霊能少女4
「という訳でシャラランさん。キラリン生徒会長の命により。パンフに載って欲しいのです」
「嫌よ、何で私が……」
ゆらりとシャラランが床から身を起こす。学校見学にきた受験生を大騒ぎさせた程の美貌に、立て一本の背表紙の後がついていた。
図書館の床で気絶していた。
そのせいで背中が痛いのか、端正な顔を歪めてシャラランは背骨をさする。
アホ毛を揺らした暢気な顔が、そんなシャラランの顔を覗き込んできた。
「巫女さんだからなのです! 人を呼べるのです!」
「何言ってんのよ…… それより、あの本は?」
シャラランは辺りを見回す。その顔つきはどこか警察犬めいていた。使命感に満ちて鋭い嗅覚を働かせている。そんな風にシャラランは辺りを見回す。
そしてその嗅覚が告げるのか、シャラランは姿が見えないそれにぞっとする寒気を覚える。
「早く、何とかしないと……」
「どうしたのですか?」
「本よ。邪悪な本。さっきあなたが投げたやつ」
「邪悪な本なのですか?」
「そうよ。忌避すべき邪道の書。唾棄すきべ冒涜の書。破棄すべき邪悪な書」
シャラランは書名を直接口にしたくないのか、吐き捨てるようにその書を形容していく。
「むう、これのことですか?」
そんなシャラランに、ミソノは何処まで能天気だった。
持っていたその手にしっくりと馴染む魔導書を、何げない様子でシャラランに指し示す。
――ゾワ……
シャラランの全身が総毛立った。
「よこしなさい!」
シャラランがミソノが掴んでいた本を鷲掴みにした。
「何故なのです? 図書館の本は、皆のものなのです」
ミソノはシャラランに負けじと力を入れる。
「こんなもの! 一般生徒に見せられる訳ないでしょ!」
「むむ。そんな本が学校図書に交じってるとは! キラリンに報告するのです!」
「そんな、暢気な話じゃないわよ! てか、生徒会長だって、ひっくり返るわよ!」
「キラリンは強い子なのです!」
「宇宙規模の恐怖に、耐える強さなんて、誰も持ってないわよ!」
二人が狂える詩人の魔導書を引き合う。
「く…… なんて霊気……」
その魔道書から漏れ出る怖気をもよおすような気に、シャラランが冷や汗を握る。触っているだけで汗がどっと噴き出した。
「むむむ。綱引きなのです」
対してミソノは何処までも陽気だ。
シャラランと張り合い、あくまで魔導書を放そうとしない。
「よこしなさい! これは素人が持っていていいものではないわ!」
「どうやら、とても大事なものの様子なのです。これを渡せば、パンフに載ってもらえますか? シャラランさん?」
「嫌よ!」
「ぬぬ! では、この本をパンフに載せるのです!」
「受験生を、恐怖のどん底に陥れる気?」
「シャラランさんが、パンフに載ってくれれば、万事解決なのです!」
「それとこれとは、話が別よ!」
「むっ! では純粋に勝負なのです! そして全力を出し切った二人は、夕日に向かって友情を確かめ合うのです!」
「何言ってんのよ……」
「互いを認め合えば、シャラランさんはきっと快くパンフに載ってくれるのです!」
ミソノは更に力を込めて魔導書を引っ張る。
「よこしなさいってば!」
「ぬぬ! 嫌なのです! むむ! いいことを思いつきました! これを片手に、シャラランさんはにっこりと笑ってパンフに載るのです!」
「こんなもの持って! にっこりとかできる訳ないでしょ!」
シャラランの腕を、鳥肌が駆け抜ける。脇から胸にまで広がった鳥肌は、心臓すら総毛立ったような感覚を覚えさせる。
「人肌みたいで、いい感じの表紙なのです! 何が不満なのですか?」
「私は、今にもどうにかなりそうよ!」
シャラランがそう叫んだ瞬間――
「しまった!」
「しまったなのです!」
魔導書が二人の手を離れ、そのページを開きながら宙に舞う。
同時に鳴り響いたのは、脳内で直接叫ばれたかのような悲鳴だ。
「――ッ!」
そのあまりに次元の違う魂を引き裂いたかのような叫びに、
「キャーッ!」
その場の誰もが一瞬で気を失った。
そしてもちろんミソノは、
「むむ。皆さん、どうしたのですか?」
一人暢気に辺りを見回した。