No.15 青への理由無き罪悪感
ウィルがオズウェルにことの経緯を話すと、しばらくは困惑していたが、流石は年長者。すぐに、あの二人にどう伝えるべきか、考え始めた。
そして俺は今、青い髪の青年との会話に襤褸がでないかと、冷や冷やしているところだ。
「ルイチさん。今までどこに?行方不明だと、聞いていましたが」
「え、えーっとそのへんは後でおっさ……、オズウェルが話してくれるから」
「そうですか」
「……何で、とか、聞かないのか?」
「込み合った理由があるようですし、結果的に話して頂けるのなら、構いません」
か、神だ……。いつも巻き込まれ、嫌なことを背負う側だった俺にとっては、この青年が神に思えてくる…!!
切実に名前を聞きたいところだが、今聞いてしまうとパニックになるから、今は駄目だ。
……零矢が上手くやっていることを祈る。
「レイ様レイ様!私、敵殺戮記録を更新したんですよー!!なーんと!この前の戦争で、1104人も殺ったんですよー!まぁ、レイ様には遠く及びませんけどっ」
「………」
「レイ様?どうかされましたか?……はっ!もしや、お疲れですかぁー!?」
「…まぁ、そんなところだ……」
お、耐えてる耐えてる。って感じで見てたら、なんか睨まれた。
というか、あのツインテ女子、可愛い見た目のくせしてえぐいこと言ってるなー。細かい人数まで覚えすぎだろ。
この前の戦争っていうのは、あれか?今は休戦中の、サファン王国との戦争。それで思い出したけど、まだその件が片付いてなかったのか。
「おい、お前ら」
部屋の隅で難しい顔をしていたオズウェルが、深刻な顔と声で二人を呼んだ。ついに、話すのだろう。
女は嫌な顔をしながら、男は無表情でオズウェルの所へ向かった。
なんとなく嫌な予感がして、俺は違うことを考えようと、無理やり何か話題を考えた。部屋を見渡したところで、一人の人物が部屋に入ったときからいないことに気づく。
「……あれ、セシルは?」
思わず漏らした呟き。その呟きが聞こえたのはウィルだけのようで、ウィルもまた疑問を口にする。
「そういえば、いませんね。いつもは喧しく吼えてるはずなんですが」
「なんかウィルってさ、誰にでもちょっと棘があるけど、セシルには棘っていうか針だよな」
「何がですか?」
「べっつに~?」
まぁ今は何かを話し合うわけでもないから、いなくても構わないんだけど。多分、自室にいるだろうし。
そこまで考えたとき、トン、という音が聞こえた。大きな音ではなかったが、異質な音だった。硬い何かに、鋭い刃物が滑らかに刺さったときのような……。
その音がした方向を見てみると、壁に深々とナイフが刺さっていた。その一センチ横を見れば、オズウェルの顔。しかもそのナイフには、見覚えがある。
「ふざけないでっ!!」
「ふざけてなんかいない。全て、本当のことだ」
「そんなこと、あるわけない!だって、レイ様はそこにいるもん!!」
あー、説明し終えたのか。ちょっとぶりっ子言葉も、様になる奴は様になるんだなー、とか場違いなことを考えてみる。
こういう時こそ、ウィルの出番だろ。そう思ってウィルを見るが、肩を竦めるだけ。うん、様になる。
じゃなくてっ!あなたが傍観者になってしまったら、一体全体誰が止めるというのですか!?この暴走娘を!
そこでまた、先程の音。壁に刺さっているナイフが、一本増えていた。
「レイ様!レイ様は此処にいますよね!?私の目の前に!」
「…ああ、いるんだろうな」
「それじゃあ……!」
あっさりと、肯定の言葉を述べる零矢。
出鱈目なことを言うな、と諭そうと思ったが、零矢は言葉を続ける。
「俺の中に」
「え……?」
女は一歩後ずさる。絶望の色を、瞳に宿しながら。
そして、ふらふらとした足取りのまま男に近づくと、男に掴みかかった。
「ねぇ!!あんたも何か言ったらどうなの!!?」
「………」
「律儀に約束守ってるけどさ!その約束した相手が、もういないかもしれないんだよ!?消えてるかも……、消えるかも、しれない、んだ……」
よ、と掠れた声で言って、男から手を離す。男はそれを見ると、此方を向く。目が合うと、何故だか罪悪感が襲って、居た堪れなくなった。
それでも、目は離さない。
「俺は、あなたの言う言葉は信じます。約束、ですから」
「……その約束した相手が、俺じゃなくても?」
「…それが答え……、ですか…」
そう言うと男は、目を伏せる。女のように取り乱したりはしなかったが、相当にショックだというのは、痛いほどに伝わってきた。
場に、言い表しようのない雰囲気が付き纏う。そして、僅かな泣き声。
ウィルが話したがらない気持ちが、よく分かった。