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レストランで働く看板娘の好きな人のこと

作者: もち雪
掲載日:2026/04/06

この話は、めっちゃ可愛い猫さんのお題『悪人に見えるけど善人!?』に、挑戦して書いてます。

ので、他の投稿サイトでも出してます。

 昼間の【ウイルアム】は大繁盛。


「大歓迎!」

 店の前には行列ができ、店内では可愛い制服を着た看板娘のミチルが、お今日もオボンを片方の手に持ち、お客様を出迎えるのでした。


 くるくると踊る様に料理を運ぶ彼女は、常連客のオオセの前に料理を持って来ました。

「お待ちどうさまでーす。今日の、ランチのハンバーグライスになります」


 鉄板のお皿に、小判がたのハンバーグがジュージューと音をたて、焼き色はこんがりとっても美味しそう。 


 付け合わせの甘く煮られたニンジンは、食べやすい大きさにカットされ、つぶつぶのコーンもバターの甘い香りが食欲を誘います。


「ありがとう」

 オオセは落ち着いた声で、ミチルにそう声をかけました。


 そしてすぐにナイフと、フォークを手に持って、目の前のハンバーグに挑みかかると熱々の肉汁から旨味のある香りが――。


 思わず笑顔になったオオセの顔に、思わずミチルは見とれました。

 正直、彼はこわぁーい顔です。額には、深い傷が……。


「いつも、ありがとうございます」

 その声に彼は言葉で答えてくれないけど、ウンウンと少し恥ずかしそうにうなずくのです。


 ミチルは彼のそんな姿を、目尻を下げて眺めてから、オボンを抱えて足どり軽く厨房へと向かうのでした。


「オオセの様子はどうだった? ミチルの前で怖い顔か?」


「コック長、今日のオオセさんもすぐ満足そうな顔ですよ。一度、調理場から出て来てはいかがですか? そうすれば、怖い顔とは言えなくなります」


 ミチルはオボンを抱えて、じとっーとしたセピア色の瞳で抗議しました。


「やなこった。オオセに睨まれるのは嫌だからな」

「もう、コック長たら」

「それより、次の料理出来てるよ」


 横からアツミの太い腕がにょきっと出てきて、美味しそうなケチャップ色のパスタを台に置き、ミチルはレシートとともにそのパスタを持って行くのでした。


 ◇◇


 そんな毎日が続いたある日突然、オオセは店に来なくなりました。

 彼は兵士で、兵舎で食事を取っているのではないか? 


 そうコック長が教えてくれたのですが、いい人なのに、傷のせいで損している彼の事が気になりました。


 ――だってあんなに、美味しそうに食べるんだもの……。

 窓の掃除も、溜め息で磨き上げられそうです。


「そんなに恋しいなら、仕事上がりにオオセを、祭りに誘って見てはどうだ?」


 慌てて振り向くと、長い帽子をかぶったコック長が、ミチルの後ろで、椅子に座り新聞を読んでいました。


「コック長、何で、ここで新聞を読んでいるんですか?!」

「俺の店だから」


 それだけ言うと、ぴらっと新聞紙をめくります。


「それは……そうですが、いいんですか?」


「祭りは夜までやってるんだ。オオセだって、家に帰るのにここを通る。その時、誘え、……断られたら送ってやるから……」


 そう言うと、コック長はニヤリと笑いました。

 オオセさんの様に美味しそうな笑顔ではなく、頼もしい笑顔でした。


「ありがとうございます。コック長!」

 そう言った時、今日、一番のお客様がやって来て――。


「大歓迎!」

 ミチルは調理場へ、雑巾を持って飛び込みました。


 ◇◇◇


 今日は、祭りの次の日です。


 祭りの当日、お店にとても長い行列ができたあの日。


 コック長の奥さんと、娘さんが来て、三人一緒の時間に揃っても、走り回る様な忙しさでした。


 その忙しさの中、行列の最前列のお客様を呼びに言ったミチルは、自分とは違う女性と、一緒に歩くオオセを見ました。


 それから忙しい仕事中の、記憶はあまりありません。

 閉店の時間、コック長の家族の方々と、一緒に歩いた記憶はあります。


 きれいなベタという魚を見て、「寂しくないように、飼おうと思います」 と言ったのは覚えていますが、朝起きるとベタは、綺麗な藻が敷き詰められた、快適なおうちに住んでいたのでした。


「お祭りの日の臨時ボーナスと、コック長のポケットマネーの水槽か……」


 この子のために、働かなきゃ! と思ったのは朝の事。

 しかし、今は、お店の裏口を出た所に座っています。


「どんな顔をして、会えばいいの!?」


 ミチルはオオセさんと、祭りに行く約束はしてません。


 だから、前日から当日まで、ワクワク、ドキドキして、その能天気さが恥ずかしい。


 制服を汚さない様に、小さく、お尻をつかないように座っていたミチルが、膝に顔を埋めてもっと小さくなりました。


 足元を、美味しい料理を食べてしまっているのか、ツヤツヤした蟻が歩くのをふと見つけ、寂しさに蟻もちょといいかしら?


