魔法少女2
「という訳で、キラリン生徒会長の命により!」
ミソノは『生徒自己紹介』を開くと、真っ先に目に止まった生徒の教室へと向かった。
「一年七組高瀬川円羅さん! ちょちょいと、学園の危機を救ってもらいます!」
七組の生徒が男子女子ともに、一斉にミソノに振り返った。
皆席に座っている。教師の話に耳を傾けている。
そう、何処からどう見ても――
「あなた…… 確か、三組の誑乱さん? 今、授業中なんだけど……」
授業中だった。
「むむ、物理の鴻池先生! 非常事態なのです! 学園の危機なのです! キラリン生徒会長の用事なのです!」
ミソノは臆せず気にせず省みず、ズカズカと教室に入ってくる。そのまま一人の気弱そうな女子生徒の前で、ミソノは満面の笑みを浮かべて立ち止まった。
「な、何ですか……」
気の弱そうな女子生徒は、やはり見た目のままに気が弱いのか、か細い声を絞り出す。
「一年三組誑乱御園です。はじめましてなのです」
「タラランさん? はぁ、よくお名前は耳に入ってきます」
「むむ! 学園にあたしの名が駆け巡る度に、キラリンのお小言が飛んでくるのです! 有名税とはいえ、理不尽なのです!」
「いや、その…… 学食で萬漢全席にチャレンジしたり、消火栓開放して虹を作ったりしたら…… そりゃ、生徒会長さんなら、怒ると思いますけど……」
「そうなのです! あの時もキラリンにお小言をもらったのです!」
「はぁ……」
「だがしかし! そんなことは、今はどうでもいいのです! 高瀬川円羅さんですね?」
「はい……」
名前を改めて呼ばれて少女は小さく頷く。
周りは教師も含め全員の目がツブラに向いていた。気が弱いであろうこの生徒には耐えられない状況だろう。
「ツブやんと呼んでいいですか?」
「えっ? ええ……」
ミソノの突然の申し出に、ツブラが戸惑いの声を上げる。
「では、ツブやん」
ミソノはもちろんその困惑の声を、肯定の意味にとらえる。
「本題です。あなたが魔法少女との情報を、密かに入手しました」
「その…… 今手で持ってらっしゃる自己紹介の冊子に、自分で書きました。特技の欄に『魔法少女』って……」
「何と! 極秘ファイルだと思って、キラリン生徒会長から受け取ったつもりが! 割に一般的とは! 受け取った時のあの胸の高鳴りは、いったい何だったというのですか?」
「はぁ…… 入学式の時に全員に配られてましたけど、そのファイル? ミソノさん、覚えてないんですか?」
「むう、確かに教科書やその類いは、一度も開いた覚えがない! 数学と、英語と国語の教科書を積み上げて枕にすると、授業中に寝るのに丁度いい高さになる。あたしが教科書から学ぶのは、そんなことだけ。いや! そんなことはどうでもいいのです! ツブやん!」
「はい……」
「あなたには、学園の役に立ってもらいます! たとえ――」
ミソノがビシッと指差すと、
「力ずくでも!」
ツブラがビクッと身を震わせた。
「何ですか? 何で私が決闘なんて、しなくちゃいけないんですか?」
ツブラが頑にパンフレットに載ることを拒むと、ミソノが決闘だと言い出した。
「学校紹介のパンフに載るのは、どうしても嫌だとおっしゃるからです」
ミソノがそう言うと、教室の机が全て後ろに下げられた。茫然自失の教師とツブラを余所に、他の生徒達がノリノリで教室に場所を空けていく。
「それは…… そうですけど……」
己をやんやと取り巻く生徒達を、ツブラはオロオロと見回した。
「では、決闘です!」
「短絡すぎませんか!」
「学園の危機なのです!」
「う……」
「では、変身して下さい」
「嫌です……」
「何故です。変身しない魔法少女など、竜頭だだだだ、むう! 思い出せん。とにかく、変身して下さい!」
「理由がありません」
「男の戦いに、理由など必要ないのです!」
「ミソノさんも私も女の子です! てか、魔法少女を、お探しだったのでは!」
「むっ! 痛いところを突く! おのれ、油断させておいて、やる気満々とは! 畏れ入ったのです!」
ミソノが心底目を輝かせる。本気で畏れ入っているようだ。
「だがしかし! 本気で尊敬できる人間程、己の全てをぶつけられる強敵――」
ミソノは叫ぶや否や教室の床を蹴る。
「友なのです! たぁーっ!」
「ひぇー!」
そして心底嬉しげに、本気で悲鳴を上げるツブラに向かっていった。