レストランで働く看板娘の好きな人のこと
この話は、めっちゃ可愛い猫さんのお題『悪人に見えるけど善人!?』に、挑戦して書いてます。
ので、他の投稿サイトでも出してます。
昼間の【ウイルアム】は大繁盛。
「大歓迎!」
店の前には行列ができ、店内では可愛い制服を着た看板娘のミチルが、お今日もオボンを片方の手に持ち、お客様を出迎えるのでした。
くるくると踊る様に料理を運ぶ彼女は、常連客のオオセの前に料理を持って来ました。
「お待ちどうさまでーす。今日の、ランチのハンバーグライスになります」
鉄板のお皿に、小判がたのハンバーグがジュージューと音をたて、焼き色はこんがりとっても美味しそう。
付け合わせの甘く煮られたニンジンは、食べやすい大きさにカットされ、つぶつぶのコーンもバターの甘い香りが食欲を誘います。
「ありがとう」
オオセは落ち着いた声で、ミチルにそう声をかけました。
そしてすぐにナイフと、フォークを手に持って、目の前のハンバーグに挑みかかると熱々の肉汁から旨味のある香りが――。
思わず笑顔になったオオセの顔に、思わずミチルは見とれました。
正直、彼はこわぁーい顔です。額には、深い傷が……。
「いつも、ありがとうございます」
その声に彼は言葉で答えてくれないけど、ウンウンと少し恥ずかしそうにうなずくのです。
ミチルは彼のそんな姿を、目尻を下げて眺めてから、オボンを抱えて足どり軽く厨房へと向かうのでした。
「オオセの様子はどうだった? ミチルの前で怖い顔か?」
「コック長、今日のオオセさんもすぐ満足そうな顔ですよ。一度、調理場から出て来てはいかがですか? そうすれば、怖い顔とは言えなくなります」
ミチルはオボンを抱えて、じとっーとしたセピア色の瞳で抗議しました。
「やなこった。オオセに睨まれるのは嫌だからな」
「もう、コック長たら」
「それより、次の料理出来てるよ」
横からアツミの太い腕がにょきっと出てきて、美味しそうなケチャップ色のパスタを台に置き、ミチルはレシートとともにそのパスタを持って行くのでした。
◇◇
そんな毎日が続いたある日突然、オオセは店に来なくなりました。
彼は兵士で、兵舎で食事を取っているのではないか?
そうコック長が教えてくれたのですが、いい人なのに、傷のせいで損している彼の事が気になりました。
――だってあんなに、美味しそうに食べるんだもの……。
窓の掃除も、溜め息で磨き上げられそうです。
「そんなに恋しいなら、仕事上がりにオオセを、祭りに誘って見てはどうだ?」
慌てて振り向くと、長い帽子をかぶったコック長が、ミチルの後ろで、椅子に座り新聞を読んでいました。
「コック長、何で、ここで新聞を読んでいるんですか?!」
「俺の店だから」
それだけ言うと、ぴらっと新聞紙をめくります。
「それは……そうですが、いいんですか?」
「祭りは夜までやってるんだ。オオセだって、家に帰るのにここを通る。その時、誘え、……断られたら送ってやるから……」
そう言うと、コック長はニヤリと笑いました。
オオセさんの様に美味しそうな笑顔ではなく、頼もしい笑顔でした。
「ありがとうございます。コック長!」
そう言った時、今日、一番のお客様がやって来て――。
「大歓迎!」
ミチルは調理場へ、雑巾を持って飛び込みました。
◇◇◇
今日は、祭りの次の日です。
祭りの当日、お店にとても長い行列ができたあの日。
コック長の奥さんと、娘さんが来て、三人一緒の時間に揃っても、走り回る様な忙しさでした。
その忙しさの中、行列の最前列のお客様を呼びに言ったミチルは、自分とは違う女性と、一緒に歩くオオセを見ました。
それから忙しい仕事中の、記憶はあまりありません。
閉店の時間、コック長の家族の方々と、一緒に歩いた記憶はあります。
きれいなベタという魚を見て、「寂しくないように、飼おうと思います」 と言ったのは覚えていますが、朝起きるとベタは、綺麗な藻が敷き詰められた、快適なおうちに住んでいたのでした。
「お祭りの日の臨時ボーナスと、コック長のポケットマネーの水槽か……」
この子のために、働かなきゃ! と思ったのは朝の事。
しかし、今は、お店の裏口を出た所に座っています。
「どんな顔をして、会えばいいの!?」
ミチルはオオセさんと、祭りに行く約束はしてません。
だから、前日から当日まで、ワクワク、ドキドキして、その能天気さが恥ずかしい。
制服を汚さない様に、小さく、お尻をつかないように座っていたミチルが、膝に顔を埋めてもっと小さくなりました。
足元を、美味しい料理を食べてしまっているのか、ツヤツヤした蟻が歩くのをふと見つけ、寂しさに蟻もちょといいかしら?
