヤダヤダ。

なんで俺が……、という理由は、隣の王様気取りに聞け。聞けるもんならね。



というふうに、極悪非道神様気取りだというのに、顔は良い。顔は。後、スタイルも良い。

見た目に関しては、完璧と言っていいだろう。

日本人らしからぬ暗い赤毛と、これまた赤い瞳。つり気味なのが、これまた嫌なほどにお似合いだ。

身長は結構高い方で、俺と同じくらいだが、ほんの少しだけこちらが低い。

ちなみに俺は、黒髪黒目の典型的日本人外見。だから零矢と二人でいると、取り巻き的存在で嫌だ。といっても、こいつとは腐れ縁で中々離れない。


俺、嘉山琉壱(かやまるいち)は今高校三年の十七歳なわけだが、こいつとは幼稚園から一緒だ。しかも、全て同じクラス。ここまでくると、いっそ清々しい。

元凶は、家が隣同士だということだ。勿論、親同士仲が良い。

そうすると結果的に、登下校一緒→仲良くなる→なんか色々巻き込まれる、ていう展開になるわけで。

簡単にいうと、超腐れ縁の幼馴染ってやつ。




「で、今日は何回と何枚?」


「四回と十六枚」


「聞いた自分に後悔した!!」




零矢は嫌味っぽくもなく、至って普通なことのように、さらりとリアルな数字を吐き出した。

ちなみにこれは、今日告白された回数と、貰ったラブレターの数だ。




「琉壱は?」


「え?」


「されたんだろ?」


「あぁ……。…一回と、二枚だけど」


「ふぅん」


「到底お前には及ばないよ」




でもこれは、結構な数字だった。しかも、今日がたまたま、とかじゃない。

普通の男子なら、ラブレターなんて一年に何回貰うか、って程度。告白なら、それはもっと低くなる。

隣の、全世界の美を集めましたー!みたいな奴ほどではないけど、まぁまぁモテる方だと思う。

顔も、悪くはないかと……。上の下くらい?

まぁ、零矢と友達っていうのも、かなりきてると思うが。

それと、自分で言うのもなんだが、結構頭は良い方。学年でトップ3には入るほどに。ちなみにその中には、零矢も入っている。

ついでに言うと、零矢は運動神経も抜群に良い。剣術とか習ったりしてる。所謂、主人公気質なんですね。

俺は普通。可もなく不可もなくってかんじ。


あ、でも、射的は得意中の得意。これが、唯一零矢に勝てるものだ。祭の射的では、まさに俺のターンってやつ。

一度本気で習おうと両親に話をもちかけたが、そんなとこ何処にも無い、とか言われてあっさり撃沈。あるかもしれないのに……。一応探す、とかしてほしかった。

姉貴に愚痴ると、射的とか銃とか言った途端、別の世界へ旅立った。脳内の妄想で、忙しくなったようで。結局、最後までは愚痴れなかった。



そんな少々苦い思い出を思い出していたとき、近くで聞きなれない音が耳に入った。

フォン、というような、ゲームの効果音みたいな音。

思わず隣の零矢を見ると聞こえていたようで、周りを探るような目つきになっていた。

だが、周りを見渡しても見慣れた景色ばかりが並んでいる。特にこれといった変化も無かった。

聞き間違いかと思って顔を正面に向けた途端、何やら声が聞こえてくる。




「こんな所にいたんですか」




その声は普通の人間の声。別に聞こえても可笑しくはない声だ。低めのその声は、男のものだということが分かる。

だが可笑しいのは、その声が目の前の"猫"から聞こえたということだ。確かに、目の前の猫から聞こえた。

どこにでもいるような、普通の黒猫。服を着ているわけでも、二足歩行なわけでもない。しかしよく見てみると、首輪だと思っていたものが違うものだと分かった。勲章だ。なぜ、猫に勲章?

零矢はというと、その猫を凝視していた。やはり、誰にでも見える猫のようだ。幻覚とか、そういった類のものではないらしい。

自分の頭が正常だと分かったのはいいが、こんな奇怪な生物とどう接したらいいのかを考えるには、頭が衝撃を受けすぎていた。




「全く……。何事も無かったからよかったものの。敵のこんな魔法に出し抜かれるとは……」


「………」


「……なに、この生物」




やはり喋った。聞き間違いではないようだ。

零矢が零した言葉に気がつかないまま、猫は説教?みたいなことを言い続けていく。なんだ、この猫は。

そして溜息を吐いた。猫が溜息て……。シュールすぎる。いや、喋る猫という時点で、十分シュールなのだが。




「はぁ……。もういいです。さっさと戻りましょう」


「戻る?」




俺の言葉を無視して、猫は空気を引っ掻くような仕草をする。するとそこだけが、何やら歪み始めた。

そして最終的には、ぱっくりと切れ目が入ったようになってしまう。切れ目の先は、ただの闇。

その切れ目は周りを侵食していき、大きな穴となる。勿論先は、闇。入ってみたい、などという好奇心すら湧かない。

だがそれはもの凄い速さで膨らんでいき、このままいけば、俺達をあっさりと飲み込んでしまうだろう。


非科学的、非日常的、非現実的。


そのことで頭がいっぱいだった俺は、反応に少し遅れてしまう。しかし気がつくと同時に、隣の零矢の腕を掴んだ。そしてそのまま引っ張って、とりあえず脱出しようと試みる。

けれど、足は一歩も動かない。何故だ何故だ。竦んでる、なんてことは無い。恐怖という感情が無いからだ。でも、足が動かない。

もしかしたら、あの猫が何かしているのかもしれない。こんなことまでできるのだ。できても不思議ではない。存在自体が不可思議なのだから。

猫を見ると、俺の行動に何故か驚いたようだ。首を傾げている。

妙だ。猫がしたのなら、なぜ驚く?分からない、分からない。

零矢も動くことができないのか、俺に腕を掴まれ立ちすくんだままだ。運動神経がいいはずなのだから、すぐに行動をしていても可笑しくない。だが動いていないということは、動けないととっていいだろう。



そうこう考えている内に、闇が視界を閉ざしていく。閉じていく扉のように、一筋の光も最後には消え去った。

何も見えなくなる。完全な暗闇。何も見えなければ、何も聞こえない。

あー…、俺、死んだ?さっきの変てこなやつのせいで。

けれど、掴んだ零矢の腕の感触だけは、まだ手の中にあり続けている。そのおかげで、意識を何とか持つことができた。



でも、本当に何も無い。無だけが有る世界。

宇宙の果てって、こんな感じなのかもしれないな。




ふとそのとき、目の前に光が現れた。




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