能力少女3
「何? この光!」
「電撃だ! 雷みたいな稲妻が隣の部屋で――」
シャラランの驚きの声に妖猫が答えよとした。
だが――
「キャーッ!」
そう、だがその時、ツブラの悲鳴とともに爆発音が響き渡り、その声を途中で遮ってしまう。
「ぬぬ? 何事なのです?」
その爆発音ととともに、ミソノ達の向こうでパソコンとコンクリートが宙に舞った。
コンクリートは視聴覚室の壁だった。隣の図書室からダイナマイトでもしかけたかのように、コンクリート片が爆発的に周囲に飛び散った。
そして壁際のパソコンが同時に宙を舞う。
それも一つや二つではない。パソコンが壁に近い順から次々と弾け飛んでいった。
幾つものパソコンが、同心円状に飛んでいく。まるで誰かがパソコンを弾き跳ばしながら近づいているかのようだ。
「ケヒヒヒヒヒヒヒッ!」
いや、やはり誰かいるようだ。パソコンが地に落ちる派手な音とともに、異様な声が近づいてくる。
「何ですか? この上、何があるんですか?」
ツブラが魔法の杖を手に、机をひらりと乗り越えた。
「分からないわ! 魔導書の霊気は一気に収まったのに!」
シャラランがミソノ達の下に駆け寄る。ツブラも合流した。
「なんだ? 妖気ももう感じないぞ? 何の声だ」
「ニヒヒヒヒヒヒヒッ!」
パソコンが宙を舞った辺りに土煙が舞っている。その薄やみの向こうから、人間のシルエットが現れた。
その身は宙に浮いていた。
「むう。誰なのです?」
人並みはずれて視力のいいミソノが、先ずその姿に気がついた。
「誰って? 人間なの? てか、生徒なの?」
「ああ、セーラー服だ。女子生徒みてえだな」
こちらも目のいい妖猫が答える。
「うちの生徒が、パソコンを弾き跳ばしたんですか? あの数を? 魔法も使わずに? 魔力は感じませんでしたよ!」
ツブラが散乱するパソコンの残骸に、目を剥きながら息を呑む。
土煙を従えるかのように、一人の眼鏡の女子生徒がゆらりと現れる。
「ぬぬ。あれは――」
ミソノがカバンから生徒自己紹介を取り出した。
「一年一組の田中さんなのです」
とっさにページをめくり、ミソノはその容姿から相手を特定する。
「リヒヒヒヒヒヒヒッ!」
田中と呼ばれた女子生徒が、まるで応えたかのように奇声を発した。そしてこちらもそれに応じるように、視聴覚室中の電灯が音を立てて割れた。
閃光を発して消えた電灯の光が、田中の分厚い眼鏡を一瞬煌めかせた。
「一組の田中さん? 知らないわ。何者!」
シャラランが電灯のガラスから、身を守りながら身構える。
「むむ。自己紹介には、無口でシャイと書いてあるのです」
「それ、今関係あんのかよ! てか、あれの何処が無口だ!」
「五条坂さん。でもあれ、普通じゃないですよ。何かに取り憑かれてるのかも……」
ツブラが田中の様子に息を呑む。
田中の周囲では、弾けとんだパソコンの電源が火花を散らしていた。それはまるで田中の身を守るかのように、その周りで帯電する。
「そうね。無口でシャイからは、程遠いわね。でも――」
シャラランが巫女さん袴の懐に手を突っ込む。
「霊力の類いはやっぱり感じないわ」
そしてお札の束を取り出しながら続けた。
「でも、まさか! 魔導書の影響ですか?」
ツブラも魔法の杖を構える。
「ヌヒヒヒヒヒヒヒッ!」
そのツブラに挑むように、田中が応える。周囲に帯電した電気が渦を巻き始めた。
「他になんて書いてあるんだ? 誑乱の!」
妖猫も身構えながら田中と向き合う。
「他ですか?」
「おう! 何か役に立つことは、書いてないか?」
「むむ。趣味は――ポエムだそうなのです!」
「ブッ! 要らねえよ! そんな恥ずかしい情報!」
「グヒヒヒヒヒヒヒッ!」
電気の渦が爆発する。周囲に小さな雷をまき散らした。
「あら、怒らせたみたいよ。五条坂」
「そうですよ。失礼ですよ。趣味は人それぞれですよ」
「るっせぇ! この状況で、ポエムとか言うからだ!」
「ギヒヒヒヒヒヒヒッ!」
更なる電撃が周囲にまき散らさせた。
「近づけねえ…… 怒ってんのか? 化け物のくせに?」
「ぬぬ。あやねこっち。感心しないのです。田中さんは図書室とポエムが好きな、普通の文芸部員さんなのです」
ミソノは更なる情報を生徒自己紹介から拾い上げる。
「そうよ。何かあっただけで、普通の生徒のはずよ。人間よ」
「でもよ……」
「そうなのです! 一人の人間として、対話を持つべきなのです!」
ミソノはそう言うと、ばんっと前に出た。
「落ち着いて下さいなのです!」
そしてミソノは一人の人間として立ち向かう為か、
「鯖街道田中さん!」
少女をその名で呼びかけた。