 なんて事をミチルは考えてしまいます。


「ミチル?」

 この落ち着いた声……、間違えようがありません。

 オオセさんです。


「……大歓迎です」

 ミチルは、頑張って立ちました。彼女はウエートレスのプロ、悲しい気持ちも隠せます。


「ミチル、昨日は待っててくれたんだって?」


 ――誰が言ったんですか?! 許しませんよ!

 ……水を少し、少なめにします。呼ばれたら行くので、安心してくださいね!


「最近、来てなかったので心配しました。ご飯ちゃと食べてるのかなー?って」

 これでは母です。遺伝は侮れません。


「そうか。ありがとう」


 ――今日のオオセさんの、優しいだけの顔です。私だけが知ってるはずだったのに、駄目です。涙でちゃいそう。


 今日、増えるのはベタですか? 蟻ですか? 

 ……でも、それだけじゃ心は埋まりませんよ……。どうすればいいんですか?


「食事は兵舎でとって大丈夫だった。けど、仕事で忙しくて、来れなかったのには困ったよ。昨日も私服とはいえ、警備の途中だったから、ここの料理もミチルの笑顔も恋しかった」


 こう言うオオセさんは、怖い顔で、見ようによって悪人にも見えるかも?


 けど、私には違って見える。これからもオオセさんの事、そんな風に見ていいですか?


「オオセさんの事が好きだって、お祭り一緒に行きたいって言っていいですか?」


「いいよ。でも、次は俺に言わせて欲しい。非番の日、夕方の休み時間に、良かったら国営公園の花まつりへ行かないか?……」


「是非!」


 彼女は少し食い気味に言葉を発し、噛みつく程に近づきました。


「ありがとう。みんなが心配してるから、取りあえず店内に行こうか」


「あっ、そうですね……。忙しいのに私たら」

「そこについては大丈夫」


 ――今は安心できる笑顔です。もしかして、この笑顔は私だけが知ってる。そう思っていいんでしょうか?


 オオセの後ろに続く、ミチルに調理場の視線は集中します。


 それでもプロなコックの彼らは次々新しい料理を作りだし、皿の上には色鮮やかな料理が置かれていきます。


「あの……すいませ」

 それだけ言うと、コック長が注文表を持ってやって来て――。


「ミチル、こっちは大変だったんだよ。さっ、こっち! こっち!」


 ミチルと何故か、オオセさんの背中をコック長は押していきます。


 三人が揃って、店内に出ると、多くの瞳の色がこちらを向きます。


 釈明会見の場が、そこにありました。


「どうだった?」

「あっと、皆さんのご厚意のおかげで、デートに誘う事ができました。気を揉ませてしまってすみません」


 そう、ミチルではなく、オオセさんが答えているのを頭に、はてなマークをつけ聞いていたミチルの前で、二人の横に立っていたコック長が一歩前へ出て。


「せーの!」

「「大歓迎!!」」


 全てのお店の客席から、大きな声が揃ってそう叫び、あげたコップからジュースがこぼれ空をまいました。


「おめでとう」と言う声と、「昨日のミチルは、マジでひどかったからな!」なんて声が聞こえてきます。


 そんな中、ミチルとオオセは向き合って、はにかむ様な笑顔を見せました。


 ――こんな日だから、オオセさんの笑顔の良さがしれわたるのは、我慢しなければいけませんね。だって、こんなに素敵な笑顔を見れたのですもの。


 そしてミチルとオオセの初デートの日は、とっても青い空が広がりました。


 終わり


見ていただきありがとうございます。

また、どこかで! 


連載中の『子どもの頃から好きなあなたと』も、よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
ミチルとオオセさんの初々しい恋に癒されました(*´ω`*) ミチルちゃん、オオセさんに彼女がいなくてよかったですね。 いつもは怖い顔をしているひとが見せる穏やかな表情、ギャップでより素敵に見える気持ち…
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