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霊能少女6

「で、どうなったのよ?」

 己の頭を両手で支えながら、キラリがミソノに訊いた。

 生徒会室だ。キラリは今日も頭が重いらしい。

「何やら、名状し難きものが現れて、図書室がパニックになったんだよ、キラリン」

 ミソノはやはり能天気にキラリに答えた。

 ミソノの制服は、方々が朽ちていた。まるでそこだけ酸に侵されたかのようだ。スカートは半ば破れ、内に履いていたスパッツが見えていた。

 更におぞましい気を発する、謎の黒いシミに汚れている。質量を持った闇に浸したような、手を差し出せばそのまま内に吸い込まれそうになる錯覚を覚える黒いシミだ。

 そのシミは陰影のせいか、時折苦痛に歪める人間の顔をその表面に浮かび上がらせる。更に狂気に取り憑かれたような、笑い続ける人間の顔もそれに続いて浮かぶ。涙枯れるまで鳴きながら、それでも号泣し続けているような悲痛な顔もだ。

 見ているだけで発狂しそうなそんな制服を着ながら、

「いやぁ、凄い戦いだったよ、キラリン」

 もちろんミソノはそんなことは気にならない。

「深泥池さんは?」

「シャラランさん? シャラランさんは、直ぐに気絶から立ち直って、何だか真っ青な顔で一緒に戦ってくれたよ。もの凄い数のお札が、図書室を舞ったよ、キラリン」

「巫女さんだもんね、深泥池さん」

「そうなのさ、キラリン。で、雷鳴は轟くは、魔界の深淵の扉は開くは、宇宙から謎の声は鳴り響くはで、もう大変だったよ」

「そこ図書室よね……」

 先に見てきた図書室の惨状を思い出し、キラリは内心大きく溜め息を吐く。一から納品し直したくなるような、本が散乱した悲惨な様をその図書館は見せていた。

「そうだよ、キラリン。でね、結局追い込まれてさ。万事きゅうきゅうだっけ? そんな感じで、大ピンチになったのさ。そこでシャラランさんが、身を挺してまで相手を封印しよとしたその時!」

「……」

「その図書室に、真っ青な顔をしたツブやんが、飛び込んできてくれたのさ!」

「ふぅ…… 苦労かけるわね……」

 その時のツブラの顔を想像し、キラリは今度は声に出して溜め息を吐いた。

「大したことないよ、キラリン」

「高瀬川さんと、深泥池さんのことよ、ミソノ」

「おうともさ! あたしは苦労してないのさ、キラリン!」

「ミソノも少しは、苦労だと感じなさい」

「それは苦労しないと、ダメなんじゃないかな? それでね、キラリン。シャラランさんとツブやんが思い詰めた顔で、お互いの目を見て頷いてね。その名状し難きものに向かっていったのさ」

「それで……」

「もちろん、あたしも飛び出したのさ! 思いっきり蹴りを入れてやったのさ。でね、何十というお札と、ツブやんの魔法がアタシの蹴りに続いて襲いかかってね、ネクラナミナサンとか何とかいうその本に、やっとこさ封印できたよ。本はシャラランさんが、没収して本庁とやらに送るって言ってたよ。いいよね、キラリン?」

「ぜひお願いするわ。で、皆無事なんでしょうね?」

「大丈夫さ、キラリン。形容し難き程冒涜的に汚れ切った図書室は、シャラランさんがその場でお祓いして清めてくれたよ。直接戦ったあたし達の制服は、流石に浄化できずにこんな感じだけどね」

 ミソノが自慢げに己の胸元を叩くと、制服の闇に浮かんだ顔が迷惑げに顔を歪めて逃げようとした。

「シャラランさんは着てくる制服がないから、明日から巫女さん袴で登校するって。制服って言えば、制服だし。いいよね、キラリン?」

「仕方ないわね」

 キラリはそう言うと、生徒会長の机の引き出しから何やら書類を取り出した。

 『一年十一組深泥池紗蘿鸞。私服の登校を許可する。ただし巫女さん袴に限る』

 そう一筆を入れるや、キラリは理事長としてサインを書き入れた。

「よかった。新聞部の皆さんが、鼻息を荒くしてたからね」

「それはそれで問題ね。ま、無事なら、いいわ。で、パンフの方は? 深泥池さん、快諾してくれたの?」

「もちろんさ、キラリン。何だか放心状態だったけど、最後はうんって言ってくれたのよ」

「それ。うぅんとか、唸っただけじゃないでしょうね?」

 キラリの眉間が疑わしげに寄せられた。

「むむ。そうだったかも? もう一回訊いてくるね、キラリン」

「いい。大丈夫だろうから、これ以上は迷惑だから。やめときなさい」

 キラリは痛み出したこめかみを押さえた。

「あたしは別に迷惑だとは思ってないよ、キラリン」

「ミソノ。一応言っておくけど、相手の迷惑のことだから」

「むう。確かにあたしは、迷惑という言葉の意味がよく分からない」

「今、私が被っている状況と、感情のことよ、ミソノ」

「キラリン」

 ミソノは頬を一際紅潮させてキラリの名を呼んだ。

「何よ?」

「幸せ以外に、何を感じるってのさ」

 ミソノは心底幸せそうにそう言うと、屈託なく笑った。

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