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騎士団 3

「エレナ、元気にしていたか?」


「はい。モナさんも、無理はしていませんか?」


「はは、私はタフだからね!多少無理したところで、どうと言うことはないよ」


 ハンサムショートの銀髪と、釣り気味のキリッとした瑠璃の目。男性らしい口調のこの女性は、学院時代から女性ファンが多いことで有名だ。

 何故そんな彼女と、人見知りの私が友達になれたのかは、いまいちよく分かっていない。

 教室で教科書と睨めっこしている私に、モナさんがしつこく話しかけてきた、ことが始まりだったと思う。

 今以上に人見知りだった私は初め、彼女が貴族であることも忘れ、半分泣きながら逃げていた。それなのに、気がついたら彼女と自然と話すことが出来ていた。

 私が先に進んでも、学院内で見かければ声をかけてくれていたモナさんとは、私が学院を卒業してすっかり交流が無くなってしまっていた。

 モナさんは学院を卒業すると同時に、騎士団に所属したと風の噂で聞いていたが、まさかここで再開が叶うとは思っていなかった。


「モナさん、夢、叶ったんですね!」


「そうなのだよ!エレナも、君なら絶対大丈夫だと思っていたが、卒業して1年でとは、私も思っていなかったぞ」


 学院時代に、モナさんと将来の夢の話をしたことがある。

 私は魔術師になると言ったが、モナさんは「卒業したら騎士団に入るつもりだ。いつかは1つの部隊をまとめるような人になりたい」と言っていた。

 そしてモナさんの胸元には、空飛ぶ鷹の胸章(きょうしょう)がある。シルヴィオ様やクレア様、ロルフ様についているものと同じ、部隊長の証だ。

 学院時代の友人との再会が、お互い夢が叶った後というのはなんとも胸が温かくなる。


「そういえば、エレナは彼女と親しくしていたね」


 モナさんと「おめでとう」と言い合っているところで、突然後ろから声が聞こえて、瞬時に体が硬くなる。シルヴィオ様だ。

 そして私の体が硬くなったのは、彼の声で現状を思い出したからだ。

 ここにいるのは半数以上が私と初対面の人だ。そんな人たちの前で、私はモナさんに会えたことが嬉しくて、彼らがいることも忘れてつい緩んでしまった。


「……その、」


「まあ!ラムレイ隊長は学生時代のエレナさんを知っているのですか?!羨ましい!」


 笑顔を取り繕って、旧友との再会に舞い上がって任務を忘れていたことの謝罪をしようとした私を遮ったのは、いつの間にかスコット様から解放されていたクレア様だ。


「隊長、抑えてください」


「私も知っているよ」


「レオーネ隊長まで?!くっ!私がもう少し若ければ、制服姿のエレナさんとあんな事やこんな事を出来たのに……!」


「クレア隊長」


 身振り手振りを加えて本当に悔しそうにするクレア様と、その後ろで表情を崩さず彼女を宥めている2人の副隊長。シルヴィオ様は終始笑顔で、エルトン様とアーウィン様は見なかったフリをしている。残った第3部隊の3人と、私とモナさん、それからモナさんの後ろの2人はポカンとしている。


「ははっ!パトリッジ隊長は相変わらず可愛いものが好きだな」


「ラムレイ隊長……んん!お見苦しい所をお見せして申し訳ありません」


「いやいや!ああでこそパトリッジ隊長、いや、クレア姉様だと言えるからな。私はそっちの方が落ち着く」


「……可愛らしくない。昔は(とり)の雛のように姉様姉様って後ろをついてきていたのに」


 どうやらモナさんとパトリッジ隊長は、昔からの知り合いのようだ。

 モナさんがパトリッジ隊長に絡みに行って、私は部屋の入り口から動く。シルヴィオ様の後ろへ。今日の私は彼の護衛だから。


「エレナ様」


 シルヴィオ様とアーウィン様とエルトン様、背の高い3人の後ろに隠れてホッと息をついていた私は、彼らを挟んでかけられた声に身を固くする。

 声をかけてきたのは、モナさんの後ろにいた男性2人。赤髪の男性と青髪の男性だ。

 モナさんに気を取られていて気づかなかったが、私達の再会を2人が1番近くで目にしていた。

 髪色以外そっくり同じな2人は双子だろうか。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はレジナルド・ブート、第1部隊副隊長です」


「私はロナルド・ブート。同じく第1部隊副隊長です。エレナ様のことはラムレイ隊長よりお聞きしておりました。お会いできて光栄です」


「……エレナ・フィオーレ、です。あの、私のことは、エレナでいい、です……」


 アーウィン様とエルトン様の後ろに隠れたい気持ちを押し殺して、今日だけで数年分はしたであろう挨拶を、赤髪の男性、レジナルド様と、青髪の男性、ロナルド様とする。モナさん達が来る直前にしたお願いも忘れない。


「「ではエレナさん、と」」


 今度は声を揃えて、レジナルド様とロナルド様が先程のクレア様と同じ言葉を繰り返す。揃ったのは声だけでなく、表情と仕草、息を吸い込むタイミングも全て同じだった。


(やっぱり双子、かな?魔力の流れもそっくりだし)


 髪色は全く違うけれど、そういう場合もある、らしい。ただ髪色以外にも何か引っかかるところがあるが、それが何なのかはよくわからない。2人を見るなら双子だと考えるのが1番近くなるが、双子だと何かが納得できなくなる。

 目の前の髪色以外全く同じ男性2人をさりげなく観察しつつ、この微妙な引っかかりは何かと考えていると、入り口の扉が開いた。姿を現したのは、30代後半から40代前半の灰色の髪の男性と、その少し下くらいの茶髪の男性。


「遅れてすまない。全員、集まっているな……ん?」


 灰色の髪の男性が部屋の中を見回して、最後に私に目が止まる。


(まさか、この人達にも挨拶しなきゃ?)


 既に1年分の会話をして、初対面の挨拶だけでは数年分行った気分の私にとって、これ以上人と言葉を交わすことはかなりの苦行だ。しかもまだ仕事は始まったばかり。

 表面上は必死に笑顔を保ちつつ、内心ではこれ以上は勘弁してくださいと平伏している。

 そんな私の心情が伝わったのか知らないが、灰色の髪の男性は思い当たることがあったというように、顎に添えていた手を下ろした。


「……ああ、今日からか。んん!では手短に済ませよう。これより定例会議を始める」

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