なんて事をミチルは考えてしまいます。
「ミチル?」
この落ち着いた声……、間違えようがありません。
オオセさんです。
「……大歓迎です」
ミチルは、頑張って立ちました。彼女はウエートレスのプロ、悲しい気持ちも隠せます。
「ミチル、昨日は待っててくれたんだって?」
――誰が言ったんですか?! 許しませんよ!
……水を少し、少なめにします。呼ばれたら行くので、安心してくださいね!
「最近、来てなかったので心配しました。ご飯ちゃと食べてるのかなー?って」
これでは母です。遺伝は侮れません。
「そうか。ありがとう」
――今日のオオセさんの、優しいだけの顔です。私だけが知ってるはずだったのに、駄目です。涙でちゃいそう。
今日、増えるのはベタですか? 蟻ですか?
……でも、それだけじゃ心は埋まりませんよ……。どうすればいいんですか?
「食事は兵舎でとって大丈夫だった。けど、仕事で忙しくて、来れなかったのには困ったよ。昨日も私服とはいえ、警備の途中だったから、ここの料理もミチルの笑顔も恋しかった」
こう言うオオセさんは、怖い顔で、見ようによって悪人にも見えるかも?
けど、私には違って見える。これからもオオセさんの事、そんな風に見ていいですか?
「オオセさんの事が好きだって、お祭り一緒に行きたいって言っていいですか?」
「いいよ。でも、次は俺に言わせて欲しい。非番の日、夕方の休み時間に、良かったら国営公園の花まつりへ行かないか?……」
「是非!」
彼女は少し食い気味に言葉を発し、噛みつく程に近づきました。
「ありがとう。みんなが心配してるから、取りあえず店内に行こうか」
「あっ、そうですね……。忙しいのに私たら」
「そこについては大丈夫」
――今は安心できる笑顔です。もしかして、この笑顔は私だけが知ってる。そう思っていいんでしょうか?
オオセの後ろに続く、ミチルに調理場の視線は集中します。
それでもプロなコックの彼らは次々新しい料理を作りだし、皿の上には色鮮やかな料理が置かれていきます。
「あの……すいませ」
それだけ言うと、コック長が注文表を持ってやって来て――。
「ミチル、こっちは大変だったんだよ。さっ、こっち! こっち!」
ミチルと何故か、オオセさんの背中をコック長は押していきます。
三人が揃って、店内に出ると、多くの瞳の色がこちらを向きます。
釈明会見の場が、そこにありました。
「どうだった?」
「あっと、皆さんのご厚意のおかげで、デートに誘う事ができました。気を揉ませてしまってすみません」
そう、ミチルではなく、オオセさんが答えているのを頭に、はてなマークをつけ聞いていたミチルの前で、二人の横に立っていたコック長が一歩前へ出て。
「せーの!」
「「大歓迎!!」」
全てのお店の客席から、大きな声が揃ってそう叫び、あげたコップからジュースがこぼれ空をまいました。
「おめでとう」と言う声と、「昨日のミチルは、マジでひどかったからな!」なんて声が聞こえてきます。
そんな中、ミチルとオオセは向き合って、はにかむ様な笑顔を見せました。
――こんな日だから、オオセさんの笑顔の良さがしれわたるのは、我慢しなければいけませんね。だって、こんなに素敵な笑顔を見れたのですもの。
そしてミチルとオオセの初デートの日は、とっても青い空が広がりました。
終わり
見ていただきありがとうございます。
また、どこかで!
連載中の『子どもの頃から好きなあなたと』も、よろしくお願いします。




