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気配

作者: 黒井ハナ
掲載日:2026/08/21

 深夜2時40分。


 真っ暗な部屋に着くと、テレビが急に白く光った。


 そして、部屋に響く小さな「音」。


 私の耳元で囁く「声」。


 「声」は、私に語りかける。


 とても、ゆっくりと。


 「ねえ、覚えている? 私のこと」


 懐かしいな。

 覚えているよ。

 あなたの「声」。


 部屋の電気もつけず、メイクも落とさず、私はベッドに倒れ込む。


「私を呪いにきたの?」


 意識が朦朧(もうろう)としながら、テレビからの「声」に問いかける。


 「あはは」と軽い笑い声が聞こえる。

 中学生まで同じクラスだった、あの子の「声」が。


 私は「彼女」と、とても仲がよかった。

 「親友」だと思っていた。

 彼女も私のことが好きだった。

 彼女は私に対して「好き」と言ってくれた。


 毎日。

 毎日。


 でも、彼女の「好き」は、私の「好き」とは違うものだった。


 私はどうすれば良いか、分からなかった。


 当時の私は、あまりにも未熟過ぎた。

 彼女の「好き」を、私一人では受け止めきれなかった。


 だから、私は、彼女の「好き」という言葉を周りの友人に伝えてしまった。


 冗談のようにからかってしまえば、有耶無耶(うやむや)になると思ったのだ。


 しかし、そうはならなかった。


 彼女はある日、教室に姿を現さなかった。

 彼女の両親が部屋を覗くと、彼女は冷たくなっていた。


 血が枯れていた。


 彼女は最悪の決断をしてしまった。

 私が原因で。

 私の決断によって。


 彼女になら、呪い殺されてもいい。

 モノクロの明日を生きるくらいなら、いっそ、その結末の方が、私にはふさわしい。


 テレビからは、彼女の声が聞こえ続ける。

 鳴り響く。


 私は両手も両足も動かない。

 これは呪いのせいではない。

 彼女のせいでもない。


 彼女は、最後に私に告げた。

「もし、私と同じ決断をしたら、私が先に呪い殺すから」


 気がついたら、朝の6時だった。

 出勤時間まで1時間もない。

 昨日の声は、夢だったのだろうか。


 しかし、この部屋の中に、たしかに、「誰か」の気配を感じる。


 彼女の「気配」を今も感じる。


 そうか、私は彼女に呪われたのか。

 でも、それくらいが、ちょうどいいのかもしれない。

 白黒の世界、色が消えたこの世界で生き続けるのなら、この部屋の温もりこそ、私にとっては、ちょうどいい。

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