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人造少女6

 享都府享都市上刑区鴉魔通り西入る一畳下がる――

 桐凛家別宅。

「ハワワさん。どうしてもダメかも、キラリン」

 ミソノがお風呂の扉に背中を預け、入浴中と思しきキラリに話しかけた。ミソノは足を伸ばし、転げ落ちていた洗濯物を蹴り上げた。

 トランクスが弧を描いて洗濯待ちのカゴに飛んでいく。ぱさっと一度その縁にかかるが、下着はカゴの中に消えた。

「そう。仕方がないわ。とりあえず高瀬川さん達三人だけでも、オッケーをもらったし。ひとまずはよしとしましょう」

 お湯を浴びる水音とともに、キラリが応える。

「ゴメンね。キラリン」

「別に。無理強いはよくないわよ。言ったでしょ?」

「むむ。時には必要だよ」

「いつもやってんでしょ」

「あたしは、一生けけけけ。何だっけ、キラリン?」

「一生懸命でしょ」

「そう、それ。キラリン、あたしは常に一生け――」

 ミソノが己を正当化していると、玄関でチャイムが鳴った。

 ミソノが玄関に出ると、そこには見知った顔がいた。キラリが懇意にしている、印刷会社の営業担当者だった。

 営業担当者はミソノに向けて、ペコリと大きく頭を下げる。

 ミソノも応えて大きく頭を下げた。頭に合わせて、アホ毛も大きく前に下がった。

 ミソノは客人をリビングに招き入れ、席を勧めてなんとか見よう見まねでお茶を淹れた。

「キラリン! 印刷会社の人だったよ」

「えっ? ウソッ! ゴメン、忘れてたわ! ミソノ。私の部屋に原稿があるから、それ渡しといて」

 ミソノがお風呂の様子を見にいくと、中からキラリが慌てた声を上げる。

 ミソノはキラリの部屋から、印刷会社の封筒を持ち出した。

「キラリン。原稿ってこれ? 前の第六次の募集のパンフみたいだけど」

 ミソノは廊下から、風呂場のキラリに声をかける。

「いいのよ。募集回数の表記を『第七次』に変えて、説明会とかの日程を変更するだけだから」

「ふーん」

 ミソノはパラパラッと、パンフレットのページをめくった。

 確かに数字と日程だけが、赤で修正指示を入れられている。つまりそれだけ、前回と代わり映えのしない募集だという訳だ。

「シャラランさんの活躍とか、紹介したかったね、キラリン」

「元から間に合う日程じゃなかったからね。第七次のパンフは仕方ないわよ。第八次募集用のパンフで、ばーんと載せさせてもらいましょ」

「そうだね、キラリン。あれ? 『第六次』のままになってるところがあるよ」

 ミソノはページの最後の方に、間違いを一つ見つけた。

「えっ? ホント? ゴメン。直しといて。赤入れて」

「赤?」

「そうよ。赤ペンで書き直したい字を消して、正しい字を書き入れるのよ。他の見れば分かるから」

「分かった。赤字で書けば、いいんだね? やっておくよ、キラリン」

「ありがと…… 責任校了だって言って、渡しておいて。ちゃんとお願いしますって、言うのよ」

「おうともさ、キラリン」

 ミソノは印刷に回される一つの前の原稿に、赤ペンで修正を入れた。 

 ミソノが応接間にいくと、印刷会社の男性社員が、またもやペコリと頭を下げた。ミソノも応じて、頭を下げる。

「これが原稿だそうなのです。責任とれとか何とか言ってましたが、気にしないで下さいなのです」

 ミソノは原稿を渡そうとして、ふと手を止める。

「ちょっと待って下さいなのです」

 そう言うとミソノは、その場でパフンレットの最後の余白に、赤で一文を入れた。ミソノは満面の笑みで顔を上げる。

 そして渡す寸前になって、キラリに言われたことをやっと思い出す。

「えっと――」

 ミソノはにっこりと微笑む。そしていい笑顔で、

「ちゃんとお願いします」

 と、キラリに言われた通りに言えた。

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