人造少女5
竹の葉が刃と化して舞った。
竹の葉を避けながら、突進していくミソノ。
近づくにつれて避け切れなかった竹の葉が、ミソノの制服を切り裂く。
「あはは! 効かないのです!」
だがミソノは、制服を千々に切られながらも飛び上がる。
その後ろでは全くもってただの巻き添えで、通りすがりの生徒が竹の葉を食らっていた。
「……そう。じゃあ、これはどう……」
ハワワが再度右手を振り下ろした。ハワワの足下から、電撃が放たれる。
「ウヒヒャア!」
突然の雷にやられて、ミソノが奇声を発する。ミソノの体が弾き跳ばされた。それでいて、アホ毛は楽しげに揺れていた。
「何やってる! 誑乱の!」
ミソノの体が宙を舞うや、突如現れた五条坂妖猫に空中で抱えられた。
妖猫は長身を取り戻していた。人に近い身体能力でも、ミソノの体を空中で抱えるぐらいはどうということはないようだ。
「あやねこっち! 助かったのです!」
「……猫の娘……」
ハワワが現れた妖猫に、挑戦的な視線を送る。
「何朝から騒いでんだ? もう授業が始まるぞ」
ミソノを抱きとめた妖猫は、猫の半妖らしく柔らかに着地する。
「ハワワさんと、仲良くしていたのです」
「ハワワ? あの怪しい目つきの女か?」
妖猫がミソノを降ろした。そのままこちらを凝視する女子生徒を睨み返す。
「何が仲良くだ。どう見たってあれは――」
妖猫の目が、猫のそれに変わる。朝の陽光に合わせてスッと縦に細くなったその瞳孔。それはまるで、斬りかかる前の日本刀を思い起こさせた。
妖猫は頭身をぼんっと縮めながらも、その猫目でハワワを睨みつける。その目の奥底に見え隠れするハワワの陰鬱な気配を直接覗かんとしているかのようだ。
「喧嘩を売ってる目じゃねえか……」
妖猫も一瞬で臨戦態勢に入ったのだろう。その背が少し猫背になる。
「あやねこっち。喧嘩腰はよくないのです」
「てめえは、喧嘩そのものをしてたじゃねえか! せっかく立て直した祠の近くで、喧嘩するってんなら俺が相手になるぜ!」
ぐるると唸る妖猫。有りっ丈の敵意を、ハワワに向け返してやる。その頭から耳が生えた。妖猫の身が更に猫に近づき、その頭身が一つ減る。
「……」
ハワワが黙って右手を振り下ろした。やはりその足下から電撃が放たれる。
「ウヒョッ!」
「食らうかよ!」
ミソノも妖猫もその電撃を身を捻って避ける。電撃は二人に避けられ、その後ろに飛んでいった。
地に手足をついて着地する妖猫。それはまるで猫が四肢を着いたかのように軽やかさだった。
「もらった!」
牙を剥く妖猫。その頭身が更に縮まった。
だが更なる半妖の力を得、その身をピンと跳ね上げようとすると、
「朝から、何騒いでんのよ」
「イテッ!」
その妖猫の後頭部を、後ろから現れたシャラランが小突いた。
「深泥池の! 何、人様の後頭部、気安く叩いてくれてんだ!」
「何言ってんの! 後ろの惨状を見なさいよ!」
シャラランはそう言って、呆れたように振り返る。
「むう。死屍るるるる。何でしたか?」
「死屍累々よ。一般生徒が、巻き込まれてるじゃない」
そう。シャラランの視線の先には、竹の葉と向日葵の種にその身を撃たれた生徒達が、最後は電撃にやられて倒れていた。
「ありゃ、俺のせいじゃねえよ!」
「はぁ? あの娘。あなたに、敵意剥き出しじゃない」
シャラランのその言葉通り、ハワワの視線は妖猫が現れてからは、ずっとそちらに向けられている。それは殺気ともとれる程の鋭い視線だ。
「知るか! 俺は喧嘩を売られただけだ!」
「むむ! あやねこっちも、やる気満々だったのです!」
「おう、そうだ! 売られた喧嘩は買うぜ!」
「ぬう! ですが、喧嘩をしにきたのではないのです! パンフに載ってもらう為にきたのです!」
「何が違うのよ? あなた、いつも同じ結果でしょ?」
「シャラランさん! それではまるで、あたしが方々で勝負をしかけてるみたいなのです! そんな噂、キラリンに怒られてしまうのです!」
「どれもこれもいつも通りでしょ? 突っかかっていっては、生徒会長にお小言もらってんでしょ?」
「むむ! 全く反論できないのです!」
「誑乱の! 遊んでるのなら、ハワワって女は、俺がやるぜ!」
妖猫が四肢を着き、そのスカートから突然生えた尻尾をピンと伸ばす。更に頭身を縮めながら、今にも飛びかからんと、妖猫はぐるるとノドを鳴らした。
「……ふん……」
だがハワワは鼻を鳴らすと後ろを向いた。無防備にミソノと妖猫に背を向け、季節外れのひまわりをひと撫ですると校舎に歩き出した。
「待って欲しいのです! まだ話は終わってないのです!」
「……」
しかしハワワは振り向かない。
「おはようございます。ミソノさん! 皆さん! 何の騒ぎですか?」
そんなハワワと入れ違うように、ツブラが校舎から駆けてきた。
「――ッ!」
そしてハワワとすれ違う際に、ビクッと身をすくませた。
ツブラはそのまま青ざめた顔で、おどおどと三人に近づいてくる。
「どうしたのです、ツブやん?」
「凄い顔で睨まれました……」
ツブラは涙目で答える。
「すれ違っただけなのに?」
「はい……」
「けっ! 性格悪そうだな!」
妖猫は妖力を引っ込める代わりに、べぇっとハワワの背中に舌を出してやった。