No.16 雰囲気転換は二人の介入者によって
彼女は泣きながら、荒々しく執務室を出て行った。多分、自室に戻ったんだろう。
そして気づいたときには、あの青年もこの場から消えていた。自己主張の少ない男だ。
その後、入れ替わるようにセシルが執務室に入ってきた。そして何故か、ノエルも一緒に。
「あっれ?戻ってたんだ。お!おじさんも戻ってるー!」
「何日かぶり~」
「よっ。久しぶり……って、そんなに久しぶりでもないか」
「相も変わらずの能天気馬鹿ですね」
今だけ、ウィルの言う事に頷ける。それほど、この場の空気は重たいものだったのだが。
セシルはそんなこと、微塵も感じていないかのように振舞っている。姉貴はよく分からないけど。
いつの時代も、どこの世界でも姉貴のことはさっぱりだ。
「なんで急にそんなこと言われたのか、さっぱりなんだけど」
「うんうん」
「察せよ」
零矢がそう言う。零矢に言われても、セシルは頭に疑問符を浮かべるばかり。姉貴はよく分からない表情をするばかり。
話が進まないので、自分から話しの話題を転換させた。
「あのさー、さっきの二人って誰?」
「え、なになに?何の話っ!?」
「説明するのが面倒なので、黙っていてもらえますか?」
「私達だけ仲間外れ!?」
「さっきの二人は、先程も言った通り側近です。見た目女の方が、ノア=エインズワース。青い髪の男は、ウォルター=ブルーノです」
「はい、無視っっ!私もう、吃驚!び・つ・く・り!!」
「煩いですよ」
姉の意味不明な行動は、正直言ってお腹いっぱいだ。
そして何よりも気になるのが、ウィルの言葉。何か、ウィルの言葉の中で引っ掛かる言葉があるような……。
<さっきの二人は、先程も言ったように側近です>
別に、引っ掛かる言葉はないよな……?
<見た目女の方が、ノア=エインズワース>
ん……?何か、変だよな、この言葉。見た目女の方が……?……!?"見た目"女の方が!!?
そう思いついて、ウィルに聞こうとするが、零矢に一歩先を越される。
やっぱり思いつくまでのスピードが、零矢の方が速いか……。
「"見た目"女って、どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ」
「あぁ、そうか。知らないのか」
「え、何が何が?」
「ああ!あの萌えっ子女装男子、男の娘のことか!!」
おそらく核心をついているのであろう姉の言葉は、一先ず聞かなかったことにする。
人類が足を踏み入れてはいけない領域だと思うからだ。
「つまりノアは、男だってことだ」
「え……?…ついてるのか?」
「ああ。ついてる」
俺とおじさんが真面目に真顔で話してると、何故か零矢とウィルには睨まれるし、姉貴にはニヤニヤと変な笑みでこっちを見られた。
え、なに?俺何か、言っちゃあいけないこと言いました!?
という感じで姉貴を見ると、何故かガッツポーズであまり教育上よろしくないことを言われた。
「オジサンって、攻めもいいけど、やっぱり受けもいいよね!オジサン受け、huuuu!!」
「ぎゃああぁあああ!そんな台詞で締め括んじゃねぇぇぇええ!!!」