魔法少女3
「で、どうなったのよ?」
職員室から戻ってきたミソノに、キラリが生徒会室で呆れて尋ねた。
キラリは先程と同じく生徒会長のイスに座っていた。そして天板に肘を突き、その手首に己の顎を乗せている。
己の頭すら重い。そうとでも言いたげだ。
おおよその話を先に教師から聞いていた。それだけで憂鬱な気分にさせられた。
「いやー。ツブやん、強いや、キラリン。電撃は放つは、炎は上がるは、繰り出した拳は見えない壁に防がれるはで、まるで歯が立たなかったよ」
破れて焦げて水浸しになった制服を纏い、ミソノが目を輝かせていた。ミソノはキラリの机の前に立ち、拳を握って力説する。
「魔法少女だもんね、高瀬川さん」
「そうなのさ、キラリン! 魔法少女の電撃をかいくぐり! アレなステッキが呼び出す氷の礫を打ち砕き! 机すら巻き上げて唸る突風を突き抜け! 放っては弾かれる拳と蹴りを何度も諦めずに繰り出して!」
「ふーん」
「魔法で呼び出された、炎でできたでっかいニャンコを投げ飛ばしたら――」
「それ、ライオンらしいわよ、ミソノ」
生徒自己紹介の名簿をめくりながら、キラリが口を挟む。
ツブラのページに使い魔として『紅蓮の獅子』と書いてあった。
この紅蓮の獅子とやらを、ミソノは素手で投げ飛ばしたらしい。
「ええっ、そうなのキラリン? でさ、その『ぐれんのしし』とやらの、でっかいニャンコを天井に投げ飛ばしたら、何と天井から水の魔法が! やられたって叫んだら――」
「ミソノ…… それはスプリンクラーよ……」
先に教師から聞かされていた内容を思い出し、キラリが溜め息混じりに呟いた。
職員室でどんなにミソノをこってり絞っても、毎度毎度無駄なのだ。
ミソノは職員室を出る頃には、カエルの面に水と言わんばかりにまさにケロッとしている。そのことを知っている教師達は、最終的なお仕置きをいつもキラリに一任していた。
「何と! 炎と水の魔法の同時攻撃だと思ったら、そんな味な真似を! やっぱツブやん凄いや!」
「ミソノ。頼んだ内容は覚えてる?」
「へっ? 何か頼まれてたっけ、キラリン?」
――バンッ! バンッ! バンッ!
とキラリが生徒自己紹介の名簿を平手で叩いた。閉まらないジャムの栓を押し込めるかのように、有りっ丈の苛立ちを込めて叩いてやったが、
「ああ! パンフに載せる生徒だね、キラリン!」
もちろんミソノはその中の熟成し切った甘いイチゴジャムのように、ツヤツヤでテカテカでプルプルの赤い頬を揺らす。どうにも楽しげだ。
「そうよ」
「ツブやん。オッケーだって、キラリン。パンフに載りますって、何だか気の毒な程怯えながら、快諾してくれたよ。何でだろうね、ツブやんの方が、圧倒的に有利だったのに」
「勝敗はこの場合、関係がないからよ、ミソノ」
「むむ。では、ツブやんとの勝負は、今度改めて――」
「いいから。勝負はいいから。次の募集の第七次のパンフには間に合わないから、その次のパンフに間に合うように、ゲラ起こししといて。新聞部に機材と元データがあるから。彼らに頼めば、全部やってくれるから」
「オッケー、キラリン。これでウチの学園、廃校は免れるんだよね?」
「まだまだよ。一人じゃ心もとないから、他の人にも声をかけて。いい? 勝負は挑まなくっていいからね」
「分かったよ、キラリン。一人でも多く、協力してもらうね――」
ミソノはそう応えると、足取りも軽やかに出口に向かい、
「腕ずくでも!」
やはり分かっていないような一言を残して、ドアの向こうに消えた。