先代からの教え
『子供は作るな』
それが先代からの教えだった。
『人を愛するな』
これも先代からの教えだった。
「何故ですか」
あの日の問いを鏡に向かって問いかける。
映っているのは先代ではなく当代である私。
「子の命を刈り取らなければならなくなる」
鏡の向こうから返って来た死神の言葉を私は受け止める。
ううん。
死神の言葉じゃない。
自分の――私の言葉だ。
『死神は子供を作ってはいけない。何故なら、その子供に死を与えなければならないから』
先代の言葉が重い。
けれど、経験のない私にはその重みに実感はない。
だから、いつだって私は過ちを犯しそうになる。
『ごめんなさい』
先代の――母の最期が蘇る。
子供に死を与えられなかった愚かな死神の末路。
哀れんだ娘が『引き継いだ』故にようやく終えられた長い長い生の結末。
『ごめんなさい』
泣き続ける顔を見て私は今日も決意をする。
自分は過ちを犯さないと。
「大丈夫。私は人を愛さないし、子供も作らない」
そう呟いて私は立ち上がる。
今日も世界で唯一の自分の役目が始まる。
大きな鎌を両手で持って、私は下界へと向かった。




