No.10 悪役の思考は世界征服
「それで、魔力源樹木をどうやって見つけ出すつもりですか?」
寝起きの悪い低血圧な零矢が起きてきてしばらく経った頃、ウィルがそう問いかけた。
ちなみに零矢も、軍服みたいな服をきていた。けれど、俺達がきているのとは、デザインが似ているような似ていないような。
白色で軍服っぽいのだが、それでもRPGのゲームでよく見る王の服装的な感じだった。改めて俺は、零矢が王になったんだと実感する。
「それなら、もう考えてある」
零矢がニヤリと、黒い笑みを浮かべる。
うわ、これはとんでもないことを考えてるぞ、おい。多分、世界征服とか言い出すつもりだ。
どこの悪役だよ!冗談はその顔(良すぎるって意味で)だけにしろよな。
「世界征服とか言うなよ」
「んだよ、先に言うんじゃねーよ」
なんだこの王。口悪すぎだろ。しかもやっぱり世界征服するつもりなんですね。
まぁ、分かってたけど。零矢だったらそれくらいするだろうって。
「世界征服は世界征服でも、魔力源樹木が見つかるまでだ」
「はい!質問!なんで魔力源樹木を探すのに、世界征服?」
「ちょっと考えればすぐに分かる。木なんだからどっかの国に生えてるはずだ。だから世界征服」
「えーっと、つまり……、うん、分かんない!」
「あなたは極限まで、脳の軽量化に成功しているようですね」
「なんか、いつにも増して酷くない?」
セシルにも分かりやすく、詳しく説明するとこうだ。
魔力源樹木がこの世界に存在するというのは、魔力保持者によって証明される。
そして木というくらいなのだから、地に生えているわけだ。そして、この世界でどこの国の領土でもない場所は存在しない。
つまり、魔力源樹木は必ず何処かの国に生えているということになる。
何故その力を使わないのかは、色々な仮説が立てられる。
いざというときまで、とっておくため。力を使うと、何かしらデメリットがある。その国に生えていることを、何らかの理由で誰も知らない、等々。
つまり、世界征服を目指せば、いつかは魔力源樹木を見つけ出すことができると言うわけだ。
「成る程!!」
「分かったか?俺の天才的な作戦が」
「世界征服なんていうどこぞの馬鹿な悪役がしそうなことを、作戦と呼ぶなんて、どこか作戦なんだか」
はい、この言葉本当に俺が言ったと思った?んなわけないない。心の中で呟いただけさ。
言ってたら今頃、三途の川を渡ってっかもな。冗談抜きで。
でも世界征服って、ある意味使い古されてるっていうか、必ず世界征服しようとした奴って失敗してるんだよな。主人公含めた正義のヒーロー的存在に倒されて。王道っていえば、王道だ。
つまり、俺達もどっかの正義のヒーローぶった奴に殺されるんじゃね?
「俺の目が黒いうちは、お前達を許さない!!」的な感じで。無理やりカラコンつけたろか!
「まず初めに、休戦中のサファンから攻めようと思うんだが、問題は、」
「どうやって戦争を起こすか?」
「そうだ。出来る限り、こっちから仕掛けたくない。俺達は世界征服を目指しているんだ。こっちから次々に戦争を仕掛けたら、体裁が悪いからな」
「確かにそんなことをすると、他の国と軍事同盟や条約を結ばれ、侵略が困難になる可能性がありますね」
「国民がついてこないってことも有り得る」
元の世界の歴史を見れば分かる。世界征服を目的とした戦争を仕掛けた国は、まず国民に見放され、他国の列強が同盟を結んで降伏させられている。勿論、該当しない場合もあるのだが。
この国の王は国民に人気なようだが、次々と戦争を仕掛けていれば、不満の声を洩らす民も出てくるだろう。
そういえば、この国に人権なんちゃら団体とか、そういう系統の協会はあるのだろうか。この前ちらっと聞いた、プロシットという宗教団体のことも気になる。
「そしてもう一つ。被害は最小限に食い止め、短期間で終戦にしたい。勿論、俺達の勝利が絶対条件だ」
「『ワーダライト帝国と世界』で見たけど、ワーダライトは世界でもトップレベルの軍事国家…だっけ?」
「はい。その上、魔法大国ですので世界でもかなりの軍事力かと。…ですが……」
そこでウィルの表情が曇る。何か問題でもあるのだろうか。
ワーダライト帝国は、発展具合も申し分ない、と本に書いていた。けれど何故か、セシルも暗い顔をしている。
「…前王の愚行により、パラノヴァーリ帝国との軍事力などの差が広がってしまいました」
「前王は酷かったからね。自分の私欲のために税金を使って、政治はほぼ放置状態。貴族がやりたい放題してたんだ」
つまり、国の発展に使う金や軍事資金を前王が使いまくったために、国はどんどん落ちぶれていった、ってことか。
ウィルによると、その前王をレイ=ファーディナル率いる革命軍が倒し、今に至るそうだ。
レイ=ファーディナルによる復興のお陰で、以前よりも国の発展具合は上がったのだが、発展し続けていたパラノヴァーリ帝国や他五カ国との戦力差が広がったり、抜かれたりしてしまったとのこと。
魔力源樹木を所有している可能性が高いのはそういう大国なため、世界征服は簡単なことじゃない、ということだ。
「なんだ、そんなことか」
「へ?」
「全く問題ないな。今から急速に発展させればいい話じゃねぇか」
今の言葉は、何かの聞き間違いだろうか。いや、そうであってほしい。
無責任にもほどがある。第一、そんな急速に発展させられる方法があるのなら、とっくに誰かがやっている。
というかはっきり言って、何故誰も世界征服なんて馬鹿げたことを止めようとしないのか。
確か、たとえ王でも最親側近と親側近全員に反対された案件は、受け入れられないはず。ちなみにそれは、レイ=ファーディナルが定めた法律らしい。
「あのさ、勝てる勝てないは別として…、誰も反対しないのか?」
「何にですか?」
「世界征服するっていうことに」
そんな俺の問いに、何故かウィルとセシルが顔を見合わせた。
ウィルは眼鏡を指で押し上げ、セシルは顔に笑みを浮かべる。さっぱり意味が分からない。
「反対する理由が無いからです」
「あるだろ、理由なら山というほど」
「あなたの元いた世界は、よっぱど平和ボケしていたようですね」
「へ……?」
「それにしても、そっくりそのままの台詞だねー。本当に別人?」
「言っている意味が分からないんだが」
一先ず、何か理由があって反対しないということは分かった。ということで、ウィルにその理由を聞いてみる。
「反対しない理由は?」
「一つ目は、この世界が平和では無いからです」
この世界では今でも戦争をしている国がいくつもあり、いつ侵略するか、いつ侵略されるかも分からない状況らしい。
不可侵条約を結んでいるところもあるらしいが、それは上辺だけのもので、すきをついて侵略される可能性があり、あってないものらしい。
つまり、それほど戦争をすることに抵抗があるわけでもなく、反対にしなければ侵略される。そんな状態だそうだ。
「もう一つは、元々私達は世界征服をするつもりだったからです」
………え?
それって、レイ=ファーディナルとルイチ=オルムステッドだったときから、ってことか!?
やっぱり、面倒&ややこしい話になってきた……。