気配
深夜2時40分。
真っ暗な部屋に着くと、テレビが急に白く光った。
そして、部屋に響く小さな「音」。
私の耳元で囁く「声」。
「声」は、私に語りかける。
とても、ゆっくりと。
「ねえ、覚えている? 私のこと」
懐かしいな。
覚えているよ。
あなたの「声」。
部屋の電気もつけず、メイクも落とさず、私はベッドに倒れ込む。
「私を呪いにきたの?」
意識が朦朧としながら、テレビからの「声」に問いかける。
「あはは」と軽い笑い声が聞こえる。
中学生まで同じクラスだった、あの子の「声」が。
私は「彼女」と、とても仲がよかった。
「親友」だと思っていた。
彼女も私のことが好きだった。
彼女は私に対して「好き」と言ってくれた。
毎日。
毎日。
でも、彼女の「好き」は、私の「好き」とは違うものだった。
私はどうすれば良いか、分からなかった。
当時の私は、あまりにも未熟過ぎた。
彼女の「好き」を、私一人では受け止めきれなかった。
だから、私は、彼女の「好き」という言葉を周りの友人に伝えてしまった。
冗談のようにからかってしまえば、有耶無耶になると思ったのだ。
しかし、そうはならなかった。
彼女はある日、教室に姿を現さなかった。
彼女の両親が部屋を覗くと、彼女は冷たくなっていた。
血が枯れていた。
彼女は最悪の決断をしてしまった。
私が原因で。
私の決断によって。
彼女になら、呪い殺されてもいい。
モノクロの明日を生きるくらいなら、いっそ、その結末の方が、私にはふさわしい。
テレビからは、彼女の声が聞こえ続ける。
鳴り響く。
私は両手も両足も動かない。
これは呪いのせいではない。
彼女のせいでもない。
彼女は、最後に私に告げた。
「もし、私と同じ決断をしたら、私が先に呪い殺すから」
気がついたら、朝の6時だった。
出勤時間まで1時間もない。
昨日の声は、夢だったのだろうか。
しかし、この部屋の中に、たしかに、「誰か」の気配を感じる。
彼女の「気配」を今も感じる。
そうか、私は彼女に呪われたのか。
でも、それくらいが、ちょうどいいのかもしれない。
白黒の世界、色が消えたこの世界で生き続けるのなら、この部屋の温もりこそ、私にとっては、ちょうどいい。




