3話「その名は」
結局その日はそのまま廃墟となった町に泊まることにした。幸か不幸か町には誰もおらず、空いている家を探すのも簡単だった。どうせこのまま本部に帰っても真夜中になる。それに...。ケインはベッドで眠る獣人の少女に目を向ける。
(これを連れて帰るわけにはいかないしな)
金髪の少女は眠りこけている。もし彼女を本部に連行すればどうなるかはケインにもわかっていた。よくて収監、悪くて処刑...。ケインにそんな後味の悪いことはできない。
(とりあえず仮眠をとるか...)
思い返してみれば朝早くから起こされたせいで疲労はたまっているはずだった。だが眠ろうとすると前線で見たあの捕虜の目がちらつく。あの生を願うような、自らの運命を憎むかのような目。
(僕にどうしろというんだ。たとえ処刑が不当だったとしても僕にそれを覆すような力はない。僕にはどうしようも...)
外から鳥のさえずる声が聞こえる。どうやらいつしか眠ってしまったらしい。今何時だろうか。ケインは起き上がり、ベッドをのぞき込む。そしてそこには...
(いない?)
昨日までいた少女がいない。逃げたか?まあ無理もない、特に拘束するようなこともしていなかったし。
(せめて誰かに見つからずに国まで帰れればよいが)
そこでケインは違和感にきずく。クローゼットが少し開いているのだ。
(昨日クローゼットなんて開けてたか?)
瞬間、中から何かが飛び出してケインを押し倒し、短剣をケインの首元にかざして牽制する。それは紛れもなく昨日ケインが拾った少女だった。
「なっ!」
ケインは抵抗する。だが少女の力は強く、簡単に引きはがせそうにない。
「父上の仇!」
少女はそう言い、さらに強く短剣を押し付ける。ケインは思わずその短剣をつかんだ。だがそれで止められるはずもなく、ケインの手からは血がしたたり落ちる。短剣は今にも首に届きそうだ。
(どうにか..どうにかしなくては)
ケインは痛みに耐えながら考える。何か、何かこの少女を止めれるようなことは無いか。何か僕を生かす理由になりそうなこと...。そしてケインはとっさに叫んだ。
「僕が君を!君を国に、ジャーネルに帰してやる!」
途端、少女の力が弱まる。ケインは手ごたえを感じ、説得を続ける。
「僕は仕事で国境線の近くまで行くんだ!君一人ぐらいなら逃がすことができる!」
確証はなかった。だが今の反応で分かった。やはりこの少女は自分の国へ帰りたがっている。事情は知らないが、撤退の際に置いて行かれたのかもしれない。
「...本当だろうな」
少女はそう言うと立ち上がり、ケインの拘束を解いた。
「がはっ!」
ケインは出血する手を抑えながら少女を見上げる。少女は冷たい目でケインを見下ろし、そして言った。
「卑微な人間よ!私はジャーネル国の忠誠なるメール隊を引きいし貴族、フォンテーヌ家の長女にして、その地位を継ぎし者!名は...」
少女は短剣を鞘に戻しながら続ける。
「グレース・フォンテーヌ」




