半妖少女5
享都府享都市東危区東大餌通の東側――
私情通のどん突きにある、市内有数の公園。円危公園。
その円危公園で、キラリとミソノは土曜の休日を過ごしていた。
九月。澄み切った青空のお陰か、まだまだ肌寒くもなく、また暑すぎもせず、陽光がとても気持ちよかった。
公園のベンチで並んで座り、二人で作ったサンドイッチを頬張る。
ミソノは次々と、キラリが作った方のサンドイッチに手を伸ばした。
どちらが作ったかは見た目ですぐに分かった。二つのバスケットにサンドイッチがずらりと並ぶ。片方は整然と、もう一方は雑然とだ。
「キラリンのサンドイッチおいしいや」
「そう、ありがと。ミソノの方は――」
キラリが雑然と並んだサンドイッチに手を伸ばす。パンに具材を挟むだけ。多分大丈夫だと思いたい。
思い切ってその中の一つを、キラリは口に運んだ。
「……ミソノ……」
「何、キラリン?」
「サンドイッチの具に、梅干しを挟むのは止めて……」
「そう? おいしそうだと思ったんだけど?」
「じゃあ、自分でも食べなさいよ」
「キラリンが作ってくれたサンドイッチが、あたしには一番に決まってるよ」
「ぐ…… 何、いい話みたいに言っているのよ」
「キラリンだって、さっきからあたしが作った方ばかり食べてるよ」
「お陰で口の中が、梅干しや、おかか、塩昆布――妙に和食っぽくなっているわよ」
キラリが口をモゴモゴと動かしながら応える。何とか口中で、パンと具材を分け、洋食と和食の味を別に味わおうとしているようだ。
「あはは。おいしい?」
「あえて言うわ。それ程でも」
「ひどいや、キラリン」
「それで、どうしろって言うのよ? 五条坂さんは」
キラリは一通り和風サンドイッチを頬張り終わると、水筒のお茶をすすりながら訊いた。
「化け猫祠を再建してくれたら、パンフに載ってくれるって、キラリン」
「五条坂さんがそう言ったの?」
「そうだよ、キラリン。祠が壊れたせいか、あやねこっちは化け猫変身が解けなくってね。三頭身な背丈から、元に戻れなくなってるんだよ」
「ふーん」
「あのままでも、あたしはいいんだけど、あやねこっちは怒りまくってたよ。化け猫祠の再建を盾に取れば、今ならいくらでもお願い聞いてくれそうだよ」
「あの祠。邪魔なだけなんだけど。そりゃ、残す約束で土地ごと買ったけど。潰れたんなら、更地にしたいわ」
「あはは。あやねこっちは、化け猫の親分だからね。そんなことをしたら、地域中の猫が報復にくるよ、キラリン」
「それは勘弁ね」
「それに地域猫は、地域で面倒を見ないと、キラリン」
「地域化け猫の面倒までは、見れないわよ」
「三頭身で文句を言ってくるあやねこっち、可愛いもんね。放っとこうか?」
「それも外聞が悪いわよ。分かったわ、直すわ。化け猫を祀ってる祠なのよね? 普通に建てていいの? 深泥池さんにでも、訊けばいいのかしら?」
「そうだね、キラリン。もうシャラランさんはお友達だからね。訊いておくよ」
「それにしても。何で、パンフ一つ刷るのに、こんな大騒ぎなのかしら? ねぇ、ミソノ?」
キラリがちらりと横目で見つめると、
「あはは。楽しく仕事してるだけなのにね? 不思議だね、キラリン」
ミソノはやはり、屈託なく笑ってお茶をすすった。