No.18 転がり込んだ再戦口実
サファン戦突入!
瞼をそっと下ろす。
銃把を握り直し、安全装置を外す。
息を呑む。
銃把を強く握る。
そして、
引き金を引いた。
直後、耳を劈くような爆音が轟く。
余韻で手が痺れる。
思わず顔を顰めた。
「…っはぁ……」
一発撃つだけで襲い来る、疲労感と脱力感。
普通の銃を撃つときには必要のない神経や技法、能力を使わなければ、この銃は撃てない。
やっと、弾が無い理由が分かった。
この国にある銃は、全て魔銃と呼ばれるものなのだ。
使い手の魔力を弾丸にして発砲する。
メリットは、弾の威力や速さが自由自在である(けれど銃の種類に左右される)ことと、装填操作をする必要がないこと。
デメリットは、撃てば撃つほど魔力が削られていくこと。魔力=体力みたいな感じらしい。
ちなみに、威力が高ければ高いほど、速ければ速いほど、削られる魔力の量は多くなる。
「でもまだ、魔力の籠め加減とかを上手くコントロールできないんだよなぁ……」
そこでやっと、瞼を上げる。
目標である的のど真ん中には、大きな穴ができていた。それは少々、予想していたよりも大きなもので。
けれど、狙った場所に一寸の狂いも無く命中しているのは、やはり天性の才能というのか。
当たり前だが、俺は魔銃を撃つことができるので、魔力保持者だ。
そのことは一週間程前に確認済みだ。勿論、零矢も同じく。
「っあ゛ぁ~~~~!…疲れた……。休憩しよ、休憩」
俺は地下にある訓練所から、執務室へと向かうことにした。
―――――――――――
「………おっ?」
気分転換に来た執務室には、何やら深刻そうな面持ちの零矢がいた。
「どうしたんだ?零矢」
「あぁ…、琉壱か……」
「…なんか、イラっとくる言い草だな」
零矢がいては休憩になりそうもなかったので、自室に行こうかと思ったとき、机の上に広がった地図が目に入る。しかも、無数の書類や本が無造作に置かれている。
零矢はそれを、睨みつけるように見ている。どうやら地図は、世界地図のようだ。
ここの世界の地図を見たことがなかったので、ついつい視線がそちらにいってしまう。
この国が世界のどの位置にあるのかさえ知らないのだ。隣国などはこの前覚えさせられたので知っているが。
見ると、赤い丸で囲まれている所が二箇所ある。
一つは、『ワーダライト』。もう一つは、『サファン』と、いう文字が丸の中に書かれている。
つまり、ここがワーダライト帝国か。地図でいうと、結構上にある。そして、その左隣にサファン王国があるようだ。
資料には、ワーダライトとサファンの情勢や国状、国境付近の様子、地形、休戦条約の内容などが記されている。
本の方は、サファンの国状が事細かに書いてあるようだ。
「…もしかして、どうやって戦争を起こそうか、考えてたり……?」
「そうだ」
素っ気無くそう答える零矢。俺はあまり、気乗りしなかった。
なぜなら、戦争が起これば絶対に、俺の意思は関係無しに巻き込まれる。
実のところは御免被りたいのだが、それが無理だということは既に分かりきったことだ。
「………で?何か良い案でも思いついた?」
「大まかには、な」
やはり天才にはこんな壁、発泡スチロールでできているのと同じようだ。
「へぇ……」
「けど、一つ問題があるけどな」
「ふーん……。どういう案なわけ?」
「簡単に言えば、国境付近で爆弾事件を起こして、その罪を向こうに擦り付ける」
「……………」
これまたエグい作戦を立てたもんだ。
でもそれだと、色々と問題があるような気がしないでもないが。
「…でもそれだと、確実な証拠がいるんじゃねーの?向こうがやった、っていうさ」
「それが唯一の問題」
「唯一って……。爆弾事件なんだろ?周辺に被害が出るじゃん」
「それは大丈夫だ。周辺に町がない国境で起こす」
「けどさ、それって向こうがそんな爆弾事件を起こすメリットが無いような……」
「それも問題ねぇよ。町がすぐ近くにある国境付近で、不発弾が見つかったことにする」
「……………」
つまり、爆発させる方は、実際に爆弾事件を起こした、という筋書きを得るため。
不発弾の方は、向こうがそんな事件を起こすメリットを裏付けるため、ということだ。
けれどそれだけでは、向こうがやったという決定的な証拠にはならない。
爆弾をサファン製のものを使うとしても、それだと反対に此方が向こう側が起こしたように見せかけるため、ということになってしまいかねない。
確実なものが必要だ。
例えば、サファンのスパイがここに潜り込んでいて、そいつを捕まえた挙句、そいつのせいにするとか。
そこまで考えた時、突然執務室の扉が乱雑に開いた。
「レイ様っっ!!」
ツインテールにした髪を揺らしながら入ってきたのは、美少女、ではなく美少年のノア。
零矢がどんな話をしたのかは知らないが、機嫌を直したようで。
会った直後と同じように、零矢にぞっこんらぶなようだ。
「なんだ?」
「報告します!兵の中に、サファンの密偵が入り込んでいたようで……」
「「……………」」
俺と零矢は、思わずお互いの顔を見合わせた。
だって、こんな都合よく混ざってるなんて……。
零矢は口角を上げ、目を僅かに細めると、
「これはこれは……。美味そうな餌が混じっていたもんだな」
悪魔も思わず逃げ出しそうな声音で、そんな台詞を吐いた。