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人造少女4

「キラリン生徒会長の命により!」

 竹の葉が舞い狂う中を、ミソノの喚声が響き渡った。

 享都府享都市中凶区鴉魔通り西入る悪池上る――

 私立ラ・イトノ・ベル神聖不可侵学園。

 そのグラウンドに、早朝の静かな空気にそぐわないミソノの元気な声が轟いた。

 登校するや否や、花壇に向かったミソノ。もちろんハワワに会いにいったのだ。

 そしてこちらももちろん無理強いになったらしい。

「……しつこいわ……」

 ハワワはやはり竹の幹に手を着いていた。そして竹の幹は激しく揺れ、その葉をまき散らしたのだ。

「逃さないのです! たぁーっ!」

 だが竹の葉に隠れようとするハワワの姿を、ミソノの自慢の視力が追った。

 ハワワが何の予備動作もなく、ぐんと宙に浮いた。その様子が、僅かばかり竹の葉の間から垣間見える。

「そこです!」

 僅かな動きを頼りに、ミソノがハワワの跳んだ先を見抜いた。

「……な……」

 ハワワが着地した。だがミソノが先回りする程の勢いで走り込んできた。

「むむ。それはヘチマですね? ヘチマのツルを使うとはやるな! なのです!」

 ミソノがハワワが掴んでいた、植物のツルをビシッと指差す。

 そう。ハワワは竹の葉で隠れ、伸びていたヘチマのツルを掴んで、それに引っぱり上げられたのだ。

「昨日一瞬で消えたのも、ヘチマのお陰でしたか? 凄いのです、ハワワさん! 凄いのです、ヘチマのツル!」

「……そうよ……」

 ハワワがツルを放した。近くに生えていたヘチマに、そのツルが戻っていく。

「だがこのあたしに、同じ手は二度と通じません」

「……そう……」

「では、パンフに載って下さい」

「……嫌よ。何で私が……」

 ハワワがヘチマの反対側に生えていたヒマワリを愛でる。

 九月のヒマワリ。もう枯れ始め、タネをその身をため込んだヒマワリだ。

 そのヒマワリがビクンと、身震いした。たわわに実ったそのタネだらけの顔を、ヒマワリはミソノに向ける。

「パンフレットで紹介するだけなのです」

 ミソノはその異常がやはり気にならないらしい。楽しげにアホ毛を揺らしてハワワに一歩近づく。

「……作られたものとして、愛でられるのは好きです。その為に生まれてきましたから……」

「では――」

「……人間はいつもそう――」

 ハワワは呟く。額をヒマワリに預け、いつもの病的な眼差しで、ものうげにミソノを見る。

 ヒマワリの茎の中を、水が急激に流れ出した。ハワワはその水音に耳をすます。

 ヒマワリの花が一回り大きく膨らんだ。

「勝手です!」

 ハワワが目を剥き、

「オリョッ?」

 突然の展開に目を輝かすミソノに、ひまわりの種が襲いかかった。

 ヒマワリのタネが、そのガク――ウテナに溜め込んだ水の圧力を利用して、一気に吐き出された。無数のタネがミソノを襲う。

「ウヒャ!」

 思わぬ攻撃に、ミソノが嬉し気に身を翻す。ミソノが一瞬前まで立っていたその場所に、次々とヒマワリのタネが打ち込まれた。

 そしてミソノの身をかすめたそれは、登校途中だった無関係の生徒達に襲いかかる。

「……」

 ハワワが黙ってミソノを指差した。指差す少女の後ろで、葉がこすれ合う大きなざわめきが起きる。

 ヘチマのツルが、弾かれたように伸び上がった。

「むむ! やはり植物使いなのですか?」

「……違います。お友達なだけです。同じ――作られたものとして……」

 ヘチマのツルが唸りを上げてミソノに襲いかかる。まるで一本一本が、意志を持った鞭のようだ。

 ミソノは半身を右にずらしてツルを避ける。

 一本目のツルが巻き上げる土ぼこり。それが収まる前に、二本目がミソノの首筋を狙う。

 上半身をひねりその攻撃をかわすミソノ。足下のツルが地面を打った後、急激に縮こまろうとしていることに気がつかない。

 別のヒマワリがその花を大きく膨らませる。

 ミソノはかわした二本目のツルを叩き落とし、飛び上がろうと両足に力を入れる。

「とぉーっ!」

 という合図とともに、ミソノは飛び上が――ろうとしたが、その足を何かがとらえた。

「何と!」

 ミソノは目を見張る。

 かわしたはずのツルが、そのままミソノの左足に巻きついていたからだ。

「ウッヒャーッ!」

 一気に持ち上げられるミソノ。左足をツルに掴まれ、上下逆さまに吊り下げられる。スカートが地面に向って、めくれ上がった。いや、めくれ下がった。

 二本目のヒマワリが、その空中のミソノに狙いをつける。

「スパッツ履いているから、大丈夫なのです!」

 ミソノは陽気にそう言うと、腹筋の要領で上体を引き起こした。一気に状態を立て直そうとする。

 狙いをつけていたヒマワリが、タネを一斉に撃ち出した。

 完全に体の上下を取り戻したミソノ。

 一瞬前までミソノがいたぶら下がっていた空間を、ヒマワリのタネが飛び去っていく。

「たぁっ!」

 ミソノはヘチマのツルを掴んだ。

「オリャッ!」

 そして気合い一閃。右手で手刀を振り下ろし、ミソノは己の左足を掴んだツルを叩き切る。そのまま前転をしながら、ミソノは地面に降り立った。

「……大丈夫……」

 頭上のツルから垂れていたヘチマの実に、ハワワが顔を寄せて訊く。

 ヘチマは嬉し気にその実を揺らす。それと同時に、無数のツルが威嚇するかのように、空に向って伸び上がった。

「この程度、効かないのです!」

「……そうですか……」

 竹林の葉が鋭い光を放って、陽光に反射する。ハワワの合図を待つかのように、ギリギリと竹全体がしなっていた。

「……では……」

 ハワワが右手を上げる。

 足下の花が光った。それは植物にはそぐわない閃光だった。

 もちろん、ミソノは気にせず突撃する。

「これに勝ったら、パンフに載ってもらうのです!」

 ミソノはそう叫ぶと、大地を蹴った。

 それを合図に、ハワワが右手を振り下ろす。

 竹林の力が解放され、一気に前にその身をしならせた。その勢いで、竹の葉が次々と解き放たれる。

「たぁーっ!」

 ミソノはそう叫ぶや否や、竹の葉の舞い狂う中を嬉しげに駆け抜けていった。

 その様子に――

「……うふふ……」

 足下を帯電させたハワワが不敵に笑った。

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