No.12 この世界は死が満ちている
「あ」
俺へと次々に紙(重要な書類)を投げつけていたウィルフレッドが、小さく声を上げた。
俺は外に行けないことが、不服なのだということを声に込める。
「あ゛?」
「私としたことが、ルイチにあの事を言い忘れてました」
そんな俺の声に怖気づくことなく、淡々と呟いた。
ちっ。面白くねぇな。元の世界の奴らなら、これだけで凄むっていうのに。
「言い忘れてたって、もしかして白黒ちゃん?」
「それ以外に何がありますか。それと、ややこしいのでその呼び方止めて下さい」
「なんだよ。その白黒って」
「見た目は真っ白なんだけど、中身は真っ黒だから白黒ちゃん」
「いや、由来じゃなくて」
「彼曰く、プロシットのことらしいですよ」
プロシット?あー…、なんか聞いたことあるな。宗教団体、だったっけか。
法律っぽいのがあったような……。
「あれか?法令第三十四条、プロシットを危険団体とし、活動を制限、布教を禁止する、っていう」
「そうです」
「そんなにヤバい宗教なのか?」
「危険極まりないですね」
「それで?プロシットの何を言い忘れてたんだ?」
俺は、軽い気持ちでそう聞いた。ウィルフレッドが言い忘れたと言っても、そんなに重大なことを忘れた、という感じではなかったからだ。
けれど俺の予想の範疇を、軽く飛び越えた返事が返ってきた。
「プロシットの今日の巡礼地です。遭遇してしまうと、少し大変なことになります」
「大変なことって?」
「身の危険です」
「なにそれ」
「下手すると、死ぬ可能性もあるくらいですので」
予想外の言葉。あまりにも現実味の無い言葉だ。いや、それは元の世界のことであって、この世界では現実味があるんだろう。
けれど、平和な世界で生まれ育った俺は、いまいち意味がよく分からなかった。でも、そんなことも言っていられない。
「死……?…!!」
俺はそう呟くと、部屋を飛び出した。
後ろから降りかかる制止の声を無視して。
俺の頭の中は、アイツのことでいっぱいだった。
―――――――――――
「そろそろ行ったか」
覗き見てみると、あの奇怪な集団は遠くの方へと移動していた。小さく、白い塊が見える。
溜息を吐いて、男を見てみる。よく見ると、中々の男前だ。というかこの世界に来てから、顔立ちの良い奴にしか会っていないような……。
横顔を眺めていると、男がその視線に気づいたのか、こちらを振り返った。
「……俺、お前さんのこと知ってる気がするんだけど」
「ギクッ」
そう言われて、肩が無意識に反応する。まるで、後ろから肩を叩かれた時みたいに。
そりゃ、知ってるでしょうね。この国の国民なら。どうせ従者だから、知らない人もいるのかも知れないけど、ここは王都なわけだし。大体の人が、従者でも認知していると思う。
「しかも、よーく知ってるような…」
「ギクギクッ」
よーく?あれ、なんだか、俺もこの人のこと、よーく知ってるような気がしてきた……?気のせい?それとも……。
「もしかして……!」
「ギックーーンッッ!!」
「ルイオル?」
「………は?」
ルイオル?ルイオルって誰だよ!少なくとも、俺じゃないことだけは確かだ。多分。あだ名とかだったら、知らないけどな。
でもルイオルがあだ名っていうのも、変な話だけれども。
「じゃ、ないか……。そりゃそうだよな。髪、茶色いし」
「あー……」
ルイオルさんは髪の色、茶色じゃないってわけか。どうでもいいけど。
それにしてもこのおっさん、なんか他の奴らとは雰囲気違うよなー……。どこにでも居そう、って感じじゃないっていうか。どこかで会ったような気がするし。
ふとそんな時、何故か背中に悪寒が走った。
「!?………?」
「ん?どうした」
「いや、なんか、寒気が……」
姉貴のせいで軽く女性恐怖症な俺が、女に触ったときみたいな。又は、零矢関連の何かに巻き込まれる前の予感、とか。零矢に色々と振り回されすぎて、簡単な予知が可能になってしまったんだよな。
今ここに女はいないはずだから、後者?いやでも、零矢もいないはず……。
「琉壱っ!!」
あぁ、なんか零矢の声の幻聴まで……。
「……って、えっ!?零矢!?」
「どこも怪我してないな!?」
「そんなことより、なんで此処に!?てか、なんで町に来てるんだよ!」
意味が分からん!案の定、後ろのおっさんも驚いてるし!
すると零矢の後ろの方から、猫耳生やしたウィルが、走ってくるのが見えた。
うわ、これは面倒なことになるぞ。というか絶対、無理やり出てきただろ!!