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人造少女1

 享都府享都市上刑区鴉魔通り西入る一畳下がる――

 桐凛家の別宅。

「で、どうなったのよ?」

 お風呂上がりなのか、パジャマに着替えたミソノが湯気を立ててリビングに現れた。。そしてこちらは怒りに湯気を上げそうになっているキラリの声に迎えられた。

 日曜日の夕方。祠作りから帰ってきたミソノ。全身に猫の抜け毛をまとわりつかせていた。遊びにいった訳ではないのに、やはり遊びを優先して帰ってきたのだろう。

 とりあえず風呂に入り、今日の報告はそれからとなった。

「猫の怨霊を前に、皆がもう駄目かと思ったんだよ、キラリン。もちろんあたしは全然だったけどね」

「それで?」

 目を輝かせて報告するミソノに、キラリは怒るタイミングを逃したことを悟る。気持ちを落ち着かせようとしてか、キラリは冷蔵庫に向かった。

「その時、さっき言った一言ともに、何処からともなく電撃が放たれてね」

「電撃ね…… 今更驚かないけど」

 キラリは冷蔵庫から、紙パックのジュースを取り出した。グラスを用意してもらおうとミソノに振り向くが、この桐璃綺羅凛の専属ハウスメイドはソファーにどっかと腰を降ろしていた。

「そうなの、キラリン? あたしは驚いたのさ! すわ! ツブやんかって叫んでそっちを見ると、さっき花壇にいた女子生徒が――」

 ミソノはその瞬間を思い出しているのか、それこそ電撃に煌めかすように目を輝かせた。

「右手を振り下ろしていたところだったのさ!」

 ミソノは鼻息荒くのその様子を再現しようとする。縦にふるわれたその右手は、手刀を切るように真っ直ぐ振り下ろされた。

「ふぅん。で、化け猫はどうなったの?」

 キラリはテーブルを挟んでミソノの前に座る。キラリはテーブルに、持ってきたジュースとグラスを置いた。

「ふふん。化け猫といえど、所詮はニャンコだよ、キラリン。その電撃に驚いて、身を隠せる場所に逃げ帰ったのさ」

「身を隠せる場所? 何処よ?」

「壺だよ、キラリン」

「何? 雷様が怖くって、封印の壺に自ら身を隠したっての? 化け猫が?」

 しばらくジュートとグラスを置いてみたが、『あたしが注ぐよ、キラリン』というような殊勝な言葉や仕草は、ミソノから微塵も出てこない。

 むしろ、アホ毛をパタパタと振り、期待に満ちた目でキラリを見ている。まるで『待て』を覚えたばかりの子犬だ。

 キラリはやれやれと、紙パックのフタを開けた。

「そうなのさ! 雷みたいだったからね、あの電撃は。壺の中にぴっちりとはまって、恐怖に引きつった顔をしていたあの化け猫の可愛らしいこと! キラリンもくればよかったのに」

「そんな騒ぎに、巻き込まれたくないわよ」

 キラリがミソノにジュースを注いでやる。

「そう? あやねこっちは複雑な顔をしてたし、他のニャンコも驚いて駆け回ってたよ。それこそ、そこら中でニャンコの阿鼻きょきょきょ――なんだっけ?」

 ミソノはジュースが注がれるや否や、風呂上がりの一服とばかりにぷはっと飲み干す。その『ぷはっ』に合わせて、アホ毛が嬉しげに伸び上がった。

「阿鼻叫喚よ」

「そう、それ。きょーかーん。グラウンドを電撃の恐怖にかられて駆け回るニャンコ達。いやぁ、キラリンにも見せたかったよ」

 一瞬で飲み干されたジュース。ミソノが次なる期待に目を輝かせて、キラリを見た。

「てか、誰なの? 電撃を操れる生徒なんて、そんなに沢山いないでしょうに」

 キラリははいはいと、もう一度冷蔵庫に向かう。取り出したのはプリンだ。

「それが、キラリン。調べてみたんだけど。その娘、生徒自己紹介には、名前しか書いてないんだよ」

「シャイなのかしら? 花壇の世話していたみたいだし。内向的な娘なの?」

「さあ。内向仲間のツブやんにも訊いてみたけれど、よく知らないって言ってたよ」

「内向仲間って。会報でも、出してんの? 内向的な人たちの間で? で、正体は?」

「礼を言う間もなく、校舎の向こうに消えたからね。よく分からないや、キラリン」

「そう。ま、どうせ魔法少女か何かでしょ。本人がアピールしたくないのなら、放っておいてあげなさい」

「それが変なんだよ、キラリン」

 ミソノはおやつのプリンに舌鼓を打ちながら応える。

「何が?」

「ツブやんも、シャラランさんも、あやねこっちも、魔法や霊力や妖気を感じなかったってさ」

「ふーん」

「何らかの魔力的な力を使うなら、ふるうのも左手だろうって。魔術的な利き腕は左手だってさ。よく分からないけど、何かツブやん達とは系列の違う力かもしれないって、キラリン」

「そうなの? それはちょっと気になるわね」

「ふふ。ぬかりはないよ、キラリン」

「何よ?」

「キラリンがそう言うと思って、次にパンフをお願いするのは、謎の電撃少女と心に決めていたのさ」

「ぬかりはないって、単に考えてただけじゃない」

「むむ。こういうのは、楽しんだもの勝ちだよ、キラリン」

「はいはい。で、本題の祠は?」

「完成したよ、キラリン。これ、記念写真――」

 ミソノがそう言って写真を一枚テーブルに置いた。その写真にはぶすっととしている妖猫を中心に、ミソノとツブラ、シャラランが笑って写っている。

 そしてその写真の奥には、

「雷にビックリしたニャンコが、パニックって大量に爪磨ぎしちゃったけどね」

 作ったばかりなのにボロボロの祠が写っていた。

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