No.9 銃と黒は遺品となった
ゆっくりと窓から差し込んでくる光。それは、朝が訪れたことを告げる。
自宅の枕と全く同じ柔らかさのそれでは、ここが自分の家でないことがすぐには理解できない。けれど霞む視界で捉えた現在居る自室は、やけにだだっ広い。そして次に視界に入れた棚の中には、大量の拳銃。そんな非現実的な存在のお陰で、ここがどこかを思い出すことができた。
上体を起こして、その棚を再度見る。銃以外、何も入ってはいない。何挺入っているのかは不明だ。分かっていることは、銃があるのはそこの棚だけではないということ。そこには、拳銃しか入っていないのだ。
机や他の棚、クローゼットの中まで銃だらけ。元の世界でいう、小銃や機関銃、散弾銃、狙撃銃らしきものがある。見たこともない種類のものもあり、きっとそれはこっちの世界独自のものなのだと思う。
けれど、そんなにも大量の銃があるにも関わらず、銃弾が一つも見つからない。銃の中にも、弾は入っていないのだ。しかも薬室、遊筒、自動拳銃では弾倉はある。なのに、弾は無い。
何故なのか考えようとして、止めた。この世界は非常識なことで溢れ返っている。一々考えていては、脳がいくつあっても足りない。
そう思って俺は銃のことを頭から消し去り、ベッドから抜け出した。
この世界に来て三日目の朝。時間が経つのが早いのか遅いのかは分からないけれど、この状態が長く続くのが望ましくないのは明らかだ。
けど、元の世界へと戻る道はとても長そうだ。しかも零矢が王で俺がその従者。今でもややこしい状況だというのに、これ以上面倒なことになるのはごめんだ。
だからといって、これといった対処方法が無いのが今の現状。このまま、周りに流されていくしかない。少なくとも、右も左も分からない今の俺では。
そんな俺が右を横目で見やると、そこにはクローゼットがある。さっき考えていた銃、散弾銃と狙撃銃がびっしり入っている。
そんなクローゼットを、徐に開ける。昨日見た通り、銃だらけだ。そしてそんな銃の間を、狭苦しそうに本来入っているはずの衣服が数着入っている。ワイシャツ、軍服やスーツらしきものだけで、私服は見受けられない。後は、俺が着ていた制服だ。ちなみに今着ているのは、このクローゼットに入っていた唯一の私服らしきものである、真っ黒のTシャツとカーゴパンツらしきもの。素材とか何もかもが不明なので、"らしきもの"だ。見た目は、Tシャツとカーゴパンツっぽい。でもカーゴパンツのデザインは、あまり現代的ではない。やっぱり、別物か……?
それにしても、カーゴパンツは結構寝心地が悪い。だからといって、制服で寝るのもあれだし……。あー…、スウェットの着心地は奇跡の産物だったんだな……。
何か策を考えた方がいいかと思いつつ、目の前のクローゼットと向き合う。
そしてその中にある、真っ黒の軍服みたいな服を取り出す。その軍服は、ウィルとセシルが着ていたものの色違いだ。二人のは白だったけど、これは黒。いやいや、黒髪の俺がこんな黒の軍服(仮)なんて着たら、黒すぎるだろ!
そう思うが、これを着なければならない。なぜなら昨日、ウィルにこれを着てくるよう言われたんだ。
俺は少し考えた後、ワイシャツとそのズボンを穿いた。そしてネクタイを締める。でも上着を着るのは止めた。
黒過ぎるというのと、もう一つの理由で。
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「あ、ルイチ。おは……」
「あぁ、セシル。……?」
セシルは俺の姿を完全に視界に入れた後、何故か固まった。どこか俺の姿におかしい所があったのだろうか。
俺は、自分の身体を見てみる。見える部分では、これといっておかしな点は見られない。
ちなみにここは王の執務室の前。今日は、ここに集まることになっていたのだ。王である零矢の自室はこの隣。
俺はセシルの行動を疑問に思いながらも、先に執務室に入る。そこには、もうすでにウィルがいた。
「おはようございます」
「おはよう。あのさ、セシルが何か俺の姿を見て固まったんだけど」
「あなたの姿を見て?……これといって、おかしな点は……」
「だよな?別に変なとこは無いはず」
すると、急にウィルが厳しい顔つきになる。俺もつられて、苦い表情になった。
「………ルイチ」
「は、はい……?」
「上着は、どうしたんですか?」
思っていたことと、全く違うことを言われる。
怒っているのかとも思ったのだが、それは違うようだ。どちらかというと、落ち込んでる?いや、少し違うか。
「絶対に着てこないと駄目か?」
「…できれば」
「いや、だってあれさ、黒過ぎない?俺が着ると、おかしいと思うんだけど」
「……それでは、今はいいです」
「うん……?」
本当は、それだけの理由じゃないけど。
多分、ルイチ=オルムステッドがこの服を着ていたんだろうし、それを俺が着たら二人がどう思うか気になったから、あえて着てこなかった。
でもこの分だと、失敗した?