能力少女7
「むう! ハワワさんなのです! こんにちは!」
陰から陰湿な雰囲気を纏って現れた少女に、ミソノが能天気に呼びかけた。
だがハワワは相変わらずの目つきで、ミソノ達を睨みつける。
半目に見開いた、目の下にクマの浮いている病的な眼差しだ。
それでいて、その奥底からは確固たる意思を感じさせている。目で己の意思を表明する為に、クマが出るまで半目で睨みつけた結果。そんな感じがしないでもない。
だが今一番その目から感じるのは、確かな敵意だ。敵意を剥き出しにして、ハワワはこちらを睨みつけている。
「やっぱりあなただったのね。何でこんなことをするの?」
「……別に。ただ人間が嫌いなだけよ……」
「人間が嫌いだなんて、そんなの悲しいです」
ツブラが魔法の杖を握りしめながら、説得しようとする。
「どんな事情があっても、同じ高校の生徒じゃ――」
「……」
だがツブラの懸命の説得を、ハワワがその病的な眼差しを向けるだけで遮ってしまう。
「むむ。人間嫌いなら、パンフに載って克服するのです。ハワワさん!」
「てめえは、ある意味感心するな。ここにきてまだパンフの話かよ?」
「ぬぬ、あやねこっち。それ以外に何の話があると言うのですか?」
「あのな――」
何か言いかけた妖猫を ハワワが一際鋭く睨みつけた。
「何だ? この野郎! 喧嘩なら買うぞ!」
妖猫が頭身を一つ下げ、猫耳を生やして敵意と視線とその猫耳をハワワに向ける。
「……」
「何だよ?」
「……ネコ耳なんて、あざといわ……」
「何だと!」
猫の尻尾を発動させ、妖猫の頭身が更に一つ小さくなる。六頭身の妖猫が、今は見上げながらハワワを睨み返す。
「鯖街道さんの変容は、あなたのせいね?」
「ギヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「……そうよ。その娘の脳に電流を送り込むことで、眠っている能力を呼び覚ましたの……」
ハワワが花壇の中央を陣取った。
その足下で、風もないのに草木が揺れる。その横ではひまわりが、その頭上ではヘチマや竹が、やはり意思でもあるかのようにざわざわと揺れた。
「むむ。フラグロイドの力なのですか?」
「フラグロイドだぁ? 何だ? 昨日の電撃もこれも、超能力の類いなのかよ?」
「……違うわ。私は至って普通よ。作られた以外はね……」
「じゃあ何ですか? 他人の超能力を呼び覚まし、今も草木すら操っているように見えますけど……」
ツブラが魔法の杖を構え直す。
「グヒヒヒヒヒヒヒッ!」
今や味方についた田中が、一緒になって身構えた。
「……そうね。人体に詳しいのは、確かにフラグロイドだからよ。私を作る程の知識を、会社は私自身に覚え込ませたの……」
「その知識の中に、植物を操るものもあると?」
シャラランが巫女さん袴からお札を取り出した。手にしたのは『家内安全』と書かれた一枚だけだった。
先程まで束で出していたそれは、もはやこの一枚で底を突いたらしい。
「……ええ、あるわ。でもこの子達は、私が好きなのよ。だから協力してくれるの……」
「むむ。流石はハワワさん。植物に好かれるとは、凄いのです」
「バカね。植物にそんな感情ある訳ないでしょ。ねぇ、観月橋さん?」
ふふん、どうかしら――
とハワワは鼻で笑って続ける。
「……これは――ううん。この子は、インドで『聖なるバジル』や『比類なきもの』と呼ばれているハーブよ……」
手に持った植木鉢の縁を愛おしげに撫で、ハワワは『この子』と呼んだハーブを見つめる。
「ハーブが何だってんだ!」
「……この子はね――」
やはりハーブを『この子』と呼び、ハワワは植木鉢を撫で続ける。
「……私と同じ作られたもの。竹もヘチマも、ひまわりも。ここの花壇にある子は皆同じ。私が学校に持ち込んだわ……」
「遺伝子組み換え植物って訳?」
「……そうよ。特にこの子はある特徴を、マルコフ社に目をつけられたの……」
ハワワは今度はハーブを直接撫でる。ハーブが嬉しげに身を震わせた。
「ぬぬ。特徴とは何なのですか?」
「……知りたい? じゃあ――」
ハワワが静かに鉢植えを前に掲げ上げると、
「自分で味わってみれば!」
その手の中のハーブが放電を始めた。