能力少女6
「何ですか? ミソノさん?」
グラウンドの一角。花壇で電撃を放ちながら宙に浮く異様な女子生徒に向かって、ミソノが暢気に奇声を発した。
「ツブやん! それではダメなのです! そこは『クヒヒヒヒヒヒヒッ!』なのです!」
「訳せんのかよ? てか、あれ言語なのかよ!」
「ミヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「ほら、田中さんは応えてくれたのです。リヒヒヒヒヒヒヒッ!」
ミソノが嬉しそうに田中に手を振った。
「応えたのかよ? てか、何て応えたんだよ?」
「ミヒヒヒヒヒヒヒッ! ですが?」
「繰り返しただけじゃないの!」
「む? シャラランさん。『ミヒヒヒヒヒヒヒッ!』を『ミヒヒヒヒヒヒヒッ!』以外に、何と言えばいいのですか?」
「あのね」
「ケヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「むっ。田中さんも賛同してくれてるのです」
「ダメだコイツら。本能で話してやがる」
「クヒヒヒヒヒヒヒッ!」
あきれ顔の妖猫を余所に、ミソノは楽しげに奇声を発する。
「ヌヒヒヒヒヒヒヒッ!」
田中が応えるように、こちらも奇声を発した。そして電流の勢いが少し弱まった。
「オヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「ソヒヒヒヒヒヒヒッ!」
ミソノが奇声を発しながら、少しずつ花壇に近づいてく。
「モヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「ノヒヒヒヒヒヒヒッ!」
少しずつ近づいていくミソノ。それは見ようによっては、文字通り相手に歩み寄っていると言えなくもない。
「ミソノさん! 危ないですよ!」
「いいわ。高瀬川さん。あの娘に任せましょう」
慌てて後を追おうとしたツブラを、シャラランが押し止めた。
「イヒヒヒヒヒヒヒッ!」
田中は相変わらずの奇声を発しながらも、もはやその身は花壇に降り立っていた。周りを囲む電流も、急激に収まっていく。
「ギヒヒヒヒヒヒヒッ!」
ミソノがその手を取った時にはもう――
「ミヒヒヒヒヒヒヒッ!」
奇声以外は、普通の女子生徒に田中は戻っていた。
「キヒヒヒヒヒヒヒッ!」
田中が眼鏡を陽光に光らせて、嬉しげに奇声を発した。
「ああ! 事件を乗り越えた田中さんが、こんなに明るい声を出す娘に。嬉しいのです!」
「田中さん! それでいいの?」
手を取り合うミソノと田中の下に、シャララン達が慌てて近づいてきた。
「イヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「いいみたいなのです」
「いいのかよ、これ? てか、ご両親にどう説明すんだよ?」
「あら、妖猫。あなたが、説明してくれんの?」
「しねえよ! 俺が頭脳担当な訳ないだろ!」
「でも、話し合いで事件を解決するなんて。ミソノさん、見直しました」
「むむ。あたしはいつも通りにしただけなのです。そうでしょう、田中さん? ルヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「グヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「パンフにも載って下さい、田中さん! ギヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「ビヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「むむ、載って下さるのですか? ありがとうなのです! ケヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「いい話のような気がしないでもないが、俺の気のせいだよな?」
「私もそう思うわ」
「でも、何で田中さんはこんなことに…… 魔導書のせいですか? このままで大丈夫なんですか?」
「魔導書ね……」
シャラランはそう呟くと、己の足の先を見つめた。
そこは花壇だった。風に揺られ、見慣れない草花が揺れている。
「何だよ? 何が言いたいんだ、シャラランの?」
「確かに、田中さんがおかしくなったのは、魔導書を妖猫が閉じた瞬間だったわ。それまでに漏れ出た霊力で、田中さんが影響を受けたようにも思えるわね」
「そうですけど…… あっ? でも、田中さんからは、全然魔力の類いは感じませんでした」
「むむ。シャラランさん。田中さんは、超能力に目覚めたのです」
「グヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「ほら田中さんも、賛同してくれているのです。ヌヒヒヒヒヒヒヒッ!」
「そうね。だからこそ、そのきっかけが、魔導書ってのはおかしくない?」
「もったいぶり過ぎだぜ、シャラランの。何が言いたいんだよ?」
「魔導書はただの偶然だった。その後に起きた、電撃こそ、田中さんの異変始まりだった……」
シャラランは身ごと振り向く。
その視線の先は暗い陰となっていた校舎の一角。一際大きな木と校舎が作り出した陰だった。
「そんなことができる生徒がいるとすれば…… そうね。それは電気を自在に操る生徒――じゃないかしら」
「なるほどな……」
一度その生徒と対戦した妖猫が直ぐに察するが、
「シャラランさん。それは誰なのですか?」
もっと多く邂逅しているはずのミソノは、無邪気に己の疑問を口にする。
「出てきたら? あなたがやってるんでしょ?」
シャラランが校舎の陰に呼びかける。
すると病的な眼差しを殊更好戦的に向けて、
「……」
観月橋波羽和が植木鉢を片手に現れた。