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魔法少女5

「『シュ』何とかの、『は』何とかですか?」

 誑乱御園は新聞部の部室で、最初の一文字しか覚えられなかった単語を繰り返した。畳六畳程の広さしかない部室。その壁際に、編集用の机とパソコンの机が備えられていた。

 ミソノとツブラは、新聞部の三人とパソコンのモニターを覗いていた。ミソノの前では満身創痍の新聞部員達が、黙々とマウスとキーボードを操作している。

 日頃は新聞編集に使うソフトを、今はパンフレットの作製に使っていた。

「シュレーディンガーの波動関数です。それが私の魔法円のスペルです」

 己の頭身程もある大きなステッキを手に持つツブラ。その写真がモニターに大写しになっていた。

 魔法円というだけにこの世のものでないのか、ツブラが撮影時に虚空に描き出した光のそれは、写真には写らなかった。

 仕方がないのでツブラの指示の下、写真に合成でその魔法円をはめ込むことにした。ペイントソフトで、蛍光色の魔法円が描かれていく。

「『シュ』何とかの、『は』何とかは、何ですか?」

 ミソノはやはりその単語が覚えられない。

「物理学者アーヴィン・シュレーディンガー先生が導き出した、波動関数の方程式です」

「もっとおどろおどろしい呪文ではないのですか?」

「いいえ、魔法も学問ですから。真理を突いてる言葉こそが、魔力の深淵から力を呼び出すのには合ってるんですよ」

「なる程。分からないところが、凄いのです」

 ミソノが顔だけは納得したように頷く。

「五芒星を描いて、それを囲むように内円を描いて下さい。それに沿うようにして魔法のスペル――この場合シュレーディンガーの波動関数を書いて、外円とともに囲えばでき上がりです」

「そうなのです! ドカーンとやって、バイーンとしちゃって、ズキューンてな感じで、カキーンとお願いします! 新聞部の皆さん!」

 ツブラの指示をミソノが中継する。

 もちろん新聞部員はツブラの指示にだけ従って、パンフレットの編集に勤しんだ。

「違うのです。もっとドカーンとキーを叩いて、バイーンとモニターを輝かせて、スギューンとコードを挿して、カキーンとマウスを振るのです! もっと劇的な操作をお願いします!」

 ミソノは中身はどうでもいいらしく、パソコン操作に何やらパフォーマンスを求めた。

「方程式はネットで検索すれば、いくらでも記入例が見つかりますからそれで…… ――ッ!」

 作業が順調に進んでいる中、ツブラが携帯を取り出して席を立った。

「あっ? はい、高瀬川です。はい! いえ、大丈夫です! 何でもありません!」

 そしてそのまま何やら話し込み、ツブラは頭を何度も下げながら、言い訳めいた話を長々とし始めた。

 ツブラの平謝りの声を背に、新聞部員達は作業に没頭し、ミソノは動いた開いた消えたと叫んでは、パソコンのモニターに熱狂していた。

「ツブやん? どうしました?」

 やっと電話が終わったツブラに、ミソノが暢気に振り返る。

「いえ、さっきミソノさんと戦った時に、規則以上の力で魔法を使ったから、魔法管理センターから確認の電話が……」

 ツブラの台詞はそこで止まる。

 とりあえずデザインの叩き台ができていたようだ。プリンターから出力された用紙を、ミソノが新聞部の面々と覗いていた。

「――ッ! その方程式は!」

 ツブラがその出力用紙の模様に目を剥く。

「ん? この方程式はツブやんの指示通り、検索して探し出した、その何とか先生の銅像に刻まれてる、何とかの方程式ですが?」

「ダメです! シュレーディンガー先生の銅像に刻まれている波動関数は、学生のいたずらで先頭にマイナスが書き加えられてるんですよ!」

「むむ! マイナスから始まるとは、何と男らしい!」

「ち、違います! 魔法円のスペルに、そんな間違いをしたら――」

「間違いをしたら? 何ですか、ツブやん?」

 ミソノが暢気にそう尋ねると、そのミソノの手元が妖しく輝いた。

 そう、それはまるで太陽のネガとポジを、魔術的に裏返したかのような妖しい光だ。

 まさにこの世の真理のマイナス面を思い起こさせるネガティブな光だ。

「むむ! 何か光ってるのです」

 だがミソノはそんな負の光が全く気にならないようだ。

 ミソノが負の光に顔を照らされながら、のほほんと魔法円を覗き込むと、

「ああっ!」

 一際妖しく輝き出した光にツブラが悲鳴めいた叫びを上げた――

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