半妖少女7
残骸と壺が退けられた祠の跡地に、新しい木材が組み立てらていく。元の木材のサイズに合わせてあったそれは、易々と土台にはまり組み上がっていった。
見る間に壺を収める為の、基礎の部分ができ上がった。確かに女子高生の手でも、このまま簡単に組み上がりそうだ。
「休憩にしましょう」
シャラランが額に汗をかきながらそう切り出し、
「あっ、はいはい! 私、お弁当作ってきました! 持ってきます!」
ツブラが慌てて手を挙げる。
「むむ。ツブやんの手作りお弁当なのですか? 楽しみなのです!」
「猫まんまだとかだったら――殺すぞ…… 高瀬川の……」
「ええ? そんな! むしろ、喜んで下さるかと……」
ツブラは泣きそうな顔で、逃げるようにカバンを置いてあった花壇の方に向かった。
「むう、あやねこっち。贅沢は敵なのです。あたしも手伝うのです、ツブやん」
ミソノがその後を追う。そのミソノを、猫がぞろぞろとついていった。
「猫に好かれてるわね、誑乱ったら」
「けっ。同レベルだと、思われてんだろ」
「あなたと同じね」
「何だと!」
「これ、お願いします。こっちは、猫まんまなので…… 私が食べます」
花壇に着いたツブラは、お弁当の包みを幾つかミソノに手渡した。
「むう。ずっしりと重いのです。中身が楽しみなのです」
後ろをついてきた猫が、嬉しげにその包みを見上げてニャーニャーと鳴く。
「ぬぬ。卑しいのです。向こうに着くまで我慢なのです」
ミソノは花壇際でしゃがみ、猫の前にお弁当を差し出した。花壇にまで入り込んだ猫達は、それぞれが鼻を近づけてミソノの持った包みの匂いをかぎ出す。
「……猫を花壇に入れないで下さい……」
その時不意にミソノ達は声をかけられた。
「むう? 誰なのです?」
ミソノとツブラが振り向くと、じょうろを持った女子生徒が立っていた。
女子生徒は花壇によく似合う――とは言い難い、病的な眼差しをこちらに向けていた。瞼は半目に閉じられ、目の下にはうっすらクマが浮かんでいる。
「……園芸部員です。猫に葉っぱをかじられるの、困ります。猫どけてもらえないでしょうか……」
話し方もややもすれば、聞き取れなくなる程小さい。それはツブラの引っ込み事案な声とはまた違う、出そうという意思にかけた声だった。
「なるほど。ごめんなさいなのです。ほら、皆いくのです」
ミソノが声をかけると、猫は大人しくついてくる。
ミソノ達が戻ると、シャラランがござを敷いていた。三頭身の妖猫が、悪戦苦闘しながらその四隅に木材を置いて重しにしている。
ツブラとシャラランが手分けしてお弁当を拡げた。お弁当というには少々大きい、重箱がござの上に並べられていく。
妖猫が小さな体で何とかお茶を水筒から汲むと、何もしていなかったミソノが誰よりも早くお弁当に食らいついた。
「おいしいのです」
「いただきますぐらい言いなさいよ」
「ぬう、確かに。いただきますなのです!」
「私も、いただきます。お口に合えばいいんですが……」
「いただきまーす! おっ? 高瀬川の! うめえじゃねえか!」
「そうですか? よかったらこっちの猫まんまも――」
「それは、許さん」
「は、はい……」
「贅沢言ってんじゃないわよ。誰のせいで、貴重な日曜日を潰してると思ってんのよ」
「知るか! お前らのせいじゃねえのか? そっちのおかずとってくれよ」
「少しは感謝しなさいよ。あっ、私その卵焼き欲しい」
「どうぞ。ミソノさん。食べてますか?」
「いただいてるのです。そっちの昆布巻きを下さいなのです」
「誑乱の! それは俺が狙ってたやつ!」
「早い者勝ちなのです!」
「高瀬川さんも、食べなさいよ」
「はい。ありがとうございます。こっちのお重にも、沢山ありますからね」
ツブラが手のついてない重箱を差し出すと、
「この壺には、何が入ってるのですか?」
ミソノが更なるおかずを求めて、手近にあった壺のフタに手をかけた。
「へっ? 壺は用意してませんけど?」
「これです。お札みたいな紙で、封をしてあるのです。楽しみなのです」
「ミソノさん!」
「誑乱!」
「誑乱の!」
三人が事態に気づいた時にはもう、
――シャーッ!
時既に遅かった。