能力少女5
「誑乱! 五条坂! 二人は新聞部の男子を!」
襲いくる学校備品の残骸に向けて、シャラランがお札を乱舞させた。同時に未だ気を失っている男子生徒をそれぞれ指差す。
「高瀬川さんは、私と破片を!」
「はい!」
ツブラは応えるや否や、魔法の杖をふるった。
「ヌヒヒヒヒヒヒヒッ!」
シャラランのお札が田中の視界を塞ぎ、ツブラが残骸の攻撃を不可視の力で押しとどめる。
その状況に怒りを覚えたのか、田中の周りの電流が勢いを増した。
「ぬぬ。任せるのです!」
ミソノが新聞部員の一人を肩に担ぎ上げた。
「任せろ――って! 何で、てめえが仕切ってんだ! 深泥池の!」
妖猫がとっさに頭身を戻し、残り二人の新聞部員を脇に抱える。
「うるさい! さっさと脇に非難させて!」
「たぁーっ!」
「この!」
ミソノと妖猫がそれぞれ壁際に跳んだ。未だ気を失ったままの新聞部員を、その壁際に立てかけてやる。
「足止めするわ!」
シャラランのお札が勢いを増す。
『家内安全』『無病息災』『大願成就』――
やはり普通に神社で売ってそうなお札が、渦をなして田中の顔に襲いかかった。
「ジヒヒヒヒヒヒヒッ!」
だが田中を守る電流が、そのお札に襲いかかり一瞬で焼いてしまう。
「待たせたのです!」
男子部員を壁に置いたミソノが、そう叫ぶや田中に飛びかかる。
「一人でいくな! 誑乱の!」
その反対側からは、妖猫がやはり床を蹴って飛び上がった。
「怪我をさせないように……」
ツブラは不可視の力を叩きつけ、周りを飛び回る破片を次々と落としていく。
「ぬっ?」
ミソノの飛び蹴りが、田中の電流で止められた。
ミソノはそのまま感電したかのように、その身を空中でとらえられてしまう。
「なっ?」
飛びかかった妖猫も、やはり電流にその身を捉えられてしまう。
「イヒヒヒヒヒヒヒッ!」
更なる田中の奇声とともに、二人の体が空中で一回転させられた。
「おりょ?」
「うわっ!」
そしてミソノと妖猫の体は、
「キャーッ!」
「ちょ、ちょっと!」
悲鳴を上げるツブラとシャラランに向かって投げつけられた。
ミソノがツブラに、妖猫がシャラランにぶつかり、その向こうに弾け飛ぶ。それは窓すら打ち破る程の威力だった。
四人の体がガラスを突き破って外に投げ出された。
「ミソノさん! 掴まって!」
ぶつかられた衝撃で、自らも揺れる視界の中で、ツブラは魔法の杖に波乗りの要領で足をかける。
「おお! やってみたかったのです」
ミソノもその後ろに乗るや、魔法の杖は地面すれすれで宙を舞った。ミソノのアホ毛が、飛行機の垂直尾翼よろしく、ピンと伸ばされた。
「キャーッ!」
「掴まれ! 深泥池の!」
悲鳴を上げるだけで、空中でどうすることもできないシャラランを、妖猫が抱きとめた。
くるりと猫よろしく空中で反転するや、妖猫は柔らかく両足を着いてグラウンドに降り立つ。
「ありがと。礼を言うわ。五条坂さん」
「けっ! 『さん』づけとか、気持ち悪いから、止めてくれ」
「じゃあ――妖猫ね。いくわよ、妖猫!」
「けっ! 好きに呼びな! シャラランの!」
油断なく身構えるシャラランと妖猫。その横にツブラがミソノを伴って降りてきた。
「むむ、ツブやん。もう少し空を飛んでいたいのです」
「暢気なこと言ってんじゃないわよ。きたわ!」
シャラランのその言葉通り、田中が校舎から飛び出すやグラウンドに降りてきた。地面に着地する寸前に、その身が一瞬浮いたようになりその衝撃を吸収してしまう。
「磁石みたいですね……」
「そうね。電気を自在に操るみたいだし、磁気でも使ったんでしょ?」
「電気使いの超能力者ってか?」
「本人もパソコンの残骸も浮いてましたよ。念力も使うんじゃないでしょうか?」
「むむ、増々超能力なのです。倒しがいがあるのです!」
「倒す、倒さないじゃ、ないでしょ?」
「ぬっ! そうなのです。パンフに載ってもらうのです!」
ミソノは嬉しげに一歩前に出ると、いつもの台詞を口にした。
「キラリン生徒会長の命により! 一年一組鯖街道田中さん、パンフに載って下さいなのです!」
「ミソノさん…… それも、今はどうかと……」
「ミヒヒヒヒヒヒヒッ!」
田中が降り立ったグラウンド。それは花壇の一角だった。田中の奇声とともに、その地面から電撃が放たれ始める。
「何よ? 校舎の電気を利用してるのかと思ってたのに、何処でも電気を起こせるって訳?」
「どうだろうな? だが、そうなると倒すのは、厄介かもな」
「それに、正気を失ってるだけですよ。一般生徒に怪我でもさせたら……」
「正気に戻そうにも、こちらの言葉が届かないみたいだし……」
「一発殴って、正気を取り戻させるか?」
「近づくのも困難ですけど……」
シャラランに妖猫、ツブラがそれぞれに息を呑む。
「それなら。こちらから、歩み寄るのです!」
そしてそんな雰囲気に負けず、やはり暢気にミソノは口を開く。
「はぁ?」
シャラランが皆を代表したように、素っ頓狂な声を上げた。
「こちらに引き戻そうするからダメなのです! こちらから向こうに歩み寄るのです!」
「何言ってんだ?」
妖猫もいぶかしげに振り向く。
「こっちの言葉でダメなのなら、向こうの言葉を話すのです」
「向こうの言葉って、何言ってんのよ?」
「シャラランさん。分からないのですか? 田中さんはさっきから、必死に我々に話しかけているのです。皆さん、あたし達は鯖街道田中さんの心からの声を、聞こえていて気づかなかったのです」
「はい? あのミソノさん……」
「さぁ、皆さんご一緒に!」
ミソノはそう言うと喜色満面な笑みを浮かべる。そしてアホ毛を跳ね上げるや、
「フヒヒヒヒヒヒヒッ!」
田中も顔負けの奇声を発した。